歌わない時間

言葉と音楽について、思うところをだらだらと。お暇な方はおつきあいを。

ガーディナー『ヘンデル/ソロモン』

2009年04月28日 | CD ヘンデル
Handel
Solomon
Watkinson, Argenta, Hendricks, Rogers, Jones, Rolfe Johnson, Varcoe
Monteverdi Choir
English Baroque Soloists
John Eliot Gardiner
35CD-319/20 (412 612-2)

1984年録音。68分40秒/67分26秒。PHILIPS。ガーディナーが『メサイア』に続いてフィリップスに録音したオラトリオ・シリーズの第2作でした。国内盤の番号から分かるように、買った当時、CD1枚が3,500円で、2枚組が定価7,000円したもんですよ。わたしは大学生協で買ったので割引きしてもらえましたけどね。それにしても学生にとっては高い買い物でしたわ。

『ソロモン』は古くはビーチャムの録音もあって、ヘンデル再評価以前から聴かれていたようです。第3幕の「シバの女王の入城」がとくに有名ですが、雄弁な合唱も聴き応えがあり、独唱や二重唱にもよい曲が多くて、全体にすぐれた作品と言えます。

ガーディナーの前作『メサイア』よりもこの『ソロモン』のほうがより伸びやかな演奏。実に高い水準でバランスがよくとれている。それにガーディナーが時に感じさせるあざとさがない。『メサイア』の翌年にこの『ソロモン』が出たとき、「いよいよガーディナーはいい感じになってきた、この先どんなすばらしいヘンデルを聴かせてくれるんだろう」とそりゃわくわくしたものです。

(『メサイア』にはじまったガーディナーのフィリップスへのヘンデル・シリーズはこのあと数作つづいていくわけですが、しかしけっきょく、総合点でもっとも優れていたのがこの『ソロモン』でした。『メサイア』も、『サウル』も『イェフタ』もどこかしっくりしない点が残ります。)

ふたりの遊女が赤ん坊を奪い合う第2幕がドラマティックで、これぞヘンデル。この「ソロモンの裁き」の場はカリッシミもシャルパンティエもオラトリオとして作品を書いていますが、先輩ふたりの静謐な書法とはがらりと変わってじつに分かりやすく、歌いばえ、聴きばえがする。教会音楽と劇場音楽のちがいですね。

題名役はメゾ・ソプラノのキャロライン・ワトキンソンが歌っています。マルゴワールやホグウッドの指揮でもヘンデルをあれこれ録音してきた実力派ですが、この『ソロモン』は彼女の多くのレコーディングの中でも代表的な仕事として記憶されるでしょう。そのほかのキャストも適材適所。愛らしいアージェンタ、いかにもエキゾチックな雰囲気を醸し出すヘンドリクス。それにここで初めて聴いたジョーン・ロジャーズとデラ・ジョーンズの存在感。ことにジョーンズという人はこの後いろんな所で聴くことになるあくの強いキャラクターですが、ここでも「第2の遊女」を巧く演じて強烈な印象を残します。

『ソロモン』はその後アンドレアス・ショルが題名役を歌ったマクリーシュ盤がCD3枚組で出ました。そちらは完全全曲盤。ぢゃあこのガーディナー盤はなにかと言うと、何曲か間引いてるんですな。たとえばガーディナーは原曲の最終合唱の出来が悪いといってカットして、その前の合唱曲をフィナーレにもってきて、続き具合がいいようにその他の曲順にも手を入れているんです。そういう改変が、CD2枚に収めるための処置だったのかどうか、それは分かりません。ガーディナーは『ヘラクレス』や『セメレ』でも何曲か抜いてますから、ちょっと気をつける必要はあるかもしれません。しかし何年か前にHMFから出たRIAS室内合唱団による録音も2CDで、買って調べたわけぢゃないけどどうやらガーディナーとほぼ同じ曲の間引き方でしたよ。もちろんガーディナーの演奏で聴いて全然物足りなさは感じません。

それにしてもこれ、今聴いてもすごくいい音ですなあ。優秀録音。『メサイア』も録音技術の評価が高かったけどね。

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