読書と映画をめぐるプロムナード

読書、映画に関する感想、啓示を受けたこと、派生して考えたことなどを、勉強しながら綴っています。

不都合な真実への確かな打開策、「未来をつくる資本主義」(スチュアート・L・ハート著/2008年)

2009-11-23 06:31:18 | 本;ビジネス
<目次>
プロローグ
第1部 世界を俯瞰する(企業責任からビジネスチャンスへ;不調和な世界;持続的価値ポートフォリオ)
第2部 環境保護を超えて(創造的破壊と持続可能性;下向きの大躍進;ピラミッドの底辺を目指して)
第3部 土着化する(帯域幅の広い企業へ;ネイティブ力を身につける;持続可能なグローバル企業へ)
エピローグ

グローバル経済下、投資家たちのマネーが更なる利潤を求めて世界を飛び交う。その様はまさに狩猟社会の現代版。世界中にもともとあった格差は資本主義社会の中でその貧富の度合いを広げる。1961年にドイツ国内を東西に分断したベルリンの壁が1989年の11月9日に崩壊したことは、共産主義瓦解への先駆けとなったが、現在はその資本主義への懐疑が。

オバマ政権が主唱するグリーン・ニューディールは、マネーに翻弄され食い散らされた平原にあらたな種を蒔くことになるのか、あるいは再びあらたな獲物が生息する新天地を造るだけなのか。今のところ私にわかるのは、マイクロジェネレーション、低炭素社会といった環境政策への転換と金融システムの再構築といったアウトラインだけ。

それは大筋、日本も同じ。私は、地球温暖化=CO2悪役論には必ずしも与しない立場であり、そもそも今の温暖化現象は宇宙という壮大なシスステムでくり返される環境変動の一つとしか思っていません。とは言え、世界が省エネルギー化にパラダイムを返還し、あらたな技術の開発に拍車がかかることは望ましいことに違いない。

しかし、それで世界中に蔓延する格差は解消に向うのか?世界に目を向けるまでもなく、この日本が直面している高齢、少子社会と閉塞したままの労働市場への起爆剤となりうるのか?前政権が打ったエコ減税、高速道路値下げの経済対策は多少なりとも効いているかもしれないが、その恩恵にあずかるのは今のところ経済的に困窮していない層ですね。

そんな暗い見通しに辟易していた今日この頃、手に取った本書を読んで、目の前にかかっていた靄が晴れたような思いになりました。前置きが長くなりましたが、本題に入ります。


著者は現代を「不調和な世界」と認識し、次のような問題意識を持っています。

<不調和な世界>(P61)
~貧困問題は富の再分配によって解決できると考える人は多い。が、よく考えればそれも非現実的な話だ。世界の大富豪700万人の総資産(およそ25兆ドル)を最も貧しい40億人で分けたとしても、一人につき6000ドルをたった一回払うだけでなくなってしまう。これではとても有効な対策とは呼べない。結局、最も貧しい人々の生活水準を上げるには、膨大な規模の新たな富を創り出す以外にはない。もしかすると世界の経済活動を今の十倍に増やさなければ、80~100億人の生活を支えられない可能性もある。~


そして、この「不調和な世界」で取るべき進路を次のように述べます。

<下向きの躍進>(P157)
~企業が発展しつつ、同時に社会や環境面での利害関係を満足させる最良の方法、それは、新興市場に目を向けることである。と言っても、既存市場の延長線上にある途上国の少数富裕層や新興中流階級をターゲットに市場を拡大すべきだと言っているわけではない。

そうではなく、とるべき道は「下向きの大躍進」、つまりグローバル化に取り残され、あるいはその犠牲になった40億を越える人々によって構成される経済ピラミッドの底辺を目指すことである。そこには企業にとってこの上なく魅力的な未来の市場と、すばらしい将来ビジョンを築く土台となるものが存在している。そこはまた、経済成長に伴う社会や環境の課題に対処するための破壊的技術を育成し、発展させる最適の場所でもある。~


この「下向きの大躍進」に欠かせないポイントを次のように指摘します。

~ビジネスチャンスを見つけることは、BOP(Base of the economic Pyramid)で成功するための第一歩にすぎない。成功戦略には製品やサービスで真のニーズに応えることが必要だが、それだけでは不十分だ。ビジネスを展開しようとする地域と環境への効果をビジネスシステム全体として評価することが同じくらい重要だ。

つまり、ビジネスシステムのトリプルボトムライン(社会、環境、経済の三側面おける成果)の影響をモニターして評価するということだ。なぜこれが必要なのかと言えば、プラスであってもマイナスであっても最大の影響は、直接の製品やサービスを通じてではなく、企業活動の上流(供給チェーン)または下流(最終用途)効果を通じて感じられることが多いためだ。~

もう少し詳しい内容はコチラで↓
<未来をつくる資本主義(1) ~環境保護を超える企業>
http://ekojin.com/?p=3170


スチュアート・L・ハート(Stuart L.Hart);
持続可能な開発と環境保護に関するビジネス戦略研究の世界的権威。コーネル大学ジョンソンスクール、サミュエル・C・ジョンソンSustainable Global Enterprise寄附研究部門教授および経営学教授。ミシガン大学デビッドソン研究所およびオランダのティルブルク大学の上級研究員でもある。現職以前は、戦略経営学を教える傍ら、ノースカロライナ大学ケナンフラグラー・ビジネススクールにCSEを、ミシガン大学にCEMPを創設する。

ハーバード・ビジネス・レビュー誌の最優秀論文に贈られるマッキンゼー賞を受賞した1997年の「環境保護のむこうに:『持続可能性』のための経営戦略」で、持続可能な企業経営に向けた動きに先鞭をつける。さらに2002年にC・K・プラハラードと著した先達的な共同論文「ピラミッドの底辺に眠る富」で、開発途上地域の貧困層40億人のニーズに応え、同時に利益を上げるビジネスの可能性を最初に示す


*冒頭に記載のある、本書を賞賛するクリステンセン、プラハラード、ユヌス、センゲとは次の方々。

ハーバード大学ビジネススクール教授クレイトン・クリステンセン、著書に「「イノベーションのジレンマ」。

<クレイトン・クリステンセンが語る 教育の破壊的イノベーションのすすめ>
http://diamond.jp/series/worldvoice/10041/


ミシガン大学経営大学院の企業戦略および国際ビジネスのハーヴィ・C・フルハーフ記念教授C・K・プラハラード、共著に「コアコンピタンス経営」。

<C. K.プラハラード 新しい戦略観 | 世界のビジネスプロフェッショナルたち>
http://diamond.jp/series/bizthinker/10049/


グラミン銀行総裁、マイクロクレジットの創始者でノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌス。

<ムハマド・ユヌス - Wikipedia>
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A0%E3%83%8F%E3%83%9E%E3%83%89%E3%83%BB%E3%83%A6%E3%83%8C%E3%82%B9


マサチューセッツ工科大学(MIT)スローン経営大学院の組織学習センターの責任者で「最強組織の法則」の著者ピーター・センゲ。

<ピーター・センゲ 学習する組織 | 世界のビジネスプロフェッショナル>
http://diamond.jp/series/bizthinker/10007/



<備忘録>
2006年炭素市場250億ドル(二酸化炭素に価格をつける)(P5)、クロノセントリズム(P12)、人口増加(P13)、グローバル経済の規模(40兆ドル)(P14)、ミレニアム生態学(P15)、MNC (Multinational Corporation/多国籍企業)とその規模(P18)、持続可能な起業とは(P22)、レスポンシブル・ケア(P35)、スチュワード・シップ(P35)、TRI(P36)、EPR(P37)、プロダクトスチュワードシップ(P38)、~ゆりかごからゆりかごまで~ゼロックスの戦略(P38)、BOP(P42)、スマートモブズ(P47)、HLL(P50)

環境負荷(I=人口P×豊かさA×技術T)(60)、バイオミミクリー(P62)、エコロジカル・フットプリント(P63)、
貨幣経済(P61)、伝統経済(P65)、自然経済(P68)、SVA(P76)、新興市場におけるビジネスチャンス(P79)、アグロフォレストリー~アラクルース・セルロース社、フィンガーレイクス・アクアカルチャー社~(P81)、伝統市場(P83)、使用時浄水装置~P&G、KXインダストリー、WHI~(P85)

持続可能性とは(P101)、2×2マトリックス(P96)、~B24B(P101)、ダウケミカル(PWRAP)、シェブロン(SMART)、3M(3P)~(P102-3)、コーズ・リレイテッド・マーケティング(P105)、ナイキのリユース・ア・シュー(P107)、環境技術とは(P108)、GEのエコマジネーション(P109、135)、グラミン銀行(ムハマド・ユヌス)(P110-111)、持続価値ポートフォリオ(P114)、持続可能な開発とは(P130)、創造的破壊(フォスター・カプラン)(P133)、ブルーオーシャン戦略としてのGE、バーリントン・ケミカル、ミセル・レクノロジーズ(P141)

下向きの躍進(P157)、持続可能性のための経営戦略、起業帝国主義の終焉(プラハラード&ベルサール)(P158)、BOPの日本(P168-9)、格蘭仕(ギャランツ)の電子レンジ(P170)、パトリモニ・オイ(P200)、キックスタート(P203)、アウトリーチとインリーチ(P206)、ダイムラークライスラーとPOEMA(P207)、デジタルデバイトとデジタルディビデンド(P208)、トリプルボトムライン(P213)、MNCの優位性(P219)、ラディカル・トランザラクティブス(P234)、レクサスとオリーブの木(P259)、モハメッド・バー・アッバ(P260)、リアルオプション分析(P266)、オーナシップ(P315)


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