豊後ピートのブログ

元北アルプス槍ヶ岳の小屋番&白馬岳周辺の夏山パトロールを13シーズン。今はただのおっさん

富士山の入山料を強制的に徴収できない理由を行政の資料から考える

2022年04月24日 | 入山料・入山規制
富士山で任意の入山料(富士山保全協力金)の制度が始まったのは、2013年の夏です。この年にまずは実験として任意の支払いということで導入し、翌年には強制徴収しようぜ!!みたいな雰囲気でした。しかし10年近く経過した現在においても実現には至っていません。

2020年の2月に入山料の強制徴収を行うという報道があり、翌2021年3月にはこれを法定外目的税でやるという話が出てきました。これでいよいよ本当に強制徴収するのか?と思いましたが、2022年3月、いろいろ問題があるために本年度は見送りとなっています。

なぜ、富士山の入山料を強制徴収することが今までできなかったのでしょうか?この話題については当ブログで何度も触れてきましたが、今回は行政側の資料から見ていきたいと思います。

で、今回参考にするのはこの資料

富士山利用者負担専門委員会(令和3年2月)(PDFファイル)
http://www.fujisan-3776.jp/report/council/documents/04-01shiryou4-02.pdf

興味あるかたはダウンロードしていただいて、自分で読んでみるといいかもしれません。ここでは重要なポイントだけ抜き出してみたいと思います。




で、いきなりですが8ページ。登山者からお金を徴収するための法的根拠という話が出てきます。ちゃんと国が定めた法律に従っていないと、闇雲にお金を請求できないわけですね。

ここで「地方自治体の自主財源」として「法定外税」「負担金」「分担金」「使用料」「手数料」「寄付金」という項目が出てきますが、「寄付金」を除いては地方自治法や地方税法、地方財政法といった法律が根拠になっています。

9ページにはこれらの項目について、入山料の強制徴収に適用できるか否かを検討した表が出ています。負担金と分担金、そして手数料は不特定多数の来訪者から徴収することができないとして×印がついており、法定外税と使用料に△がついてます。

で、このページ、「使用料」についてかなり長く書かれているのですが、非常に興味深いです。まず最初に「国の営造物に関する使用料」という項目がありますが、ここに出てくる「営造物」とは国などによって公共の目的のために建てられた施設を指します。まあ入館料みたいなものでしょうか。

登山者が営造物を使用するにあたって使用料を支払うということになるのですが、富士山を営造物と見なすことができないので無理だと、山梨静岡両県からの問い合わせに対して国側はそう回答したようです。よってこの方法は無理ということに。

次に登山道は県道なので、それを有料道路ということにしてお金を徴収できないか?という案が出ていますが、これもダメ出しが出ています。道路を新設あるいは改築の予定が無ければ、有料道路としてお金を徴収できないのだそうです。

ご存知の方は多いと思いますが、一般的に有料道路は料金の徴収期間が定められていて、期間終了後は無料開放されるのが原則です。ですから既にできている登山道にこれを当てはめることができません。

また道路を県道ではなくて「公の施設」あるいは「営造物」にしてしまえば使用料が取れるのではないかという案も出ていますが、この場合、国からの補助金を返還しないとダメだとか環境保全の財源にはできないといった問題があり、デメリットが大きくなってしまうのだとか。

なかなか難しいですなあ。

このように検討を重ねた結果、富士山利用者負担専門委員会は適用可能な方法として法定外目的税がいいと結論づけています。

10ページ。ここでは富士山保全協力金制度において山梨側で3割、静岡県側で7割の徴収コストがかかっていると出ています。これを24時間体制で行うとすると、さらにコストが上昇するのが目に見えています。実際、2013年の夏に実験で行った際には静岡県側で徴収コストが実に85%に達したとという試算が出ていましたね。

11ページからは、どのような方法で徴収するのかについて、4つの案を提示しています。

①各登山口の窓口で徴収
②条件付き入域制度の手数料等と併せた徴収
③五合目駐車場料金と併せた徴収
④シャトルバス運賃と併せた徴収


①は各登山道の五合目あるいは六合目に設置した窓口で係員が徴収する方法です。法定外目的税なので、何に対して課税するのか、そして誰に課税するのかについて書かれています。この場合は富士山の五合目より上に立ち入る行為に対して課税することになり、五合目以上に立ち入る登山者に納税の義務が発生します。

この場合の問題点ですが、まず第一に徴収コストが爆上がりすることです。公平性を担保するため、24時間体制で窓口を開く必要があります。富士山の入山料強制徴収の発端は「払わないヤツがいるから不公平」ということですから、夜間は素通りOKというわけにはいかないのでしょう。

また窓口を通らずに登れてしまうため、支払い義務がある登山者を完全捕捉するのが難しいと書かれています。さらに「道路無料公開の原則」があるため、税を支払わない登山者であっても通行を禁ずることができないという、致命的な問題点があります。そりゃダメだわな…

②は五合目から上へ立ち入る登山者に対し、安全登山講習の受講などの「入域条件」をつけ、手数料に併せて税を徴収するという方法です。この場合も富士山の五合目より上に立ち入る行為に対して課税することになり、五合目以上に立ち入る登山者に納税の義務が発生します。

富士山利用者負担専門委員会ではこの方法がベストだとしており、実際にこれでやりますと報道されていましたが、検討した結果問題点が続出。2022年夏に導入予定でしたが先送りになっています。

富士登山「入域条件」課し徴収 専門委、入山料税金化で制度案
静岡新聞  2021.2.17

富士山税 結論見送り/徴収態勢、システム課題
富士山ネット 2022.3.13

③は五合目駐車場を有料化して、それに税金を乗せるという方法です。この場合は五合目駐車場に車で乗り込む行為に課税されることになり、支払い義務はドライバーになります。つまり登山者へ直接課税できないことになります。登山者が車内に1人であっても、5人であっても同じ税額になるはずです、たぶん。

この場合ですが、車両ごとに課税することになります。よって受益者負担という観点からするとちょっと問題かも、という指摘が書かれています。登山しない観光客がドライバーでも課税されるからです。また吉田口の場合は有料道路との兼ね合いで課題があるようです。

④はシャトルバスへの乗り換えを強制し、その運賃から税を取るという方法です。シャトルバスで五合目以上に立ち入る行為に対して課税され、シャトルバスを利用して五合目以上に立ち入る人に納税義務があります。

この場合の問題点は、道路交通法上シャトルバスへの乗り換えを強制できないと警察が言ってることでしょうか。路線バスや観光バス、タクシーで来る登山者に対して全員シャトルバスへ乗り換えるように強制できないので、マイカーでやってくる人だけ課税することになってしまいます。

また、この場合も③同様に登山者でない人に課税されます。


最後、21ページには富士山における土地の所有権者と管理者に関する資料が載っています。これが個人的にとても興味深かったです。

土地所有権
山頂~八合目  富士山本宮浅間大社
山梨県側一合目~八合目 山梨県
静岡県側一合目~八合目 国
登山道   国
お鉢めぐり道  国

管理者
お鉢めぐり道  国
登山道  山梨県・静岡県
下山道  山梨県側は県、静岡県側は市町
トラクター道  山小屋組合
など


この資料を何度も読みましたが、まず法律は変えられないというところがポイントですね。法律は国が定めるもので、条例は地方自治体が定めるもの、と学校で習いましたけど、自治体がなにかやろうとしたら国が定めた法律の壁にぶつかるわけで、それをいかにクリアするのかが問題になるわけですな。②の入域条件をつける案を聞いた時は「こんな方法があるのか!」と新鮮な驚きがありましたけど、それですら実現は困難というわけです。もう入山料の強制徴収は、止めてしまったほうがいいような気がします。



↓キンドルから本を出しました↓