Annabel's Private Cooking Classあなべるお菓子教室 ~ ” こころ豊かな暮らし ”

あなべるお菓子教室はコロナで終了となりましたが、これからも体に良い食べ物を紹介していくつもりです。どうぞご期待ください。

ダマスクローズ 55

2020年05月18日 | ダマスクローズをさがして — Ⅱ

赤い花がより赤く、白い花がピンクっぽく。その個体に特異な形質が表現されるポイントが遺伝子のどの場所に起因するのか判っている場合、もしくは特異な形質が表現されている個体を比較して原因となっている遺伝子上の場所を探る場合、2つの方法があります。一つは特定のDNA部位を増やして遺伝子の機能を調べる方法です。二つめは特定の遺伝子配列を読む方法です。

一つ目の方法にPolymerase Chain Reaction (ポリメラーゼ連鎖反応)があります。この方法は今話題のPCR検査法と電気泳動法を組み合わせた方法です。

調べたいDNA部位を抽出し、そこにプライマー(標的DNA領域に相補的なおおよそ20塩基対かそれ以下の長さの短いヌクレオチドの一本鎖DNA。自動合成装置によって自動的に合成できる。) DNA合成酵素(DNAポリメラーゼ)、材料となるヌクレオチドを入れます。

二重らせん構造になっているDNAに90°の熱を加えて熱変成をさせて1本の鎖にします。次に55〜60度に冷やすと、1本鎖のDNAにプライマーが結合します。(相補性を利用しているわけです)

すると、そこを起点としてポリマラーゼの働きで材料となるヌクレオチドに相補性が発揮されて並べられ、1本鎖と対になるDNAが合成されていきます。これを1回おこなうと1本だったDNAが2本に、2回繰り返すと2本だったDNAが4本に、3回繰り返すと4本が8本にという具合に増えて、n回繰り返すと2n 乗個になります。結合させるプライマーをあらかじめ設計することによって必要な部位の、特定箇所のDNA断片だけを作り出せることになります。これがPCR法です。下の絵を見ながらもう一度読むとよくわかります。

ポリメラーゼは火山活動の盛んな原始地球環境(高温,嫌気的,無機的)でも生育できる超好熱菌から得た酵素で耐熱性にすぐれ90℃の熱にも活性を失いません。

 

     

PCR法は、試薬を混交したDNA溶液の温度を上げて下げる、という一連の熱サイクルによって動作します。このDNAサンプルの加熱と冷却の繰り返しサイクルの中で、二本鎖DNAの乖離、プライマーの結合、酵素反応によるDNA合成、という3つの反応が進み、最終的に特定領域のDNA断片が大量に複製されます。

 

アガロース(寒天)やポリアクリルアミドゲルはたんぱく質を分離するのに適当な孔をもつ網目構造になっています。この性質を利用します。上で作ったDNA断片をゲルの中に入れ電気を流します。泳動距離は分子量の大きいものほど流れにくいことを利用します。(PCRによりDNAを増幅し目的の遺伝子を確認するため、制限酵素処理を行った後、電気泳動を実施します。)。電気泳動でその出現パターンを比較して(対象植物が)同じ種であるか否かを識別します。

 

二つ目はDNAシークエンシング (DNA sequencing) です。DNAを構成するヌクレオチドの結合順序(塩基配列)を見るために蛍光標識法を用います。蛍光標識すると、4種類の塩基に対応したそれぞれの波長が異なる蛍光色素で標識することができます。またX線フィルムの代わりに撮像素子を使うことでより迅速・簡便に利用できます。

『R. ×damascenaがどの薔薇との交雑の結果生まれたのか』と言う疑問に答えてくれるヒントのひとつがR. moschataや、R. fedschenkoanaの生息地です。

2017年に表された学術誌;“The Silk Road Hybrids” Robert E. Mattock MSc.。https://purehost.bath.ac.uk/ws/portalfiles/portal/187911419/The_Silk_Road_Hybrids.pdf

に次のような一文があります。要約の部分をご紹介します。

(著作権上、ここから先に引用する絵、図表等はわたしが独自に描いた、撮った、あるいは別の場所から引用したものを掲載することになります。)

 

要約

『 二期咲き(返り咲き)の遺伝子を移入したのは、中央アジアに分布していたR. chinensis ※1とR. rugose※2、それにウズベキスタンに広く分布するR. fedschenkoana※3だけであると思われてきました。

これに代わって、このレポートでは、紀元約3500年前から始まった文化交流の結果、R. ×damascenaに二期咲きの遺伝子が入り、ダマスクローズという園芸上の名前を持った薔薇が、はるか中央アジアのアムダリヤ川流域からローマに、BC300年までに入っていた事実を明らかにしています。

この論文は、DNA分析を2,000例の薔薇におこなった結果、ダマスクローズの親がR.gallica, R. moschata, R.fedchenkoanaであることを突き止めたlwata らの研究を追認する内容になっています。ダマスクローズの親達を地図上にプロットすると互いに重なっていることが最近見直されました。重なりは3つの親間の自然交配種だけではなく、アムダリヤ川流域内に位置しているR.×damascenaの発祥地ともダブっていることを示していました。

古代ローマ人のColumella, Dioscorides, Pliny, Theophrastus, Virgill らがダマスクローズの花びらを使ったローズウォーターの生産地点、日付、プロセスを書き残しています。ダマスクローズとローズウォーターの間には文化の連携があります。中央アジアからペルシャを通ってトルコ、中東からローマへとつづくローズウォーターの生産地を地図上に描くとシルクロードとの関係が証明できます。

2015年、古代ローマ時代のシルクロード※4沿いに位置する野外で、類似の気候をした、乾燥地、厳しい気候、暑い場所を選んで調査が行われ、モロッコのダデス峡谷※5で薔薇の繁殖、栽培を試みることになりました。その結果ローズウォーターは少なくとも4000年以上の間、中央アジア、ペルシャ、中東、地中海地域で宗教儀式に使われていたことを反映する結果を得ることができました。驚くべきことに、ダマスクローズと関連した宗教上の拡がりを持つものはイスラム教が広がる700年※6までは一切その姿を見出すことができませんでした。それよりも古代ローマ人が書き残していたローズウォーターの医用、衛生、消毒、香りとしての利用が広く行き渡っていました。ローズウォーターの薬効性の研究とそれを使っての慢性疾病に対する、治療方は広い範囲で、ローマにあった時と同じように中央アジアに受け継がれていました。

結論を言えば、人間の健康、香りに対する欲求がR.×damasceneに二期咲きの特性を持たせるとともに、BC3500年に中央アジアからBC300年のローマへと生育範囲を広げました。この文化交流にもかかわらず、18世紀までダマスクローズが園芸種として西方に拡散したという証拠がほとんどありませんが、以来、ダマスクローズは二期咲の、大きな花びらをした、香りのよい特性をもって今日の園芸家に愛されています。』

 

  1. ×damascenaがどの薔薇との交雑の結果生まれたのかは議論の尽きないところです。あのイギリスの園芸家Peter Bealesにしても結論の出せない問題であったと思われます。自著CLASSIC ROSESの中で『ダマスクローズはガリカ節と緊密な関係があるとは思うが、他の薔薇との関係を調べれば調べるほど判らなくなる。薔薇の一飼育家としては他の人の言うことに従うか、従おうとするしかない。』と述べています。

Iwataらの論文の内容についても“The Silk Road Hybrids”では触れていますので、これに沿ってお話を続けようと思います。R. ×damascenaはR. chinensis、R. rugose、R. fedschenkoanaとの交雑種であるとする説があります。一方で、R. rugoseの代わりにR. moschata を押す説があります。これにどんな説明で臨もうとするのか、Mattock, Robertが本文内で明らかにしようというのです。

       

            ※1 ロサ キネンシス;Rosa chinensis

絵はhttps://www.gardensonline.com.au/gardenshed/plantfinder/show_3188.aspx から、文章をWikiから引用させていただきました。

ロサ キネンシス(Rosa chinensis, 月季、和名. コウシンバラ、庚申薔薇)貴州省、湖北省、四川省が原産地。高さ1-2mの四季咲きの常緑低木。葉は羽状に3-5枚、長さ2.5-6cm・幅1-3cmの小葉が開く。直径1-2cm の赤い実ができる。中国で栽培され品種改良が加えられた(野生種は一重咲き)。多くの品種改良に重要な品種で、花と実は、生理不順、甲状腺の腫れに効能があるとされ、中国漢方薬として使用される。