歌わない時間

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ディック・フランシス『帰還』

2009年04月22日 | 本とか雑誌とか
ディック・フランシス/菊池光訳『帰還』(ハヤカワ文庫)読了。32歳の外交官の男が日本での勤務を終えてロンドンの外務省に転勤になる。帰国の途中フロリダで知り合った老夫婦をエスコートして、たまたま自分が少年期をすごしたチェルトナム近郊へ。そこで馬が次々に死んでいて、主人公はその謎の渦中に飛び込んでいく。

『帰還』は日本が舞台になるわけではないけれど、日本大使館での勤めを終えたばかりの主人公はもちろん日本にくわしく、それに競馬場で二人連れの日本人を見かけて声をかけたことがきっかけでヒロインと知り合うし、今回ポイントになる毒物が日本人にはよく知られたあるものだったりするし、日本人に相当サービスしてますよ。日本および日本人に関してあれだけ言及がありながら、悪口めいた箇所はぜんぜんないんだもの。「競馬シリーズ」のマーケットとしての日本を相当意識した作品です。

主人公が外交官で、たまたま知り合った獣医の窮地を救うために探偵に乗り出す、という筋立てにやや無理があるような。そのせいか、今回は例の「やられ」シーンがあんまりありません。途中ヤなやつに一回なぐられるのと、最後のところでお約束で罠にはまるくらい。

ディック・フランシスは、キャラクターを語るためのエピソードを思いつく才能がとても豊かです。この小説の基本がしっかり押さえてあるからこそ面白いのね。ほんとにうまいです。今回は競馬場での「エイト」のエピソードに感心した。

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