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歌わない時間

言葉と音楽について、思うところをだらだらと。お暇な方はおつきあいを。

アーノンクール『ヘンデル_合奏協奏曲集Op.3/Op.6』

2010年02月14日 | CD ヘンデル
Handel
Concerti Grossi Op.3 & 6
Concentus Musicus Wien
Nicolaus Harnoncourt
4509-95500-2

1981,83年ごろ録音。71分02秒/49分04秒/64分58秒/55分06秒。Teldec。Op.3はADD、Op.6はDDD。再発廉価盤。CD1がOp.3。CD2-4にはOp.6が順番どおり4曲づつ入ってます。Op.3は正直、ちょっと荒っぽすぎると思う。でもOp.6はいい。荒々しいというよりは豪放磊落で肉食系。でもそれだけぢゃない。アーノンクールは歌うところでちゃんと歌える人なんだよなあ。ヘンデルにふさわしい。そこが唐突ながらガーディナーとの決定的な違いだ。このOp.6の面白さはマンゼといい勝負でしょう。すくなくともホグウッドのOp.6よりはアーノンクールのこの録音のほうがよほど満足できると思いますよ。

マンゼのOp.6はたしかにすばらしい。聴き手を飽きさせないためにあの手この手を尽くしてCD2枚、退屈せずに聴かせてくれる。一方このアーノンクールのはというと、マンゼとちがって、ガツガツしてない、アーノンクールの地でいっている。それでいてこれだけ面白いんだから。ただ、管楽器を加えたり、通奏低音にチェンバロとオルガンを使い分けたり、そういう工夫はしています。

たしか広島パルコのHMVで買ったんだと思う。ていうことはもうそうとう前に手に入れていたCDですが、なにしろあらあらしい演奏だったという記憶だけが残っていて、しばらく聴いていませんでした。でも久しぶりに聴いたらよかったんですよこれがまた。

ガーディナー『ヘンデル_エイシスとガラテア』

2010年02月12日 | CD ヘンデル
Handel
Acis and Galatea
Burrwes, Rolf Johnson, Hill, White, Elliott
English Baroque Soloists
John Eliot Gardiner
POCA-2155/6

1978年2月録音。41分41秒/53分28秒。Archiv。この『エイシスとガラテア』は1717年から18年ころの作で、ヘンデルはまだ三十代の前半。溌剌たる牧歌劇。それをまだ大家になる前のガーディナーがみずみずしく描き出しています。ガーディナーのアルヒーフへのデビュー録音。時代楽器に転向しての第一作でもありました。アルヒーフへのヘンデルはこのあと『ヘラクレス』があり、どちらもすぐれた演奏です。

ヘンデルの劇場音楽ていうとオペラにしろオラトリオにしろ脂っこいコッテリ系のが多いわけですが、『エイシスとガラテア』はそうではない。まだメタボになる前のヘンデル、って感じ。爽やかな青春の音楽。この作品はもうちょっと知名度が高くてもいい。

エイシスのアリア"Love in her eyes sits playing"は、ヘンデルのテナーのためのアリアとして出色のもの。エイシスとガラテアの二重唱"Happy, happy we!"もさいきんよく演奏されます。ポリフェーモスのサクランボのアリアも有名でターフェルがアリア集で歌ってた。つまり、『エイシスとガラテア』はすぐれたアリアが多い。重唱もいい。どれも込み入った曲ではないけれどもシンプルですてき。

キャストも充実しています。ノーマ・バロウズは、このあと録音する『セメレ』は手に余ってたけど、このガラテアにはぴったりのリリカルな声質で、好演。ロルフジョンソンはまだ若くて、ビブラートも気になりません。デイモン役はマーティン・ヒルで、この人のソロはときどき重いノド声になって、聴いていてつらいこともあるんですが、ここでは彼本来の明るめの声で爽やかに歌っています。ロルフジョンソンとヒルとは、少なくともこのころはどちらもリリック・テナーといってよいと思いますが、声質がまるで異なり、はっきりと役柄が描き分けられています。このあたりのキャスティングの妙はいかにもガーディナーらしい。ポリフェーマスはジャマイカ出身のウィラード・ホワイト。朗々とした立派な声で、ポリフェーマスという役の強さをよく引きだし、かつバロック音楽らしい品格もあって、すばらしい。この人にはほかにもヘンデルを歌っておいてほしかった。なおホワイトは、70年代後半に収録されたグラインドボーンの『魔笛』のDVDに出ていました。三人目のテナーのポール・エリオットはコーラス要員としての参加。つまりコーラスのパートはSTTTBを上記の歌手たちが重唱で歌っています。

カーニン『ヘンデル_セメレ』

2010年01月24日 | CD ヘンデル
Handel
Semele
Joshua, Croft, Summers, Sherratt, Pearson, Wallace
Chorus of Early Opera Company
Early Opera Company
Christian Curnyn
CHAN 0745(3)

2007年録音。59分44秒/46分02秒/63分14秒。CHANDOS-CHACONNE。はじめて聴く完全版の『セメレ』。ただし、ヘンデルの楽譜にはあったけど初演のときに削除されたキューピッドのアリア(ガーディナー盤には収録)はここでは省略されています。クリスチャン・カーニンて人の指揮ぶりに不安があったんですが、ていねいな指揮で、まあまあだいじょうぶでした。芯になるローズマリー・ジョシュアとリチャード・クロフトの出来がいいので、ちゃんと聴いた、って気になります。

カーニンは『セメレ』を壮大なオラトリオというよりは情念渦巻く室内オペラふうに作っていく。ここでのセメレは、ガーディナー盤の清楚なセメレとはちがってなまなましい女の肉体を持っている。ただこういう行き方するならもうちょっと踏み込むべきでした。どこがどう足りないとはいえないけどちょっとばかり彫りが浅い。音楽が前へ前へと突き進んでいく力がちょっとばかり足りない。これはかなり微妙なレベルの話だとは思いますが、わたしはそう感じました。原曲どおりにやる、というのも善し悪しで、とくにCD1(第1幕)は劇の進行を止めてしまう長いアリアが多すぎる。それを削ったガーディナーの決断は納得できるものですわ。

ジョシュアはこれ以前にもヘンデルを歌っていましたけど、わたしはこの《セメレ》でああこの人いい歌手だなとはじめて思った。この人の歌うセメレはキッパリとしていて、色気もあって、そしてテクニックも決まっていて、安心して聴いてられる。

ジュノーとイノーをヒラリー・サマーズというアルトがひとりで歌っている。ヘンデル当時もひとりで歌ってたんでしょうが、これは善し悪しですな。ガーディナー盤ではジュノーをデラ・ジョーンズ、イノーをキャスリーン・デンリーが歌い分けてました。そのほうが聴いていて無理がない。サマーズは、イノーに関してはこれでいいと思います。しかしデラ・ジョーンズのあの圧倒的に強烈なジュノーを聴いたあとでヒラリー・サマーズを聴くと無個性でただ気味の悪いだけ、って感想になる。まあそう貶すこともないか。でもイマイチですよ。

ほかにリチャード・クロフトはジュピターのほか最後にちらっと出てくるアポロのレチタティーボも担当、バスのソリストであるブリンドリー・シェラットBrindley Sherrattはカドムスとソムスの2役。男声はどの人も実力じゅうぶんで不満はありません。

合唱はわりと自由に開放的な歌い方してますが粒が揃っていてなかなかよい。

マロン『ヘンデル_エジプトのイスラエル人』

2009年05月25日 | CD ヘンデル
Handel
Israel in Egypt
Albino, Brown, Enns Modolo, Mahon, McLoed, Nedecky, Roach, Such, Watson
Aradia Ensemble
Kevin Mallon
8.570966-67

2008年録音。70分20秒/48分33秒。NAXOS。正真正銘の新録音なのに歌詞が省略されているのは減点です。1cmの厚みのケースにCD2枚収めているんですが、工夫すれば歌詞も載せられたはず。CD1に「ヨセフの死によせるイスラエルの民の嘆き」「出エジプト」、CD2に「モーセの歌」。CD1に第2部のおしまいまで入れたのはよかった。他のセットでは、「出エジプト」の途中でCDを入れ替えることがあるので。

ちかごろ大活躍のケビン・マロンですがヘンデルのオラトリオは確かこれが初めて。演奏は……、悪くもなければさほどよくもない。ちょっと残念です。わたしはこの曲については他のいい録音を聴いてしまってるからね。合唱はときに荒くなりますがまあまあ合格点をつけていもいい。でもソリストが弱い。北アメリカの中堅の声楽家たちのようですが、たとえばボストン・バロックの録音に登場する人たちと比べるとちょっと格下かなと思いますね。いえね、ほかの録音でたとえばガーディナー盤は合唱団からソリストが出てるのですが、それはそれでちゃんとサマになってるのよ。しかしこちらのアラディア盤のCDのソリストたちはいまいち板についてないというか。

2枚組で2,000円くらいなので安価ですが、歌詞がないことを思うと、ほかのを選んだ方がいいかもしれませんよ。

ペトルー『ヘンデル/タメルラーノ』

2009年05月08日 | CD ヘンデル
Handel
Tamerlano
Spanos, Katsuli, Nesi, Christoyannis, Karaianni, Magoulas
Orchestra of Patras
George Petrou
MDG 609 1457-2

2006年録音。66分09秒/60分37秒/65分03秒。MDG。ギリシャのチームによるヘンデル。いやお見逸れしました。すばらしい。実際に上演もされたプロダクションだそうです。聴いていて危なげがない。実力ある歌手たちが、手なれた時代楽器のオケにサポートされて、自信持って歌っています。

『タメルラーノ』は先づ個々のアリアが音楽としてすぐれていて、かつ台本も悪くないのでドラマの糸が最後まで途切れずに聴き手を引っ張っていく。やはりいい作品だとあらためて思いました。

指揮のGeorge Petrouはギリシャの人のようですが世界的に活躍するまだ若手の指揮者。いくつか分かりませんけど、写真が最近のものだとすると、せいぜい40代の前半かそれよりも若いくらいだと思います。ローカル臭などみじんもなく、今日の最先端のレベルのヘンデル演奏をなしとげている。グラモフォン・エディターズ・チョイスにも選ばれました。このエディターズ・チョイスというのは当てにならないこともありますが、このCDについては当てにしていいです。

歌手は名前を聞くのも初めての人ばかりですが、実力のある人たちで、不満を感じさせません。バヤゼットのTassis Christoyannisはバリトンとのことですが、重めのテナーとも言えるほどよい声質で、作品の核になるキャラクターをみごとに造型しています。タメルラーノのNicholas Spanosは昔なつかしい感じの、鼻にかかったカウンターテナーらしい声ですが、メリスマのテクニックもあって、ところどころ地声も混ぜて、なかなか個性的な歌いかた。メゾ・ソプラノが歌うアンドロニコ、そのほかアステリアやイレーネもそれぞれしっかり歌えて聴きごたえがある。古楽プロパーではなくてオペラ歌手として幅広いレパートリーを持つ人たちのようですが、指揮者がこれらの歌手をしっかりたばねて、21世紀のヘンデルらしくすっきりと、かつ劇的に仕上げています。

『タメルラーノ』についてはマルゴワールのがピンと来ず、ガーディナーとピノックはついスルーしてしまったのですが、このベトルー盤がしばらくは定番になるでしょう。

ガーディナー『ヘンデル/エジプトのイスラエル人』(再録音)

2009年05月04日 | CD ヘンデル
Handel
Israel in Egypt / Zadok the Priest / The King Shall Rejoice
Holton, Priday, Deam, Stafford, Chance, Colin, Kenny, Robertson, Salmon, Tindall, Tusa, Clarkson, Purves
Monteverdi Choir
English Baroque Soloists
John Eliot Gardiner
473 304-2

1990,93年録音。PHILIPS。33分47秒/69分31秒。ガーディナーの『エジプトのイスラエル人』再録音。第一回の録音は1978年で、モダン楽器でおこなわれました。今回もガーディナーは第一部の「ヨセフの死を悼むイスラエルの嘆き」を省略して序曲からすぐに第二部冒頭につなげ、「出エジプト」「モーセの歌」の二部構成にしています。BCJでやったときもこの構成だったんでしょ。たしかに第一部は完全にアンセムのスタイルで、「出エジプト」以下とは雰囲気が違いますわね。だからといって省略されちゃうとやっぱさびしいものがありますが。

わたしは『エジプトのイスラエル人』に関しては、ガーディナーの第一回録音に思い入れがあるのですよ。ポール・エリオットが出て活躍していたし、モダン楽器の録音ながらプレイヤーの若々しい熱気が伝わってくるいい演奏だった。ところがこの再録音にはもちろんエリオットは出ていないし、第一回とおなじく第一部をカットしていると聞いて、二の足を踏んでいた。

しかし実際に聴いてみると、完全全曲盤ではないというハンディはあるものの、なかなか密度の高い演奏を繰りひろげてます。合唱団の表現力の幅広さが試されるこの手の作品となるとモンテベルディ合唱団はここぞとばかりに聴かせますからねえ。

ソリストは合唱団員から出てる態で、すでにソリストとしても活躍しているルース・ホルトンやマイケル・チャンスも参加。エリオットほどの美声はいませんが安定した力でそれぞれの持ち場をこなしています。クライマックスのところで無伴奏で歌うソプラノのドナ・ディームもみごと。クレジットされているうち、エリザベス・プライデイとアシュリー・スタッフォードは第一回録音にも参加して、ソロを務めていました。

『エジプトのイスラエル人』はガーディナーにとってもモンテベルディ合唱団にとっても実に似つかわしい演目で、彼らのトレードマークのようなレパートリーなのだと思います。たしか来日した際にも持ってきたことがありました。それだけ歌い慣れてもいるのでしょう。そのことがこの録音に出ている。第一回録音とくらべて表現はより緻密になっている。けれど、十二年前のみずみずしい感動はやや薄まって、年を重ねた余裕に置き換わっている。

埋め草に「戴冠式アンセム」から二曲歌っていますが、どうせなら全四曲歌ってくれたらよかったのに。

わたしが買ったのはPHILIPSのDUOというシリーズに組み込まれた再発盤で、歌詞は省略されています。現在は歌詞つきの廉価盤が出ている模様。

ガーディナー『ヘンデル/ソロモン』

2009年04月28日 | CD ヘンデル
Handel
Solomon
Watkinson, Argenta, Hendricks, Rogers, Jones, Rolfe Johnson, Varcoe
Monteverdi Choir
English Baroque Soloists
John Eliot Gardiner
35CD-319/20 (412 612-2)

1984年録音。68分40秒/67分26秒。PHILIPS。ガーディナーが『メサイア』に続いてフィリップスに録音したオラトリオ・シリーズの第2作でした。国内盤の番号から分かるように、買った当時、CD1枚が3,500円で、2枚組が定価7,000円したもんですよ。わたしは大学生協で買ったので割引きしてもらえましたけどね。それにしても学生にとっては高い買い物でしたわ。

『ソロモン』は古くはビーチャムの録音もあって、ヘンデル再評価以前から聴かれていたようです。第3幕の「シバの女王の入城」がとくに有名ですが、雄弁な合唱も聴き応えがあり、独唱や二重唱にもよい曲が多くて、全体にすぐれた作品と言えます。

ガーディナーの前作『メサイア』よりもこの『ソロモン』のほうがより伸びやかな演奏。実に高い水準でバランスがよくとれている。それにガーディナーが時に感じさせるあざとさがない。『メサイア』の翌年にこの『ソロモン』が出たとき、「いよいよガーディナーはいい感じになってきた、この先どんなすばらしいヘンデルを聴かせてくれるんだろう」とそりゃわくわくしたものです。

(『メサイア』にはじまったガーディナーのフィリップスへのヘンデル・シリーズはこのあと数作つづいていくわけですが、しかしけっきょく、総合点でもっとも優れていたのがこの『ソロモン』でした。『メサイア』も、『サウル』も『イェフタ』もどこかしっくりしない点が残ります。)

ふたりの遊女が赤ん坊を奪い合う第2幕がドラマティックで、これぞヘンデル。この「ソロモンの裁き」の場はカリッシミもシャルパンティエもオラトリオとして作品を書いていますが、先輩ふたりの静謐な書法とはがらりと変わってじつに分かりやすく、歌いばえ、聴きばえがする。教会音楽と劇場音楽のちがいですね。

題名役はメゾ・ソプラノのキャロライン・ワトキンソンが歌っています。マルゴワールやホグウッドの指揮でもヘンデルをあれこれ録音してきた実力派ですが、この『ソロモン』は彼女の多くのレコーディングの中でも代表的な仕事として記憶されるでしょう。そのほかのキャストも適材適所。愛らしいアージェンタ、いかにもエキゾチックな雰囲気を醸し出すヘンドリクス。それにここで初めて聴いたジョーン・ロジャーズとデラ・ジョーンズの存在感。ことにジョーンズという人はこの後いろんな所で聴くことになるあくの強いキャラクターですが、ここでも「第2の遊女」を巧く演じて強烈な印象を残します。

『ソロモン』はその後アンドレアス・ショルが題名役を歌ったマクリーシュ盤がCD3枚組で出ました。そちらは完全全曲盤。ぢゃあこのガーディナー盤はなにかと言うと、何曲か間引いてるんですな。たとえばガーディナーは原曲の最終合唱の出来が悪いといってカットして、その前の合唱曲をフィナーレにもってきて、続き具合がいいようにその他の曲順にも手を入れているんです。そういう改変が、CD2枚に収めるための処置だったのかどうか、それは分かりません。ガーディナーは『ヘラクレス』や『セメレ』でも何曲か抜いてますから、ちょっと気をつける必要はあるかもしれません。しかし何年か前にHMFから出たRIAS室内合唱団による録音も2CDで、買って調べたわけぢゃないけどどうやらガーディナーとほぼ同じ曲の間引き方でしたよ。もちろんガーディナーの演奏で聴いて全然物足りなさは感じません。

それにしてもこれ、今聴いてもすごくいい音ですなあ。優秀録音。『メサイア』も録音技術の評価が高かったけどね。

オジェー『ヘンデル/9つのドイツ・アリア』

2009年04月27日 | CD ヘンデル
Handel
Neun Deutsche Arien
Arleen Augér
Walter Heinz Bernstein
TKCC-15256

1980年録音。52分39秒。Deutche Schallplatten。ソプラノ、オブリガートの高音楽器、および通奏低音のためのドイツ語による歌曲集。オジェーが当時の東独のメンバーと協演した録音。ただし器楽はモダン楽器による。とはいえ解釈は妥当で、オジェーの声の調子もよく、今聞き直してもじゅうぶん楽しめるばかりか、この曲集の演奏として(演奏スタイルは古いにせよ)安心して勧められるもの。

オジェーの歌唱はやや生真面目ながら、それだけに作品に誠実に取り組んでいて、味わい深い。ワルター・ハインツ・ベルンシュタインはチェンバリストで、この人はもちろん9曲とも弾いていますが、その他の器楽メンバーは多彩で、オブリガート楽器としてバイオリン、オーボエ、フルートが使い分けられ、通奏低音にもチェロのほかにビオローネ、ファゴットが参加。それぞれ地味ながらオジェーを好サポート。モダン楽器のバロックも悪くないぢゃんて──少なくともわたしは思いました。

この曲集はどのアリアも手抜きがなくて気分よく聴けます。歌いがいのある立派な内容で、規模も手ごろ。もっと歌われていい。オジェーの演奏はこの曲の演奏のお手本のような楷書の歌い方ですが、いまの古楽系の歌い手ならもっと自在に自由に歌うでしょうね。そういうのも聴いてみたいよ。っていうかいま調べたらキャロライン・サンプソンのがありますね。むかし確かリフレクセにカークビーとロンドン・バロックの協演盤があったと思うんですが、今どうなっているんでしょ。テナーにも歌ってほしい。

キング『ヘンデル/王宮の花火の音楽(原典版), 戴冠式アンセム』

2009年04月26日 | CD ヘンデル
Handel
Musick for the Royal Fireworks
Four Coronation Anthems
The King's Consort
Choir of New College, Oxford
Robert King
CDA66350

1989年録音。56分45秒。Hyperion。『王宮の花火の音楽』は原典版、つまりブラスバンドのほうの版です。オーボエが24、バスーンが16、コントラ-バスーン1、トランペットとホルンがそれぞれ9、ティンパニが3セット、サイド-ドラムが4(そのうち1人はダブル-ドラムも掛け持ち)。トランペットやホルンは、金管アンサンブルがあるからそれぞれ9人くらいなら集まらないこともないでしょうが、オーボエ24人は人を揃えるの大変でしょう。オーボエの首席はPaul Goodwinで、そのほかAnnthony Robson、Richard Earle、Sophia McKenna、Clare Shanks、Marion Scottなどがいます。まあとにかくイギリスぢゅうの(時代楽器の)オーボイストかき集めたって感じかなあ。初めてみる名前の人も多いので、学生さんも入ってるかもしれませんね。

ロバート・キングの指揮による原典版の『花火』は、コンサートでのライブの映像がYouTubeに流れていました。壮観でしたよ。9人のトランペッターがずらりと横一列に立ち並んでラッパを吹いてるところとか、3人のティンパニ奏者とか、特に。

原点版は管弦楽版とくらべてややニュアンスには欠けるものの『花火』の屋外音楽らしいおおらかさ華やかさが強調されて、これはこれで得難い味があります。イギリスの作曲家は伝統的に吹奏楽に熱心な人が多くいますけど、ヘンデルはその源流の一つですね。

『戴冠式アンセム』もニュー・カレッジの聖歌隊が好調です。少年合唱特有のスカスカした感じがなくて、しっかりしている。この曲集はキングズ・カレッジその他少年合唱の録音がいくつか出ていますがその中では出色で、大人の合唱団ともじゅうぶん張り合える好録音です。

クリストファーズ『ヘンデル_シャンドス・アンセム第7-9番』

2009年04月11日 | CD ヘンデル
Handel
Chandos Anthems - Volume 3 - Nos. 7, 8 & 9
Kwella, Bowman, Partridge, George
The Sixteen Choir & Orchestra
Harry Christophers
CHAN 0505

1989年録音。74分46秒。Chandos。ヘンデルの『シャンドス・アンセム』から。第7番《My song shall be alway》、第8番《O come, let us sing unto the Lord》、第9番《O praise the Lord with one consent》。忘れもしません。福岡の天神で買いました。広島から長崎に帰省するとき、よく途中下車して福岡の街をうろうろしてたんですよ。その時に買った。その後勤めるようになってからCD4枚組の全集盤も買いましたが、最初に手に入れたこの一枚には特別の思い入れがあります。大学のグリークラブの定演で、ヘンデルの〈Your voices raise〉という合唱曲の男声合唱版を歌ったのですよ。それの原典版が、最終トラックにすばらしい演奏で入ってるの。ようやく巡り会えた。

『シャンドス・アンセム』を聴かずしてヘンデルは語れません。いちどこのザ・シクスティーンの演奏をお聴きくださいませ。力のこもった、中身の濃い音楽にきっとびっくりするから。このCDに収められた第7~9番は合唱曲がとくに充実していて、聴くたびにいい気持ちになれます。70分を超える演奏時間ですが、聴き終えるまで退屈しないので、あっという間ですよ。

ザ・シクスティーンはS5、A4、T4、B4。メンバーでは、Sally Dunkley、Christopher Royall、Mark Padmore、Simon Birchal、Francis Steele、Jeremy Whiteなどが目ぼしいところ。アルトは全員男声で、ところどころ低い音のところはテナーの発声で歌っています。つまり「SATB」ぢゃなくて「STTB」になるわけね。このシャンドス・アンセムの場合、ヘンデル自身もほんらいSTTBのOVPPで歌われる前提で書いたんぢゃいでしょうか。なんかおもろいね、STTBのOVPP。

だって、アルトのソロを例のボウマンが歌ってるんですが、地を這うようなアルトの声で、ものすごく無理して低い音を出しているのよ。気の毒すぎてちょっとニヤニヤしてしまうほど。これはカビィクランプあたりを呼んで、ハイ・テナーの発声で歌わせたほうがよかった。シャンドス公のお邸ではソプラノ、ハイ・テナー、テナー、バスの四人で歌われたんだと思います。ソプラノは美人のパトリツィア・クウェラで、この人はいまいちメジャーになり切れなかったけど、ここではちゃんと責務を果たしていると思います。わたしはリン・ドーソンよりはクウェラのほうが好きです。

第7番冒頭のソナタ(序曲)は、コンチェルト・グロッソOp.3-3の始めのふたつの楽章と同じ音楽で、ソロのオーボエとバイオリンの掛け合いが印象に残るものですが、クリストファーズはこれ以外ないと思える理想のテンポ設定で心地よく進めていきます。その後、Op.3のCDをいくつか聴きましたけど、クリストファーズほどの満足感を与えてくれる演奏にはまだ行き当たらない。

われわれが歌わせてもらった〈Your voices raise〉について、依拠したハーバード大学のグリークラブの楽譜集には"from The 6th Chandos Anthem"とか書いてあった。のちに──というのはこのCDを店頭で見たときに──判明したのですが、ほんとは"6th"ではなくて、"9th"なのでした。天神で、このCDのケース裏のトラック25のところに〈Your voices raise〉って書いてあるのを見つけたときはうれしかったなあ。

〈Your voices raise〉を歌った当時、すでにわたしは相当なヘンデリアンだったんですが、まだぴぃぴぃの学生で、原典を調べる手づるも才覚もなかったし、当時はまだ輸入盤を簡単に手に入れられる時代でもなかったので、どんな音楽なのかぜんぜん分からなかった。その後も『シャンドス・アンセム』はずっとわたしにとって幻の曲だった。それと出合わせてくれたのがこのザ・シクスティーンのCDでした。