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歌わない時間

言葉と音楽について、思うところをだらだらと。お暇な方はおつきあいを。

ホグウッド『ヘンデル/合奏協奏曲集作品6』

2009年03月19日 | CD ヘンデル
Handel
Concerti Grossi, Op.6
Handel & Haydn Society
Christopher Hogwood
458 817-2

1991,92年録音。77分47秒/78分42秒。DECCA/L'Oiseau-Lyre。ホグウッドの指揮は堂々としたもの。イギリスの古楽指揮者とアメリカの古楽器オケ、そこに、いい意味での緊張がみなぎって、成果を上げています。時代楽器によるOp.6の演奏として模範的。ただしホグウッドという人はよくもわるくも安全運転ですから、そのぶん意外性は少ないですけど。

まあ、どこをとってもヘンデルらしい広やかな音に満たされてます。安心して聴いていられるという点ではこれの右に出るものはないと思う。ただね、これはホグウッドが指揮するとたいていどの録音もそうなんですが、曲が始まっちゃうともう一本調子なんだよね。小技が利かないというか。一曲ごとに手を変え品を変え、って工夫は特にはないんですよ。CD2枚、150分身構えて続けてきくとちょっと退屈かもしれません。

個人的には1-3,5-7番が収められたCD1のほうがより面白い。わたしはOp.6では1番、5番、7番あたりが好きなので。とくに最近は7番が面白い。チャーン、チャーン、チャン、チャン、チャン、チャン、チャチャチャチャチャチャチャチャ、って、おなじ音の反復でどんどん音価が短くなっていく第2楽章、歌心にあふれた第3楽章、ホーンパイプのリズムが愉しい終楽章。ヘンデルも気分が乗って書いてる感じ。

このホグウッドのOp.6は、曲と指揮者の相性がぴったり合っている。一般的な知名度は低いけれど、『水上』『花火』とならんでヘンデルの合奏音楽の代表作ですね。

レパード『ヘンデル/サムソン』

2009年03月10日 | CD ヘンデル
Handel
Samson
Baker, Watts, Tear, Shirley-Quirk, Luxon, Lott, Burrowes, Langridge, Oliver
London Voices
English Chamber Orchestra
Raymond Leppard
2292-45994-2

1978年録音。66分37秒/72分16秒/73分06秒。ERATO。モダン楽器によるヘンデルの到達点を示すすぐれた演奏。時代楽器の時代が本格的に始まろうとする直前の時期に、豪華メンバーでレコーディングされたヘンデルの代表的なオラトリオ。レパードがハープシコード弾きながら振ってます。

いま聴いても違和感なくヘンデルの音楽を楽しめます。ただ序曲はさすがにゆっくり過ぎる。70年代の録音ではマルゴワールも序曲が遅いんですよ。歌が始まっちゃうと気にならないんだけどねえ。出だしがゆっくりだとそこで鼻白んでしまうのでよくありません。

サムソンがロバート・ティアー、デリラがジャネット・ベイカー、ミカがヘレン・ワッツ、マノアにジョン・シャーリー-カーク。ハラファにベンジャミン・ラクソン。そのほか、ノーマ・バロウズ、フェリシティ・ロット、フィリップ・ラングリッジ、アレクサンダー・オリバー。豪華です。今世紀に入ってザ・シクスティーンの《サムソン》が出ていて、そのザ・シクスティーンのはトーマス・ランドルの題名役があまりにすばらしいんですが、それ以外のソリストはそれほどでもない。レパード盤のほうがソリストの品揃えではむしろまさっている。ティアーもけっして悪くない。この人は古楽もわりと歌っていて、ヘンデルではこの《サムソン》と同時期にアーノンクールの《ベルシャザル》でも題名役を歌っていました。

総じて歌手たちのテンションが高い。わたしベイカーのことはよく知らないんですが、この人はメゾだと承知していましたが、上の音も出ますね。この人ならたとえばディドーなんかもいいと思いますよ。ミカのヘレン・ワッツは、リリングの指揮でバッハをたくさん歌ったアルトですね。わたしははじめて聴きました。(ついでにメモしくと、リヒターと協演してたのはアンナ・レイノルズのほう。)

ロンドン・ボイシズの合唱は各パート10人くらいでしょうか。高水準。この時期、アーノンクールもアルノルト・シェーンベルク合唱団を使って《イェフタ》などを録音していましたが、録音のせいもあるのかシェーンベルク合唱団はいまひとつクリアな音ではありません。それよりもこのロンドン・ボイシズのほうが声も揃って上手に聞える。

とにかくレパードのヘンデルはもう少し聴かれていいと思っています。Op.3やOp.6はさすがに古めかしくなったけれども、《水上》《花火》《二重協奏曲》は今もじゅうぶん鑑賞に足る。《メサイア》全曲も聴きたいなあ。

レコール・ドルフェ『ヘンデル/室内楽曲集』

2009年02月24日 | CD ヘンデル
Handel
The Chamber Music
L'Ecole d'Orphée
CRD5002

録音年不明ながらおそらく70年代後半。ADD。74分16秒/57分36秒/61分17秒/70分15秒/66分40秒/67分49秒。crd。レコール・ドルフェは、ジョン・ホロウェイをリーダーに1975年に結成された古楽アンサンブル。これはまたいかにもイギリス勢らしいヘンデル演奏。実力ある人たちが、とても丁寧に、ニュアンスに富んだ演奏を繰り広げています。ただし、地味。技術面では、スティーブン・プレストンのフラウト・トラベルソが多少古めかしく感じられますが大きなキズにはならないでしょう。むしろ、まだアナログ録音だった時期の録音であるにもかかわらずこれだけ粒のそろった演奏を聴かせてくれることに感謝したい。タイトルは単に《The Chamber Music》ながら、全集に準ずるもの。

CD1。《フルート・ソナタ集》。スティーブン・プレストンのFl、スーザン・シェパードのVc。ハープシコードはジョン・トールとルーシィ・キャロランが分担しています。

CD2。《バイオリン・ソナタ集、オーボエ・ソナタ集》。ジョン・ホロウェイのVn、デイビッド・ライシェンバーグのOb、シェパードのVc、ハープシコードはキャロラン。バイオリン・ソナタが4曲、バイオリン・ソナタの断片が2曲、オーボエ・ソナタが3曲。HWV371のバイオリン・ソナタがやはりいいですね。フィナーレが《イェフタ》第3幕の天使のシンフォニアです。オーボエ・ソナタはまあまあ。

CD3。《トリオ・ソナタ集》Op.2。1番にスティーブン・プレストンのFl、4番にピケットのRec。その他はホロウェイ、コンベルティのVn、シェパードのVc。ハープシコードはロバート・ウーリーとトールです。4番は、冒頭、ピケットがやや安定しないんですが曲が進むにつれてこなれてきます。

CD4。《トリオ・ソナタ集》Op.5。7曲。ホロウェイ、コンベルティ、シェパード、キャロラン。わたしはOp.2よりもOp.5のほうが好きです。4番はオラトリオ《アタリア》に多くを負っており、わたしは《アタリア》も好きなのでお気に入り。6番は《カッコーとナイチンゲール》の爽やかなメロディーで、これまたいいです。

CD5。《2つのバイオリンのためのトリオ・ソナタ集》。1stはホロウェイ、2ndをコンベルティとアリソン・バリーが分担しています。2曲目のHWV392にも《アタリア》の序曲の一部が現れます。5曲目、HWV403は全曲がまるまる《サウル》の序曲の音楽。Op.2やOp.5よりさらに地味な1枚ですが、一つ一つの曲は充実しています。

CD6。《リコーダー・ソナタ集》。Recはピケットとレイチェル・ベケット。Op.1からの4曲など、全8曲。全体にちょっと弱いかなあ。いまはフェアブリュッヘンで聴く人が多いんぢゃないでしょうか。

レコール・ドルフェは、BBCのための録音やヨーロッパでの演奏旅行は行なったそうですが、アルバムとしてはこのヘンデルくらいなんぢゃないでしょうか。しかしこれはいい仕事です。これ以後、時代楽器によるヘンデルの室内楽全集はまだ出てないんですよ。没後250年でそろそろ次のが出るかもしれませんが。

ヤーコプス『ヘンデル/サウル』

2009年02月22日 | CD ヘンデル
Handel
Saul
Joshua, Bell, Zazzo, Ovenden, Slattery, Saks
RIAS-Kammerchor
Concerto Köln
René Jacobs
HMC901877.78

2004年録音。78分53秒/70分46秒。HMF。ヤーコプスは、ヘンデルのオペラは録音していましたがオラトリオはこれがはじめてでした。いくつか気になるところはあるんですが、初回聴いた印象よりはいいですね。まとまりのいい演奏です。先行盤はガーディナーもマクリーシュも3CD。2CDに収めたものとしてはアーノンクールがありますが、アーノンクールのは省略があったはず。省略なしで2枚組で聴けるというのはアピール度が高いです。

細部の表現ではガーディナーのほうがライブであることに助けられてかポイント高い箇所があるんですが、全曲聴き通すとヤーコプスのもよく設計されていて、オラトリオ《サウル》を味わうのにヤーコプス盤に拠っていてもさほど問題はないようです。そもそも《サウル》はヘンデルのオラトリオとしては台本が悪くないので、ダレるところが少なく、ヤーコプスが余計な演出する必要がないのがよかったのかもしれません。

今世紀に入ってからの録音なので、全体にまづ音が鮮明です。RIAS室内合唱団うまいしね。オケもフルート、オーボエ、バスーン、トランペット、トロンボーン、ハープ、リュート入りで豪華。通奏低音も適度に能弁。

第3幕でサウルがエンドルの魔女のもとを訪れる場面はヤーコプスのほうがガーディナーよりも優れている。こういう不気味なシーンはヤーコプス巧いねえ。いっぽう、第1幕で、サウルが、自分よりもダビデのほうを民衆が支持していることを知って愕然とするあたりは、ヘンデルのすべての劇音楽の中でももっともドラマティックな効果を上げているシーンですが、ここはヤーコプスよりガーディナーのほうがいい。さらに、前後しますが、全曲の冒頭、長めの序曲のあとにダビデの帰還を祝うアンセムがあるわけですが、ここはヤーコプスあんまり巧くありません。スカッとしない。ここもガーディナーの勝ち。

ソリストではジェレミー・オベンデンのヨナタンが悪声と言わざるを得ず困ったもんです。第2幕までしか出てこないからこれでいいと思ったのかなあ。しかしその他の人はよく歌っていると思います。ガーディナー盤のレイギンのダビデがどうにも品がないのにくらべるとローレンス・ザゾはだいぶマシ。ザゾには先輩カウンターテナーのエスウッドやショルほどのオーラはありませんが、どんな役もソツなくこなす。王女ミカルのローズマリー・ジョシュア、同メラブのエマ・ベル、サウルのギドン・サックスはそれぞれ役柄にふさわしい声質、歌い回しで満足できます。特にサックスは感情のぶれの大きいサウル役を説得力のある歌唱で演じています。それから、大祭司とエンドルの魔女をマイケル・スラッタリィ(Michael Slattery)というアメリカの若いテナーに兼ねさせていますが、巧く歌っています。

ホグウッド『ヘンデル/アタリア』

2009年02月18日 | CD ヘンデル
Handel
Athalia
Sutherland, Kirkby, Bowman, A. Jones, Rolfe Johnson, Thomas
Choir of New College, Oxford
Academy of Ancient Music
Christopher Hogwood
417 126-2

1985年録音。55分45秒/65分37秒。L'Oiseau-Lyre。《アタリア》はヘンデルのオラトリオとしては本格的な多作期に入る以前の作品ですが、完成度はきわめて高いです。それにまた演奏がすぐれている。いやーどうしちゃったんでしょうホグウッド。いいですよいいですよ。序曲の最初の音から、いきなりホグウッドらしからぬ充実ぶり。うーん、でもこのあと録音した《リナルド》はふつうだったからなあ。デッカの女王サザランドが横で睨んでいるんで緊張して、それで音楽がひき締まったとか?

ユダヤの神を奉じる神官ジョアドおよびその妻ジョザベス側と、女王アタリアとの対立がしっかり書き込まれているので緊張が切れません。それに、登場人物のソロを合唱が引き継いだり、合唱曲のなかにソリストが歌う部分がはめ込まれていたり、boySのゾリのあとを合唱が受けたり、たんにソロと合唱がかわりばんこに歌うだけではなくいろいろ変化がつけてある。ニュー・カレッジの聖歌隊はこの《アタリア》ではじつに調子がよく、大人の合唱団に迫るできばえ。

サザランドとカークビーと、それからアレッド・ジョーンズ。3人のソプラノが競演。サザランドは、タイトルロールとはいえ破滅する異教徒の女王の役ですよ。よくこの仕事受けたなと思いましたけど、別にどうってことないのかな。それはさておきサザランド、賞味期限切れすれすれながら、声のコントロールもできていて、役柄の強さをよく表現し得ています。とくに第2部で怒りにまかせて歌う"My vengeance awakes me"がいい。サザランドのコロラトゥーラ・ソプラノとしての残り香?がただよいます。

一方のカークビーのほうがじつは出番も多いです。実質的にはカークビーの歌うジョザベスのほうがこのドラマの中心人物ですね。80年代半ばというとカークビーの最盛期で、表現の幅の広いジョザベスという役を完璧に歌いきっています。

アレッド・ジョーンズはそんなに目立ちませんが、まあこんなものでしょうか。いまならもっと歌えるboySがいますけどね。ジェイムズ・ボウマンはいつ聴いても心から好きになれない声の人ですが、まあいいでしょう。そのほかアタリア側の神官メーサンが第1部で破滅の予感におののくアタリアをなぐさめて歌う"Gentle airs, melodious strains!"はヘンデルのテナーのためのアリアとしては出色のできばえ。ボストリッジもパドモアもヘンデルのアルバムで歌ってないけど、「なんでー!」って感じ。

ファゾリス『ヘンデル/デックシット・ドミヌス、デッティンゲン・テ・デウム』

2009年02月12日 | CD ヘンデル
Handel
Dixit Dominus / Dettingen Te Deum
Lootens, Invernizzi, Cecchi-Fedi, Banditelli, Schofrin, Beasley, Abete, Zanasi
Coro della Radio Svizzera
Ensemble Vanitas
Diego Fasolis
47560-2

1995,96年ライブ録音。70分46秒。ARTS。これを買ったのはどちらかというと他に録音の少ない《デッティンゲン・テ・デウム》が目当てだったんですが、《ディクシット・ドミヌス》もすぐれています。《ディクシット・ドミヌス》はミンコウスキで決まりかなと思ってたけど、このファゾリスのもミンコウスキと肩を並べる。どちらを選ぶかはそれぞれのCDのフィルアップの曲目によって決まるでしょうね。一般の方?はミンコウスキでもけっこうですが、ヘンデリアンなら、《デッティンゲン・テ・デウム》を聴くためにファゾリスを買いなさい。

合唱は6・4・5・4でクレジットされていますが、《テ・デウム》も《ディクシット・ドミヌス》も5声なので、3・3・4・5・4と分かれるんでしょう。いいねえいいねえ少数精鋭。《デッティンゲン・テ・デウム》はこれ以前にプレストン指揮のものを聴きましたが、やっぱり大人の合唱のほうが聴きごたえがありますわ。というか、やっぱりヘンデルの合唱曲はなるたけ大人の声で聴くべきです。わたしはファゾリスのこの演奏でこの《テ・デウム》の真価をようやく知り得たですよ。これは知られざる名曲です。ことにフィナーレ"O Lord, in Thee have I trusted"の雄大さね。これこそヘンデルという感じ。

《ディクシット・ドミヌス》のソプラノ・ソロはルーテンスとインベルニッツィ。アルトはバンディテッリ。この曲はプレストンのも悪くはなかったんだけど、やっぱ南欧系の人たちの歌は明るいですわ。プレストンのソリストはオジェー、ドーソン、モンタギューで、清澄ではあったけど明るい色気には欠けてた。でもこのファゾリスの《ディクシット・ドミヌス》はそれがあるのよ。(ただしルーテンスはイタリア人ではないですよね。この人、どこの国の人でしょう?)合唱はよく訓練されていて、イタリア語圏の合唱団でこれだけ素晴らしい《ディクシット・ドミヌス》が聴けて、大満足です。

唯一おしいのは、両曲ともにソリストとして参加しているMarco Beasleyってテナーがイマイチなことですな。美声でないのよ。なお、音は、全体に雑音もなくて、ライブとは思えないほど録音状態は良好です。

プレストン『ヘンデル/デッティンゲン・テ・デウム』

2009年01月25日 | CD ヘンデル
Handel
Dettingen Te Deum / Dettingen Anthem
Choir of Westminster Abbey
The English Consert; Trevor Pinnock
Simon Preston
410 647-2

1982,83年録音。54分08秒。Archiv。オーストリア継承戦争におけるジョージ二世の戦勝を祝う機会音楽。『デッティンゲン・テ・デウム』でだいたい40分、『デッティンゲン・アンセム』で14分くらいですか。競合盤が少なくて、わたしはこのCDでどちらの曲ともようやく聴けました。曲そのものを知るにはいい演奏ですよ。でも聴いてる端から、これが大人の合唱だったらもっと聴きごたえのある演奏になったろうに、と思ってしまう。ウェストミンスターのクワイヤはボーイソプラノも成人男声によるアルト以下もそう悪くはないんですが、やはり全員大人の合唱とくらべると詰めの甘さを否定しがたい。プレストン&ウェストミンスターの組合せでは、この後録音された『ディクシット・ドミヌス』のほうが出来がいいです。

『デッティンゲン・テ・デウム』はいきなり思いっきりヘンデルらしいティンパニの連打から始まります。なんか木琴みたいな音もしてます。トランペットも威勢よく鳴り響いて、何ともおおらかなヘンデル節。この『テ・デウム』、なかなかいい曲ですよ。もっと練った演奏したらそうとう感動的かも。この演奏、ちょっとばかり素直すぎる。水準には達しているものの、そこから抜け出たところがないの。ふつうならソロやゾリに歌わせそうなところを、ソリストを使わずに、パートユニゾンで合唱に歌わせているところが何カ所かあって、これはこれで面白い。面白いんだけど、ゾリとトゥッティで対照をつけて歌わせてもよかったかなと思います。

『デッティンゲン・アンセム』はヘンデリアンならどこかで聴いたことのあるようなフレーズがあちこちに使われていてそれが楽しい。微妙な長さの作品で、あまり演奏されないのもそのせいでしょう。ヘンデルのアンセムって、かの『シャンドス・アンセム』を含めなかなか耳にする機会がないので、没後250年を機にヘンデルのアンセム全集をどこかのレーベルで出してくれないですかねえ。

アルト以下の男声ソリストは、スティーブン・バーコー以外はあまりソリストとしては名前を聞かない人ばかりです。あのザ・シクスティーンのハリー・クリストファーズがテナー歌手として参加しているのがめづらしい。

ホグウッド『ヘンデル/アルチェステ』

2009年01月24日 | CD ヘンデル
Handel
Alceste / Comus
Kirkby, Nelson, Kwella, Cable, Elliott, Thomas
The Academy of Ancient Music
Christopher Hogwood
F32L-20355

1979,80年録音。73分45秒。L'Oiseau-Lyre。劇付随音楽『アルチェステ』。あまり知られていないけど、『アルチェステ』はヘンデルの声楽曲のエッセンスを聴くのにうってつけな作品ですよ。大オラトリオが始まりそうな立派な序曲から、トランペットが爽快なグラン・アントレに続き、さらにテナーのレチタティーボのあと、ソロや重唱にみちびかれて合唱が登場し、そんな調子であくまでヘンデルらしく、華やかに曲が進んでいきます。

合唱は8人の歌手たちによって歌われているようです。カークビー、ネルソン、ケイブル、デンリー、エリオット、カビィクランプ、トーマス、キート。なんともゼイタクなコーラス。で、この人たちでソロも分担。オワゾリールのヘンデルは、ソロがよくても、少年合唱を使うせいで評価が低くなる場合が多々あったんですが、ここでは当時働き盛りのイギリス古楽の歌い手たちが結集してすばらしいコーラスを聴かせています。

ホグウッドが『メサイア』を録音したのが1979年ですから、同時期の録音ということになります。『メサイア』よりもこの『アルチェステ』のほうがぐっとリラックスしていて、歌手ものびのび歌っています。ヘンデルのCDを一枚だけ選ぶとするとこれになるかもしれないというほど、わたしこのCD気に入ってます。

ポール・エリオットが大活躍です。レチタティーボでもアリアでもほぼ出づっぱりで歌っている。やっぱこの人はエエ声ですわ。わたしがポール・エリオットの声に魅せられて自分の目標にしたきっかけは、『メサイア』とこの『アルチェステ』でのエリオットのソロでした。若かりしころ、NHK-FMで『アルチェステ』を聴いて、こんな声の歌手がおるんかー、この人みたいになりたいよーとエリオットの声をイメージしながら毎日発声練習しておりました(遠い目)。

それから"Gentle Morpheus, son of night"はカークビーのベスト盤にも選び入れられているアリアで、これはほんとに名曲の名唱です。

ホグウッド『ヘンデル/復活』

2009年01月19日 | CD ヘンデル
Handel
La Resurrezione (1708)
Kirkby, Kwella, Watkinson, Partridge, Thomas
The Academy of Ancient Music
Christopher Hogwood
421 132-2

1981年録音。61分13秒/48分09秒。L'Oiseau-Lyre。『復活』はいいですよー。ヘンデル20代の覇気と意欲が注ぎ込まれたオラトリオ。ホグウッドの指揮は率直で手抜きがなく、手堅いもの。カークビーの歌もさることながら、器楽陣の壮麗なサウンドがすばらしい。久しぶりに聴いてみると、コープマンよりもこっちのほうが上を行くんぢゃないかと思えてきます。

序曲のあとカークビーが最初に歌う"Disserratevi, o porte d'Averno"ってアリアがすごいんですよ。トランペットとオーボエをともなって、華やかでねえ。カークビーが次に歌う"D'amor fu consiglio"もいいアリア。メロディーメーカーとしてのヘンデルの才能は若いころからすでに開花してたんですねえ。

堕天使ルチフェロはデイビッド・トーマスで、この人らしくノリノリの怪唱。眉をひそめる人もいるでしょうが、役が役ですし、いいんぢゃないでしょうか。いつものように音程はずしかけてるところもありますが、なんせ堕天使の歌なんで、そういうのも許容範囲かなと思います。

マッダレーナを美人ソプラノのパトリツィア・クウェラが歌っています。当時のオワゾリールのソプラノは、一番手がカークビー、二番手がジュディス・ネルソン、三番手がクウェラでした。クウェラは可憐な歌いぶりが身上で、パーセルあたりだといちばん相性いいんぢゃないかと思うんですが、この『復活』のマッダレーナはちょっと物足りない。カークビーと比べると、ひ弱な印象がぬぐえない。まあまあ聴ける、といったところ。

クレオフェを歌っているワトキンソンは、一時期、ヘンデル演奏におけるメゾあるいはアルトの第一人者のような地位にありました。70年代のマルゴワール指揮のオペラ、80年代に入ってからもホグウッドやガーディナーのヘンデルに出演しました。ここでも独特の存在感をもって歌っています。

聖ジョバンニはイアン・パートリッジ。プロ・カンツィオーネ・アンティカでボウマンやエスウッドたちと歌っていたベテラン。皆川達夫さんに言わせるとこの人は「美声」なのだそうですが、わたしにはさほどの声とは思えない。ただし円熟の歌唱、とは言えますね。この役、マーティン・ヒルで聴いてみたかった。

古楽器の音色が美しい録音です。バイオリンにはマッキントットュ、スタンデイジ、ハジェット、ウッドコック、ホロウェイ、グッドマンなど。オーボエはク・エビンゲをはじめ4人。リコーダーもフルートも出てきます。ナチュラル・トランペットは2本。テオルボはリンドベルイ、ハープシコードはマッギーガンが弾いているそうです。

第1部の最後の合唱"Nume vincitor"、これが『水上の音楽』の組曲第2番(HWV349)の威勢のいいフィナーレの元ネタだということを、ちょっと惜しい気もするけれど書いておきましょう。

ガーディナー『ヘンデル/セメレ』

2009年01月11日 | CD ヘンデル
Handel
Semele
Burrowes, Kwella, Priday, Jones, Denley, Penrose, Rolfe-Johnson, Davies, Lloyd, Thomas
Monteverdi Choir
English Baroque Soloists
John Eliot Gardiner
2292 45982-2

1981年録音。77分55秒/76分11秒。ERATO。ヘンデルのオラトリオ『セメレ』。『ヘラクレス』と同じく嫉妬がテーマ。ガーディナーの指揮は悪くないし、ときどき出てくる合唱はきれ味するどくドラマにメリハリつけてくれるんですが、どうもね、この『セメレ』はキャストが不満。それと、ガーディナーは何曲かオミットしています。そのおかげでCD2枚に収まってるんだけど。

もっともキャラが立っているのは嫉妬深いジュノーを歌うデラ・ジョーンズです。ジョーンズはおなじガーディナーの指揮で『アグリッピーナ』のタイトルロールもきわめてアク強く歌いおおせていますが、こちらのジュノーもそれに劣らず強烈。いっぽう高慢女のセメレ役はノーマ・バローズで、この人は古楽にキャリアのあるいいソプラノではありましたが、可憐さが身上の人で、セメレのようなドラマティックな役は合いません。セメレではなくアイリス役だったらぴったりだったでしょう。

ジョーンズのアクの強さとミス・キャストなバローズに気をとられてしまうのでほかの人はあんまり印象に残りません。ヘンデルの時代には掛け持ちで歌われたであろう役役を、このCDではそれぞれ何人かの歌い手に分担させているのでそのへんは親切です。そのためソリストがたくさん。ソプラノ3、メゾ2、カウンターテナー1、テナー2、バス2とこれだけで合唱団ができそうなくらい出てくる。

ヨーロッパではヘンデルのオラトリオが盛んにオペラとして上演されてるようです。『セメレ』についても、YouTubeで検索すると、ジョシュア、バルトリ、マシスそれぞれのタイトルロールでの映像がアップされてるのを見ましたよ。