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伏見の稲荷山は古代の祭祀場・・日本人は、なぜ狐を信仰するのか?村松潔氏(2)

2016-07-23 | 日本の不思議(現代)





村松潔氏の「日本人はなぜ狐を信仰するのか?」という本のご紹介を続けます。

リンクは張っておりませんが、アマゾンなどでご購入になれます。


             *****
  

           (引用ここから)


稲荷神社にはかならず、派手な朱色の鳥居がある。

この色は稲荷神社に多用される。

稲荷神社の使う朱は「稲荷塗り」ともよばれる。

大地の原色が赤土の赤ということから、稲荷塗りの朱は大地がもつ成長力、生命力の象徴と考えられている。

山折哲夫は、

「日本の神々はもともと姿・形をもたなかった。山に隠れ、森に宿る目に見えない存在だったからだ。

そこに大陸から仏教が伝わり、この日本列島にキラキラした金剛仏がもたらされ、豪華絢爛な寺や塔が出現した。

その大きな衝撃が、おそらく自然の背後に沈まっていた神々を刺激して、都大路への進出を促し、決然とした名乗りを上げさせたのである。

日本の神々が、我々の目には見えないその顔面に、朱を注ぎ、激情をあらわにしたのかもしれない。

〝朱の発見″である」

と、仏教の黄金に対抗した、日本特有の精神の主張としての「朱」の意義について述べている。



仏教はブッダの入滅後、長らく偶像を作ることを禁じてきたので、造形芸術というのがほとんどなかった。

ギリシャやローマの美術がインドに伝来し、1世紀のクシャナ朝時代に、ガンダーラ美術としてブッダを人の姿として表現するという、思い切った試みがなされた。

金剛神というのは、ギリシャからヘラクレス像が伝わってインド的表現へ変化したのだと言われるが、絢爛豪華の大陸の仏教の表現は、その背後にギリシャの影響が混合されたものとして到来してきたものなのである。

日本の「朱」は、この重みに対抗できるように考えられた色の主張だといえよう。




稲荷神社は、大社に関係なく、信奉する人が自由に作るということにも大きな特徴がある。

とくに東日本ではその傾向が強い。

稲荷は屋敷神として頻繁に設置されるが、伏見稲荷大社の影響下にないものも数多い。

多くの企業に稲荷があるのも、そもそも稲荷神社が自由に勧進できるからという理由も多い。

権力に結びつかないということに稲荷神社の大きな特徴があるのだ。


伏見稲荷大社の始まりと言われる時期は、秦氏の伝承によると和同年間(708-715)ということになるが、伏見の一帯は弥生中期の深草遺跡が点々と広がっていた聖地である。

稲荷山とその西麓には古代の首長の墓が点在し、一の峯、二の峯、三の峯の頂上に、それぞれ古墳が発見されている。

三の峯近くからは、二神三獣鏡(渡来もの)と変形四獣鏡(国産もの)が出土していて、およそ4世紀後半のものだと推定されている。

これらの地域は当時の祭祀場として扱われていた可能性が高く、古い時代から巫女が活動していたということにもなる。


その後に帰化人である秦氏がこの地を拠点に決めてから、秦氏の氏神信仰が主流をにぎることになった。

日本の神社のほとんどは、実は秦氏が作ったもので、古神道とは結局秦氏の信仰でもあるといえる面がある。

秦氏は4世紀ごろには大和の葛城地方に住んでいたが、それ以後分散し、主に山の傾斜したところに畑をつくった。

彼らは、もともとは養蚕と機織りを主な産業としたので、貴族階級を顧客にして膨大な富を蓄え、これが〝餅を的にして矢を射る″、というような豪奢な生活をする人の話になった。

しかし稲荷信仰のルーツとなるような山の神=作神としての信仰のことを考えると、この秦氏が実権を握る以前の歴史を考慮に入れる方がよいということになる。


そもそも伏見山自体が大きな神殿、すなわち霊山だった。


秦氏の前には、この地は茄田氏の拠点だった。

茄田氏のご神体=「竜頭太」は、昼は田を耕し、夜は薪を集め、竜のような顔をして、頭の上には光があり、夜の闇の中で輝いていたと言われる。

この「竜頭太」を信仰する聖たちは、昼は農業に従事し、夜になると竈の火に祈った。

「竜頭太」は、稲荷山の麓の草庵に住んでいて、これが茄田氏の側から見た稲荷大明神の原初の姿なのだ。



           (引用ここまで・写真(下)は東京の町田天満宮稲荷社)


                 *****


伏見稲荷大社の稲荷山のあたりは、日本の文化のパラドックスを幾重にもはらんでいると言っていいかと思います。

松村氏は、そのパラドックスに足を取られず、慎重に歩を進めているように思います。

           

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