読書と映画をめぐるプロムナード

読書、映画に関する感想、啓示を受けたこと、派生して考えたことなどを、勉強しながら綴っています。

目から鱗の「なぜビジネス書は間違うのか~ハロー効果という妄想」(フィル・ローゼンツワイグ著08年)

2009-11-24 05:21:20 | Weblog
~マネジメントに関する本の大半は「企業パフォーマンスを向上させるにはどうすればよいか」をテーマにしている。本書はそれに対し、「こうすれば成功する」というような公式は存在しないと主張する。著者は、経営戦略のプロやコンサルタントや教授や記者などの専門家がなぜ頻繁に間違いを犯すのかを示し、ビジネス誌や学術調査や最近のベストセラーなど、あちこちに見られる妄想を暴いてみせる。

「ハロー効果」とは、企業の全体的な業績を見て、それにもとづいてその企業の文化やリーダーシップや価値観などを評価する傾向のこと。業績のよい企業が、すべての面で高く評価されがちな妄想を、後光(ハロー)が射していることになぞらえた表現である。~

<目次>
第一章 わかるのはほんの少し
第二章 シスコ・ストーリー
第三章 ABBの栄光と転落
第四章 ハロー効果のまばゆい光
第五章 企業調査は答えを教えてくれるのか?
第六章 星を探し、ハローを見つける
第七章 積み重ねられる妄想
第八章 ストーリー、科学、多重人格的超大作
第九章 ふたたびビジネスの最大の疑問
第一〇章 エセ科学に惑わされないマネジメント

「なぜビジネス書は間違うのか」という唐突な本書のタイトルに、そんなビジネス書あるよねーと思う方々も少なくないと思いますが、本書の槍玉に挙げられるのは、トム・ピーターズとロバート・ウォーターマンによって書かれ、1983年に大前研一さんによって邦訳された「エクセレント・カンパニー」であり、1995年に出版されたジェームズ・コリンズの「ビジョナリー・カンパニー」という日米でベストセラーになり、今も読まれているビジネス書の両雄であります。私も当時、読みました。

そのビジネス書のバイブルといわれて久しい両書に加え、2003年に出版されマイケル・ポーター、トム・ピーターズが絶賛したという「ビジネスを成功に導く「4+2」の公式」(ウィリアム・ジョイス、ニチィン・ノーリア、ブルース・ロバーソン著)も同類として扱われます。

さて、そんな本書の原題は、
The halo effect...and the eight other business delusions that deceive managers

「ハロー効果・・・そして経営者を惑わす八つの異なるビジネス妄想」と訳したらいいのでしょうか。このバイブルたちの大きな悩ましい陥穽は、どんなに精緻な調査であっても、基にしている資料が「業績」という「結果」に対し評価されたものである以上、ハロー効果によってバイアスがかかってしまっているために生じるものだと著者は述べます。

著者は本書の結論として次のように述べています。

~本書でいちばん伝えたかったのは、ビジネスについて私たちの考え方が多くの妄想でかたちづくられているということである。妄想に囚われずに、ほんの少しだけ批判的にビジネス書を読んでほしいというのが企業マネジャーたちへの私の願いだ。夢を抱き、希望を膨らませるのもいいが、少しだけ現実的な目で見直してほしい。とくにつぎのことを覚えておこう。

・もし独立変数が従属変数と切り離して測定されていなければ、私たちはハロー効果にどっぷり浸かっている危険がある。

・データにハロー効果が含まれているなら、どれほど多くのデータを集めても、どれほど厳密な分析に見えても、意味はない。

・成功は私たちが望むほど長続きしない、永続する成功とは、結果が出てから好ましい事実だけをつなぎあわせてつくりあげられた妄想である。

・企業パフォーマンスは相対的なものであって、絶対的なものではない。企業はさらに成長する可能性があると同時に、さらに不振に陥る可能性がいつもある。

・成功した企業の多くがいちかばちかの大きな賭けをしたのは事実かもしれないが、大きな賭けが成功につながった例は多くない。

・ビジネスの物理法則を発見したと主張する者は、例外なくビジネスというものをほとんど理解していないか、物理学をほとんど理解していないか、あるいはどちらも理解していないかである。

・成功の秘訣を知ろうとしても、ビジネスの世界については何もわからない。わかるのは秘訣を知ろうとする者の強い願望、確実なものへの憧れである。


これらの妄想を拭い去ったら、そのあとはどうすればいいだろうか。業績向上を目ざして会社の舵取りをするとき、知恵ある経営者はつぎのことを心得ている。

・どんなによい戦略にもリスクがある。もし愚か者でも失敗しない確実な戦略を策定したと思う者がいたら、愚か者は本人かもしれない。

・実行にも不確定要素はつきものである。ある会社でうまくいったことも、社員も何もかも違う別の会社では、結果も違ったものになるだろう。

・ビジネスは私たちが考える以上に、そして成功した経営者が認める以上に、運は大きく左右される。

・原因と結果の関係は明確ではない。失敗しても経営者の判断ミスのせいとは限らず、成功も経営者の手腕のおかげとはかぎらない。

・だが、いったん賽を投げたなら、すぐれた経営者は社運をツキにゆだねることなく、粘り強さと熱意こそがすべてであるかのように行動する。


~リーダーシップや企業文化や顧客志向など、いつも決まって候補に挙がるものは業績アップの要因ではなく、業績のよさから跡づけた理由と考えたほうがいい。それらをとり去れば残るものは二つ、戦略の選択と実行である。前者は、社内環境のほかに顧客と競合企業とテクノロジーを考慮しなくてはならない。だからリスクがある。

後者は、同じことをしても組織によって効果が異なるので、成果が確実ではない。安直な攻略法がほしくても、現実のマネジメントは私たちが思う以上に複雑で、心地よいストーリーがささやくよりもはるかに不確実なのである。

知恵ある経営者は、ビジネスとは成功の確率を高める方法を見出すことだと認識している。成功が確かなものだとは決して思っていない、企業は適切な戦略うぃ選択し、業務の効率化につとめ、なおかつ幸運に恵まれれば、少なくともしばらくはライバルに差をつけることができるだろう。

だが、そうして手に入れたものも、やがては消えていく、現在の成功はつづく成功を保証してくれるわけではない。成功は新しい挑戦者を引き寄せ、そのなかには現在の成功者以上にリスクを厭わない者がいるからである。

これでおわかりいただけただろう。ストーリーとして魅力があっても、成功の公式など存在しない、それはトム・ピータースも認めているとおりなのである。「超優良であるためには、一貫性がなくてはいけない。だが、一貫性があると攻撃を受けやすい。たしかにそれは矛盾だ。さあ、その矛盾に立ち向っていこう」~


著者は本書の冒頭に手本している知恵者として、「人工知能の父であり、意思決定の研究でノーベル経済学賞を受賞し、1940年代後半から2001年に他界するまでカーネギーメロン大学の教授を務めた」故ハーバート・サイモン、物理学者のリチャード・ファインマンの名を挙げています。


<ハーバート・サイモン - Wikipedia>
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%83%BC%E3%83%90%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%BB%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%83%A2%E3%83%B3


<リチャード・P・ファインマン - Wikipedia>
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AA%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%BC%E3%83%89%E3%83%BBP%E3%83%BB%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%9E%E3%83%B3


そして、著者は最後に「妄想に惑わされることなく、ものごとを曇りない眼で正確にとらえているすぐれた経営者」として取り上げているのが次の三人です。

世界最大級の投資銀行・ゴールドマン・サックスの元共同経営者でクリントン政権の財務長官だったロバート・ルービン。

<ロバート・ルービン - Wikipedia>
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AD%E3%83%90%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%BB%E3%83%AB%E3%83%BC%E3%83%93%E3%83%B3


世界最大の多国籍半導体メーカー・インテルの共同創業者アンドルー・グローヴ。

<アンドルー・グローヴ - Wikipedia>
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%AB%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%82%B0%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%B4


米Logitech社長兼CEOのゲリーノ・デルーカ

<Guerrino De Luca - Wikipedia>
http://en.wikipedia.org/wiki/Guerrino_De_Luca


フィル・ローゼンツワイグ:
スイスのローザンヌにあるIMD(国際経営開発研究所)の教授。IMDでは世界をリードする多国籍企業の戦略について研究している。北カリフォルニア出身の同氏はカリフォルニア大学サンタバーバラ校で経済学を、カリフォルニア大学ロサンゼルス校で経営学を学んだ。ヒューレット・パッカード社で6年間働いた後、フィラデルフィアに移り、ペンシルベニア大学ウォートンスクールで博士号を取得する。ハーバードビジネススクールで6年間過ごした後、1996年にIMDの一員に加わった。

<Professor Phil Rosenzweig>
http://www.imd.ch/about/facultystaff/rosenzweig.cfm?bhcp=1

<備忘録>
カーゴカルト・サイエンス(積み荷信仰の科学)(P39)、CEO・オブ・ジ・イヤー(P79)、ハロー効果/エドワード・ソンダイク(P91)、認知的不協和/個人にあたえられた情報に矛盾があるとき生じる不快感(P91)、応答時間(P94)、企業評価(P94)、世界で最も賞賛される企業(P104)、相関関係と因果関係/エドウィン・ロック(P122)、企業パフォーマンスの決定的要因の特定の困難さ(P132)、「エクセレント・カンパニー」(P139)、「エクセレント・カンパニー」の8つの原則(P142)、「エクセレント・カンパニー」の陥穽(P144-145)、「ビジョナリー・カンパニー」(P153)、卓越した企業と先見的な企業(P165)、ビジネスを成功に導く「4+2」の公式、ウォルマートの報告書(P179)、相対と絶対(P182)、ホッケースティック曲線(P184)、BHAG(ビーハグ)(P200)、スイートスポットとサワースポット(P204)、同じ基本(P212)、絶対的妄想と解釈のまちがいという妄想(P214)、オッカム剃刀(P220)、戦略とは(P223)、結果は確実に予測できない~戦略にはリスクが伴う~(P225)、戦略的リーダーシップとは(P232)、固有の偶発性と因果曖昧性(P234)、企業パフォーマンスを向上させるには(P239)、裁定取引とは(P248)、ロジテックの成功/ゲリーノ・デルーカ(P260)

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