白夜の炎

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[徐京植の日本通信] ある牧師/ハンギョレより

2013-05-23 12:52:33 | 政治



「 気持ちよく晴れた秋の午後、東京郊外の鉄道駅で待ち合わせて、久しぶりに東海林勤(しょうじ・つとむ)牧師に会った。まず、昨年体調を崩された奥さまの様子を尋ねると、近ごろはかなり回復されたとのことで、先生の表情も穏やかに見えた。奥様は慰安婦問題で支援と補償要求運動を中心的に担われた東海林路得子(るつこ)さんである。

 「私ももう80歳です」と先生牧師はおっしゃった。気づいてみると、東海林牧師と私が初めてお会いしてからおよそ40年が経ったことになる。1971年4月20日、陸軍保安司令部が私の兄である徐勝と徐俊植を「学園浸透間諜団」という容疑で逮捕したと発表した。私はその時、満20歳で、東京の早稲田大学の学生だった。

 彼らの同窓生や知人たちから救援運動が始まり日本各地に広がった。その当時、東海林牧師は早稲田大学YMCA学生寄宿舎の舎監を務めておられた。大学闘争の最盛期だった。キリスト教系の学生団体も例外ではない。学生たちは、彼に救援運動への協力を強く求めたのである。学生たちには、牧師なら反共独裁体制の韓国でも比較的自由に行動できるだろうという計算もあったのだ。告白すると、私自身もこうした計算をした一人である。いま思えば、恥ずかしいことだ。だが、徐勝、俊植となんの関係もなく、私とも一面識もなかった東海林牧師は、学生たちの求めに応じて、この困難な役割を引き受けて下さったのである。当時の学生たちの多くは若い日の志を貫くことができず、自己の小さな利害 を守るのに汲々として、いま還暦を過ぎる齢となった。すこしも揺らぐことなくこの40年を生きたのは、学生たちに担ぎ上げられた東海林牧師のほうである。

 東海林牧師はもともと、自分の苦労話などしない人だから、彼の青年時代のことはほとんど知らなかった。今回、初めて聞いたのだが、キルケゴールやドストエフスキーを耽読し、実存主義に傾倒していた彼は、政治的関心の乏しい内向的な性格だったようだ。だが、大学院で突然、神学に針路を変え、1960年代後半、留学したニューヨークのユニオン神学校でベトナム反戦運動に触れたことが転機となった。

 1971年12月8日、東海林牧師はソウル拘置所に収監されている徐勝と俊植に面会するため初めて韓国を訪れた。それが、彼と韓国とのその後の長い関係の出発点となった。維新体制下で発せられた「1973年韓国キリスト者宣言」に強く心を動かされ、日本から拉致された金大中氏の救援運動を始めとして、韓国民主化への支援連帯運動を担い続けた。

 1996年に、東海林牧師夫妻と私たち夫婦はいっしょにイスラエルを旅行したことがある。牧師である彼にとって、そこは一生に一度は訪れてみたい特別な場所だった。日本キリスト教協議会(NCC)の総幹事という職責にあった東海林牧師には、イスラエル政府から何度か招待もあったという。だが、在任中は招待を謝絶し、退任後に自費で訪れたのだ。そのようにして、イスラエル政府の対パレスチナ政策に対する不同意の意思を貫いたのである。

 その時、エルサレムのレストランでの食事中、東海林牧師がさりげなく思い出を語った。「もう時間が経ったから話してもいいでしょう。実はあの時、舎監宿舎の2階に米軍の脱走兵をひとり匿っていたんですよ…」あの時というのは、まさしく「徐兄弟を救う会」の代表を引き受けた頃のことだ。25年後になって、何でもないことのように、そんなことを言ったのである。

 80歳を過ぎた今も、東海林牧師は変わらない。原発問題にせよ、沖縄の基地問題にせよ、キリスト教会の態度が無関心や不透明であることを彼は静かに批判する。そして、こんなことを付け加えた。「私は妥協がなさ過ぎるので、他の人を居心地悪くさせてしまう。これは自分のよくない点だと、この頃になって反省しているのです」

 40年間の交流を思い返しながら、私はあえて言葉を返した。「それは違います。これが基準であると身をもって示してくれる存在が、私たちには必要なのです。先生はそういう存在です。」

 日本はいま、戦後最悪といっていい歴史的岐路に立っている。昨年の東日本大震災と福島原発事故のあと、私は自分の予感が外れることを心から願いながら、「これを契機に日本社会がファシズムへと転落する危機が迫っている」と書いた。残念ながら、現実は私が予感したとおりに進んでいるようだ。こんな時代であればこそ、日本社会の一角に、東海林牧師のような人が、誠実そのものの姿で静かに存在していたことを記録しておかなければ、と思うのである。

韓国語原文入力:2012/10/22 19:33
http://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/556922.html 訳J.S(2001字)」

http://japan.hani.co.kr/arti/SERIES/11/13823.html


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