豊後ピートのブログ

元北アルプス槍ヶ岳の小屋番&白馬岳周辺の夏山パトロールを13シーズン。今はただのおっさん

「トムラウシ山遭難はなぜ起きたのか」を今さら読んでみた

2015年05月31日 | ツアー登山、ガイド山行
ご存知の方も多いと思いますが、「トムラウシ山遭難はなぜ起きたのか 低体温症と事故の教訓」(羽根田治、飯田肇、金田正樹 山本正嘉著 山と渓谷社)という本があります。表題の通り、トムラウシのツアーで起きた大量遭難に関する本です。だいぶ前に購入したのですが、一時行方不明になってしまい、最近になってようやく発掘できました。で、ざっくり読んだのですが、日本山岳ガイド協会が公表した報告書に出ていなかったり、あるいは違う話がちょこちょこ出てきますね。で、特に気になったのが、この部分です。

以下、同書からの引用です。


P34-35
引用
「今日の僕たちの仕事は、皆さんを山から無事に下ろすことです。なのでトムラウシ山には登らず迂回ルートを通るので、了承しておいてください」
 そのときに<スタッフやメンバーの中からは特に異論や質問はなかった>と『事故調査報告書』にはあるが、清水の証言は違う。誰が発したのかはわからないが、一部の参加者から「えー」「なんで」という声が上がったというのだ。

引用おわり


この「えー」「なんで」という発言は、間違いないく山頂を省略することに対する非難でしょう。本書でも出ていますが、当時は不安に思ったツアー参加者がガイドに対して中止を求めたなんて報道が出ていましたね。またツアー登山の「空気の圧力」によって中止を言い出せない雰囲気だった、なんてことを言ってる人もいました。しかし、実際にはツアーの続行を求める参加者が、多少なりともいたわけです。あれだけの事故が起きてしまったから口をつぐんでいますけど、死んだ人、あるいは生き残った人の中には、山頂を迂回して下山することに対して不満を持っていた人が、それなりにいるはずです。



さてもうひとつ。

P53
引用
出発前に西原ガイドが言った「今日はトムラウシ山には登らず迂回ルートを通る」という説明を聞き逃していた久保は、てっきりトムラウシ山に登るものだと思っていた。何気なく「あとは山頂へ行って写真を撮るだけだ」と言ったら、平戸に「いえ、山頂には登らず、巻き道を行くという説明がガイドさんからありましたよ」と言われたという(平戸自身の記憶ははっきりしない)。
引用おわり


これほど酷い天候なのに、山頂で写真を撮って下山するものだと思い込んでいる参加者がいるわけです。




以上のことからわかること、それは本当にヤバい悪天候がどういうものなのか、誰も分かってないということですね。



アミューズのガイドたちは参加者に気合いを入れていますが、やった対策は山頂を迂回することだけです。ボロボロな状態になっても前進を止めず、避難小屋に戻ろうとはしませんでした。ツアーに参加した客だって、不安は感じていても「避難小屋で停滞しましょう」と言ったわけではありません。不安だけれども、ガイドが行くなら大丈夫と思ってついていったわけです。

また静岡の山岳会パーティが避難小屋にいましたけど、アミューズのツアーが出発するのを見て30分後に小屋を出ています。メンバーがひとり低体温症で倒れたものの、かろうじて生還しました。生還したのは立派ですが、アミューズにつられて避難小屋を出発した判断は問題です。命を賭けてでも登りたいのであれば別ですが、そんな気持ちで出発したわけではないでしょう。

次のツアーが来るから避難小屋を出発せざるを得なかった、というネタも当時はよく出ていましたね。でも、それもおかしいです。出発したら低体温症で死ぬかもしれないと思ったら、例え避難小屋がイワシの缶詰状態になろうとも、出発しようなんて思うわけがありません。要するに、ガイドは漠然とした不安を感じてはいても、死ぬと思ってないわけです。



ガイドはもちろん、ベテラン登山者あるいは普通の登山者もですけど、大切なのは肌で感じた風雨と気温から天候を判断し、停滞を決断する能力だと思います。天気予報がわからなくても、周囲の登山者が平気な顔で出発しようとも、停滞と決めたら停滞するという決断ができるかどうか、ですね。



登山・キャンプ ブログランキングへ








7 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (AAA)
2015-05-31 23:39:34
以前にも書いたように思いますが、出発時に出発できないような天候だったんでしょうか?
自分がもしガイドだったとしたら、主にスケジュール的な理由で出発しないという判断はありえないなと思います。一歩も歩けない暴風雨とかでなければ、とりあえず出発します。
出発した上で、生きるか死ぬかの状況(そうなる前に)で、避難小屋に引き返す判断をしなかったこと、もしくは適切なビバークができなかったこと、これは大問題だとは思いますが。

どこで停滞したところで、一晩、そして翌日の行動に耐えられる食料を持っていたのか? そういう具体的な事実はわからないままですね。
返信する
Unknown (bongo-pete)
2015-06-01 03:56:36
AAA様
>一歩も歩けない暴風雨とかでなければ、とりあえず出発します

そりゃもちろん、歩こうと思えば歩ける天候ですよ。何時間身体が保つかはわかりませんけど。
返信する
登山の目的 (Unknown)
2015-06-01 09:17:08
 それは人それぞれでしょうが、私は山頂からの
眺望を楽しむことです。ですから天候がわるければ
当然視界が悪いですから、山頂に立つ意味が
ありません。山頂を迂回して下山することに対して不満を持っていた人とは対立するでしょう。
それも見ず知らずの人たちによるツアーの弱点で、
私は絶対ツアーには参加しません。
返信する
Unknown (AAA)
2015-06-04 00:33:01
bongo-pete様
>何時間身体が保つかはわかりませんけど。
ガイドは天候が回復すると予想。
当日の朝の天気図を見ていたとしても、悪天候が長引くことを予測することは困難。

>大切なのは肌で感じた風雨と気温から天候を判断し、停滞を決断する能力だと思います。
結果論でみれば、出発しなかった方がよかったに決まってますが、ツアー登山、避難小屋泊縦走、北海道まで来ての登山という諸事情を無視して出発せずに停滞する判断を、小屋の外に出てみただけの感覚で下すなんて無理でしょう。
返信する
追記 (AAA)
2015-06-04 00:37:06
>次のツアーが来るから避難小屋を出発せざるを得なかった
素人妄想的にはそういう理屈になるんでしょうが、遭難パーティーが避難小屋にデポしたテント、ビバークに使わなかったテント、後続パーティーが持ってくるであろうテントを使えば、小屋内の狭さなんてさして問題にならないと思いますが。
さらに、仲間が来るなら助けてくれるとは思わないんでしょうか? 食料を分けてくれるとか。
返信する
Unknown (bongo-pete)
2015-06-04 04:25:10
天候が回復すると予想できたら、どんな天候であっても特攻していいんですか?
ガイド連中も出発直前に「台風なみの天候」ってツアー客に言ってるわけです。(本書P35)
台風なみと感じる天候で小屋の外に出ようとする神経がよくわかりません。AAAさんの場合、台風なみの風が吹いていても、とりあえず初心者連れてツアーを続行するわけですか。私にはそんなことできませんけど、まあこのあたりは見解の違いですね
返信する
一言で言うならば (社長)
2017-04-25 21:42:28
北海道の山をナメてらっしゃる風潮が有るのかと。 まあ確かに標高は本州に比べ低いですがね、特有の状況が有ります。 緯度が高いし大型の雑食動物(ヒグマ)も居るし夏場迄残雪が有る場所も有ります。気象の変化は何となく読めますがね。      状況と場所が違いますが、アルピニスト?の女性が黒岳で滑落したり、大学ワンダーフォーゲル部がヒグマに襲われたり。      トムラウシ・・・何気に難易度高いと日頃から思う山でした。違約金払ってでも、そもそもの登山自体をキャンセルすべきだったのでは?と、道民の自分らは思うのですが・・・今更・・・ですね。 元自衛官でレンジャーバッジも持っていて冬戦教にも一時所属して居ましたが、自分なら100%登らないですね。あの日のトムラウシは。    ※暑寒別の遭難者って見つかったのでしょうか?
返信する