『わたしは泉の水面に映し出された咲き乱れる薔薇の花を見たのです。薔薇の花の咲き誇る場所へと、行きたい気持ちを抑えることができなくなったのです。その時、あとをつけ、ようすをうかがっていた「愛の神」は、ただちに矢を手にすると、弦を矢筈に当て、その弓を耳まで引き、わたしに向けて射掛けたのです。』
Roman de la Rose France, Paris, between 1340 and 1350
MS M.48 fol. 14r
『わたしは、(薇の蕾は)真紅の繊細な色で彩られ、中略 四対の葉がある茎は燈心草のようにまっすぐで、中略 蕾からは周囲に香りが拡がり、その芳しさがあたり一帯に満ち満ちていた 中略 薔薇の花の中からとても美しいひとつが他のどの蕾よりも気に入りました。その時です、 中略 「愛の神」は一本の矢を手にし、 中略 それを耳まで引き、わたしに向けて射掛けたのです。中略 矢はわたしの眼を通して一気に心まで矢を送り込むというものでした。(※参照) 中略
気絶から覚めたわたしは矢羽根の付いた軸を引っ張り出したのですが、“美”という名を持つ棘のある矢尻は心のなかにささったままで、抜けずになかに残ったままでした。けれども血は流れなかったのです。』
La flèche dans l’œil Roman de la rose Guillaume de Lorris et jean Meun, Paris, vers 1320-1330.
BNF, Manuscrits, français 24388, f. 14
http://www.bl.uk/catalogues/illuminatedmanuscripts/record.asp?MSID=8551&CollID=16&NStart=200117
※ 愛の放つ矢が眼を通って心に達するというイメージで恋に落ちる瞬間を表現する技法は、中世においてひとつのトポス(表現)となっていた・・・・・・訳注から引用させていただきました。
「愛の神」は続けて、「純真」、「礼節」、「同伴」、「愛想」の四本の矢を放ちわたしを苦しめ気絶させました。
. 16 Diex d'Amours shooting the dreamer
“わたし”を苦しめ、しかし心地よさをもたらす特別の力を持つ矢を射た「愛の神」が、最後にこう叫びました。
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