御手洗渓谷の傍の駐車場に車を置いた。
309号線がトンネルの手前で大きくカーブしている。トンネルの向こうに何があるのか歩いていってみようと中に入って驚いた。
入り口は普通のトンネルと変わりがない。しかし中は横も天井もまるで、鑿で削り取りながら彫り進めたように思える。(掘り進めたというようには見えない。)
おそらく大きな一枚岩がデンとここにあって、その向こうに道路をつけるのを阻んだことだろう。しっかりした岩なので岩剥きだしのままでもトンネルとしての役目を果たすことが出来たに違いない。
トンネルを通りながらの想像であって、これについては、確かめてない。
このトンネルから何の脈絡もなしに3つのトンネルが頭を過ぎった。
一つはずっと昔、夫の運転で通った上高地への釜トンネル。舗装もなくでこぼこの地道の中ほどには水の流れさえあった。
次は、伊豆の踊り子のトンネルの場面。こんな岩壁でないのになぜ思い出したのだろう。最後は、カンヌで、新人監督賞を取った河瀬直美さんの「萌の朱雀」のシーン。映画の中にトンネルのシーンがあったのかさえ記憶はないのに。
このトンネルから、私のイメージの世界が広がるのは、手彫りのようなトンネルのせいであろう。
人の手の温もりか、息づかいのしそうな不思議なトンネルだった。