1300年代に戻ってそこに描かれたダマスクローズをご紹介しましょう。
.Tacuinum Sanitatis ※1 Roxe / Roses 1370–90 MS 1041 f64r. of the Liège University
リエージュのタキュイナムサニタティスは珍しいと思い保管状態は少し悪いですが、引用させていただきました。絵の下部に書かれている内容も他の地域とは少し異なりますのでご紹介しておきます。
薔薇;性質;寒の一度、乾の三度。新鮮な時が一番香りがよい。効果;感情の高ぶり。樟脳を一緒に摂ると効果がある。
Vienna, Austrian National Library, Cod. ser. nov. 2644. ca.1390
ウィーンで出版された薔薇の絵です。ルーアン、パリとヨーロッパ各地で出版されましたが、ウィーンのものが一番出来がいいようです。
絵の下には;
『ダマスクローズは、寒の1度、乾の3度の性質を持ち、Suri※2と Persia産が最高品です。性質は秋の乾いた少し寒い時期に相当します。脳炎に効果がありますが、ある人には無気力、胸を締め付けられる感じを起させます。あるいは臭覚をなくさせます。春の気質を持った高い身分の若い貴族に相応しいものです。』とあります。ダマスクローズは料理だけでなく貴人の精神的不安を和らげる目的にも使われていたようです。
(貴人には薬となるがそれ以外の者が摂ると毒になるという、身分制度確立の手段としても使われていたようです。健康全書の基となった四元素説についての説明は別の機会に譲ることにします。)
※1 Tacuinum Sanitatis(健康全書、健康と幸福について書かれた中世の養生訓。)
アラブ人のIbn Butlân (イブン・ブトラーン; ca.1001 - 1066、イラクのネストリウス派キリスト教徒の医者)が、バグダッドで学んだ医学をまとめた書物 (Taqwim al‑sihha ) をもとにした写本です。アラビア語の写本と、図版のないラテン語に翻訳された写本が確認されています。少なくとも1266年にまで遡ることができますが、誰が翻訳したのか不明です。ヒポクラテスの流れを汲むイスラム医学と中世ヨーロッパのミニアチュールが融合してできたのが「健康全書」です。
※2 Suri (下記の文面、写真は後述のアドレスから引用させていただきました。)
Suri(サーリー)はイラン北部、カスピ海南岸に位置する都市です。ペルシャ語の“赤い”、“赤い薔薇”の意味を持ちます。赤い色のダマスクローズ、ローザダマスセナを指し、イランではゴル・エ・モハマディ(Gol-e-Mohammadi)と呼ばれています。流通名はRosa damascena Mill(RDM)です。この花はイランが起源で、そこでは単に“薔薇”と呼ばれていたようです。イランがイスラム世界の一部となった後、アラブの侵略者達が薔薇に関心を寄せ、シリア ( in Persian: Suri-eh ) のダマスカスにある庭園に持ち帰ったと推測されています。その後ヨーロッパ人がそれをローザダマスセナ、サーリーと呼びました。健康全書の説明文の中にその名が残されています。
Suri, Persian Rose AKA Gol-e-Mohammadi firstly originated in Iran
https://iranian.com/2006/04/21/suri-the-persian-rose/
https://twitter.com/mustseeiran/status/467690827675090944
ダマスクローズとダマスクローズの収穫、加工が紹介されています。