「へンくつ日記」

日常や社会全般の時事。
そして個人的思考のアレコレを
笑える話に…なるべく

老漁師から聞いた背骨の話

2011年09月10日 14時32分03秒 | Weblog
 
50代の航空管制官。人の命を預かる重職だ。誰でも
“見識ある大人”と思うだろう。それが、なんと自
身のブログに、“テロなどで悪用される危険性”の
ある「フライト情報」を載せていたという。情報の
中には、米国大統領専用機『エアーフォース・ワン』
の来日時飛行計画も含まれていたらしい。この事件は
野田総理がオバマ大統領に謝罪する事態にまで発展し
そうだが、この管制官のあまりに軽率な行動に、関係
者からは「職責に対する危機感がなさすぎる」。「非
常識の一言に尽きる」との声が上がっている


難関の北海道大学を卒業し、農協職員を経て日本社会
党(当時)から衆議院議員選挙に立候補。選挙に通り
その後7期(7期も! 彼を当選させたのは道民…)
議員を務め、現在は経済産業大臣となった鉢呂吉雄氏
大臣になって有頂天になったのか(北海道弁で、オダ
ツという)、原発問題を抱える福島入りした後に、馴
染みの記者に自分の服をすりつけ「ホラ、放射能うつ
してやる」との子ども染みた言動。先には、福島第1
原発の周辺市町村を指して「死の町」という不謹慎発
言もあり「原発の担当大臣としてありえない」。「軽率
以前に、緊張感、真剣みがない」。「そもそも、原発
で苦しむ人の気持ちを考えようという気持ちが無い」
と、地元民からの怒りは強烈だ。更に、彼を選出した
道民らも「情け無い」。「オダッテんだ。はんか臭せぇ
奴だ!」との批判も聞かれる


彼らだけではない。政治家や人の命を預かるパイロッ
トなど、重責に就く人たちの幼稚で軽はずみな言動や
不祥事は数えるとキリが無い。一体、彼らはどうして
あのような行動をしたのか。彼らの何処に問題がある
のか…


小さな漁港に佇み、そこでたまたま知り合った老漁師
とそんな雑談をしていると、彼が思いも寄らない言葉
を返してきた

「心に背骨が無ぇのさ。フニャフニャだから、ちょこ
っとばかし突いただけで、本性が出る」
更に彼は続ける
「兄さん、プルタルコスって知ってるかね」
僕は狼狽した。聞いたことも無い名称だったのだ。地
名なのか、何かの料理の名称なのかも判らない。僕は
正直に答えた。「いや、知りません…」
老漁師は「うん」と頷き網を繕いながら言葉を続けた
「古代ギリシャ時代の物書きだ。『英雄伝』って聞い
たことはないか?プルタルコスの作品さ」



僕は曖昧に「はぁ」としか返せなかった。無知を恥じ
た。老漁師は煙草に火をつけ、大きく吸い込んだ。そ
して大量の煙をハァーと吐きながら「プルタルコスの
言葉に、ドキンとしたのがあるんだ。それはな“人間
には哲学っていう背骨が必要だ。その背骨があって初
めて、何が美しいのか、何が醜いのか、何が正義で何
が不正なのか。そして人生で起こる色々な際の選択の
一体何を選ぶべきか、どう行動するかを知ることが出
来る”。ま、そんな意味のことをな、言ったんだ」

何やら深遠な思想を聞いた気分だった。失礼ながら
こんな片田舎の小さな漁港の名も無い老漁師から、哲
学の話を聞くとは思ってもいなかった

「凄いですね。漁師さん、大学の先生みたいだ」
僕は哲学者のような老漁師の横顔を見つめながら、本
心の言葉を伝えた。すると老漁師は、前歯の抜けた口
を全開にして大声で笑った

「俺が大学の先生か、そりゃいい。尋常小学校しか出
てない教授ってのは、俺が最初だな」
老漁師は、半分ほどに減った煙草を靴底でもみ消して
それをまた煙草の箱に戻した
「インテリがよく言うだろう。正義とか、真実とかは
曖昧なもので捉えがたい。それを口にする人間は幼稚
で胡散臭くて信用ならない、って。あれは、一種の
嫉妬だ。背骨のある人間への嫉妬だ」

「嫉妬…ですか」

「自分に背骨が無いから、善悪も正邪も曖昧にして判
断できない。だからスパッと判断できる人間が羨まし
くて悔しくて我慢できないんだな。背骨がないのを知
られたら、プライドがズタズタになる。恥ずかしくて
死にたくなる。だから、それを誤魔化すために、もっ
ともらしく“真実は一つではない”なんてぬかしがる
んだ。だがな、誰がなんと言おうと、真実は一つだ」

繕い終えた網を手繰り寄せながら、老漁師は僕に聞い
た。「兄さんは、親御さんから何て言われて育った?」

「なんて…? まあ、人に迷惑をかけるな、ですかね」

「そうか…。俺は親父から毎晩のようにある言葉を言
わされた。“人がこの世に生まれてきた大きな目的は
人のために尽くすことにある。自己の名声や利益のた
めではないのであって、生まれてから死に至るまで
自分の周囲の人が少しでもよくなれば、それで生まれ
てきた甲斐があったというものである”…ってな。
知ってるかい、新渡戸稲造先生の言葉さ」



「はぁ…」

老漁師は笑いながら立ち上がり「さて、大学の講義は
終了だ。近くに寄ったらまた来な。今度は魚をアテに
一杯やろう」。そう言って港を後にした

僕は、網を担いで遠ざかる老漁師の後姿を見ていた
細く小柄だが、体の中心に、とてつもなく“太い背
骨”が通っているのが判った
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