雨宮智彦のブログ 2 宇宙・人間・古代・日記 

浜松市の1市民として、宇宙・古代・哲学から人間までを調べ考えるブログです。2020年10月より第Ⅱ期を始めました。

新・本と映像の森 41(マンガ3・SF8) 手塚治虫『火の鳥 10<太陽編 上>』角川文庫

2017年03月31日 10時08分54秒 | 本と映像の森


 新・本と映像の森 41(マンガ3・SF8) 手塚治虫『火の鳥 10<太陽編 上>』角川文庫

 角川書店、1992年、原著1986年、247ページ、定価本体505円。

 傑作「火の鳥」の「太陽編」は、古代の戦場シーン、いや戦闘が終結した直後の悲惨な戦場シーンから始まる。

 あの古代日本史の画期をなす敗戦を、日本の歴史家はわづかだけ触れ(いずれ「新・本と映像の森」で扱う)、芸術家はほとんど描かないなかで、手塚さんだけは、正面からこの敗戦を描いた。

 そのことの大事さを指摘しておく。

 唐・新羅と百済・倭との戦争が、百済・倭の大敗・百済の滅亡に終わり、負けた者たちが半島を捨てて日本へ逃げていく、そんな時代の物語である。

 百済の王族の若者ハリマは、偶然から死刑を免れて、顔の皮膚をはがされ、被された狼の頭がひっついて、離れなくなる。

 逃亡者となったハリマは、薬医師のおばばや倭の大将軍・阿倍引田比羅夫といっしょに小さな船で、日本へ逃れる。

 よくも手塚さんは、朝鮮人の若者を主人公にできたものだ。

   ☆

 「太陽編」のタイトルは、太陽をシンボルに新宗教を創出する天武天皇と、もうひとつはるか未来の日本宗教国家からもきている。

 それは「太陽編(中)(下)」で紹介しよう。

 物語のおもしろさ、人物の造形の点からも、すてきな作品であると思う。



< 新・本と映像の森 21~40 目次 >

2017年03月30日 10時03分13秒 | 本と映像の森

   < 新・本と映像の森 21~40 目次 >

 新・本と映像の森 21(経済1) 嶋崇『いまこそ『資本論』』朝日新書、2008年
 新・本と映像の森 22(教育1) 中井久夫『いじめのある世界を生きる君たちへ』2016年
 新・本と映像の森 23(西欧1) 芝崎みゆき『古代ギリシアがんちく図鑑』バジリコ、2006年
 新・本と映像の森 24(古代2) 今村啓爾『富本銭と謎の銀線』小学館、2001年

 新・本と映像の森 25(SF5) オーウェル『一九八四年』ハヤカワepi文庫、2009年
 新・本と映像の森 26(推理4) 森博嗣『森博嗣のミステリィ工作室』講談社文庫
 新・本と映像の森 27(マンガ2) 山田芳裕『へうげもの 1』モーニングKC、2005年
 新・本と映像の森 28(古代3) 森浩一『倭人伝を読みなおす』ちくま新書、2010年
新・本と映像の森 29(生物1) 泉麻人『東京少年昆虫図鑑』新潮ohi文庫、2001年
 新・本と映像の森 30(郷土2・古代4) 
                  米田一夫『私説 遠州風土記』樹海社、1982年

新・本と映像の森 31(古代5) 斉藤光政『偽書「東日流三郡誌」事件』新人物文庫、2009年
 新・本と映像の森 32(哲学1) 井尻正二『銀の滴金の滴』築地書館、1981年
 新・本と映像の森 33(推理5) 江戸川乱歩『孤島の鬼』角川ホラー文庫、2009年
新・本と映像の森 34(天文2) 村山定男『キャプテン・クックと南の星』河出書房新社、2003年
 新・本と映像の森 35(ラジオ1) NHKFM「きらクラ」

 新・本と映像の森 36(映画1・SF6) 「シン・ゴジラ」
 新・本と映像の森 37(文学1・教育2) 旭爪(ひのつめ)あかね『稲の旋律』新日本出版社、2002年
 新・本と映像の森 38(SF6) 半村良『石の血脈』角川文庫、1975年
新・本と映像の森 39(文学2) 石川啄木『新編 啄木歌集』岩波文庫、1993年
 新・本と映像の森 40(文学3) 青空文庫「宮本百合子」


新・本と映像の森 40(文学3)  青空文庫「宮本百合子」

2017年03月30日 09時56分55秒 | 本と映像の森

 新・本と映像の森 40(文学3)  青空文庫「宮本百合子」

青空文庫は、「誰にでもアクセスできる自由な電子本を、図書館のようにインターネット上に集めようとする活動」で、「著作権の消滅した作品と、「自由に読んでもらってかまわない」とされたもの」をファイルで読めるようにしています。

 つまり「インターネット無料図書館」ですね。

 ただ、人物によって、掲載された著作に多い少ないがあります。

    ☆

 宮本百合子さんは多い方です。1174作品を公開しています。まだ作業中なのは日記ぐらいです。

 宮本百合子さんの小説で主なものをあげると、初期を除くと、「伸子」「二つの庭」「道標」そして「1932年の春」「刻々」などをへて「風知草」に至ると、いうところか。

 周知のように、「12年」「1950年」などは、百合子さんの急逝のために、書かれることなく終わった。

 
 

雨宮日記 3月29日(水) 想定外‥‥

2017年03月29日 20時44分35秒 | 雨宮日誌

 雨宮日記 3月29日(水) 想定外‥‥

 栃木の高校、雪崩事故は、報道で読む限り「想定外」という言葉が、頭をよぎる。雪崩が起きることを想定して、対策を立てておくはずでは、ないのか。

 16才、17才の若人を、むざむざ死地へ行進させるとは。

 原発問題で大阪高裁は、高浜3,4号機に安全のお墨付きを与えた。これも「想定外」なのだろう。「喉元過ぎれば熱さを忘れる」という。

 命が失われてからでは、もう遅い。原発が爆発してからでは、もう遅い。手遅れにならないうちに、対策を希む。

 なお雪崩問題と原発は関係ないと思う方も、いらっしゃるでしょうが、ボクは似通った構造の問題と思います。念のため。


社会・経済 1 金の出所~100万円は、どこから?

2017年03月29日 17時22分40秒 | 社会・経済・政治
 社会・経済 1 金の出所~100万円は、どこから?

 安部夫人の100万円がほんとだとしたら、その出所がきになる。数日前のニュース・ショーである弁護士が「内閣官房機密費ではないか」と発言していたが、ボクは彼に共感し、その可能性はあると思う。

 内閣官房機密費は領収書、報告もいっさい不要で、月に1億円ほど使える。官房長官が扱っている。外務省も入れるともっとになる。

 どうだろう。100万円は一月の100分の1だ。

ネットで「官房機密費」と検索すれば、かなりヒットする。むかし田原総一郎さんが野中官房長官から1000万円をそのまま返したという事件も。


新・本と映像の森 39(文学2) 石川啄木『新編 啄木歌集』岩波文庫、1993年

2017年03月29日 11時10分11秒 | 本と映像の森

新・本と映像の森 39(文学2) 石川啄木『新編 啄木歌集』岩波文庫、1993年

 岩波書店、440ページ、定価本体800円。

 『一握の砂』551首と『悲しき玩具』194首、ほか補遺の啄木の短歌を集めている。ちょっと全首は多すぎて、読み切れない。

 啄木の歌は、ボクはかなり好きな歌が多い。なぜだろう。

 啄木の作る短歌が名歌だからが、そろともボクと近い位置にいるから共感するからか。

     ☆

 ここでは好きな短歌のうち、ほんの一部を上げておく。

   夜寝ても口笛吹きぬ
   口笛は
   十五の我の歌にしありけり   60ページ

   世のはじめ
   まづ森ありて
   半神の人そが中に火や守りけむ  97ページ

   あたらしき洋書の紙の
   香(か)をかぎて
   一途(いちづ)に金を欲しと思ひしが  103ページ

   こころよく春のねむりを
   むさぼれる
   目にやはらかき庭の草かな   139ページ

   つね日頃好みて言ひし革命の
   語をつつしみて
   秋に入れりけり        321ページ、1910年

   地図の上朝鮮国に
   くろぐろと
   墨をぬりつつ秋風を聴く    321ページ、1910年







新・本と映像の森 38(SF6) 半村良『石の血脈』角川文庫、1975年

2017年03月28日 10時36分12秒 | 本と映像の森

 新・本と映像の森 38(SF6) 半村良『石の血脈』角川文庫、1975年

 角川書店、572ページ、540円。後、集英社文庫(2007年)

 半村さんの初期のSF小説。

 主人公のひとり・隅田賢也は、夏木建設の新進課長で、会社の折賀専務の娘・比沙子と結婚したばかりだった。

 突然、比沙子さんが何の前触れもなく、失踪する。

 隅田は、旧知の会沢やカメラマン・伊丹英一とともに、探索を開始する。

 そこに浮かび上がってきたのは、古代から続く歴史の謎であり、歴史の裏に生息する謎の一族である。

 暗殺教団やら、シュリーマンやら、吸血鬼やら、狼男伝説やら、いっぱい出てきます。


第1章  アトランテイスの壺
第2章  内腿の指跡
第3章  赤い酒場
第4章  メガリスの原郷
第5章  大和朝廷巨石信仰説
第6章  甘い吐息
第7章  不滅計画
第8章  地獄の番犬
第9章 地下のピラミッド
第10章 灰色の世界
第11章 狼瘡(エリテマトーデス)
第12章 蜜月の狂宴(サバト)
第13章 サン・ジェルマン伯爵
第14章 血の提供者
第15章 吸血鬼伝
第16章 男漁りのライセンス
第17章 偶像破壊(イコノクラスム)


雨宮日記 3月27日(月)  栃木で雪崩遭難

2017年03月27日 20時13分09秒 | 雨宮日誌
 雨宮日記 3月27日(月)  栃木で雪崩遭難 
 
栃木のスキー場で登山訓練をしていたら、表層雪崩で9人くらいが死亡。こういうときは訓練中止にできないもんか。高校山岳部の共同訓練なら、なおさら。

   ☆

 今日のおんがく 15 チャイコフスキー「アンダンテ・カンタービレ」(弦楽四重奏第1番・第2楽章)

 トルストイが泣いたという曲。ボクも大好きです。


新・本と映像の森 37 旭爪(ひのつめ)あかね『稲の旋律』新日本出版社、2002年

2017年03月27日 08時25分41秒 | 雨宮日誌


 新・本と映像の森 37 旭爪(ひのつめ)あかね『稲の旋律』新日本出版社、2002年

 281ページ、定価本体1800円、

 全編が手紙形式で書かれた小説。

 主人公のひとり、藪崎千華は大学を中退し、入った印刷会社も仕事の失敗から出社できなくなり、 になる。

 偶然、迷い込んだ千葉の農村で、田んぼのすみに、ペットボトルの中に「伝言」を残す。

   「私は もうすぐ30歳になってしまいます。
    でも、私は、働いていません。
    結婚も していません。
    何かを学んでいる 最中でも ありません。。
    ただ毎日 家のなかにいて、食べて、飲んで、寝ているだけ。
    決まった仕事に就きたいけれども、他人と会うのが怖いのです。
    このまま父も母も 年を取ってしまったら、
    私も いっしょに死ぬしかないのでしょうか。
    誰か 私を助けてください。
     2000年7月31日  藪崎千華」

 これに反応して、手紙を出した農業「青年」の広瀬晋平との文通から物語は始まる。

 物語は、千華が父母の影響下を脱して、自分をいかに形成していくか、を生き生きと描く。

 晋平の農業と千華の音楽が物語の二つの大きな柱になる。

    ☆

 実写映画「アンダンテ ~稲の旋律~」を見ていないが、小説には小説の独自の価値があると思う。

 里山の「稲の花」は、ボクには、今となっては懐かしい思い出である。

新・本と映像の森 36(映画1・SF6) 「シン・ゴジラ」

2017年03月26日 10時29分39秒 | 本と映像の森
 新・本と映像の森 36(映画1・SF6) 「シン・ゴジラ」

 ずっと映画館にかかっていたので、DVDで見ることができなかった。今月、やうやく、貸し出しされるようになった。

 物語の発端は、東京湾で謎の水の噴出事故で、クルーザーの乗員が行方不明になる。そして、その謎の水流が東京へ上陸して来る。

 マニュアルのない緊急事態の連続に、ふりまわされ、対応ができない政府の発言のバカバカしさ。

 政府の下っ端である主人公を中心に組織される、期待されない対策チーム、出世は考えられないあぶれ者ばかりを集めた混成チームが、始動する。これが、この映画の中心である。

 総監督・脚本庵野秀明さん、監督・特技監督樋口真嗣さん。東宝製作。ゴジラシリーズの第29作。2016年7月公開。

   ☆

 第1幕ではゴジラは、まだ成長途上のためか、なんだか形が変である。しかも、途中で海へ戻ってしまう。

 しかし、ゴジラは放射能を後に残していくことで、その生物としての異常さを、チームと世間に印象づける。

 しばらくして、ふたたびゴジラが姿を表して、鎌倉に上陸、東京へ向かう。本格的な惨劇の幕がひらく。

 以下のストーリーは、物語の主要対立点に触れるため、書かない。自分で見て欲しい。

   ☆

 全体として、きわめて面白いSF映画に仕上がっている。第2作も期待する。

 第2作では、ゴジラが自分の食べ物の放射性物質の宝庫である、原発を襲うことも推定されよう。

 ゴジラが大都会を襲ったのは、その食料が大都会にあると間違って推定したからである。今度は、送電線の電流から発電所の位置を正しく推定して‥‥。

 もしくは、ゴジラの細胞の秘密から、アメリカが人間を改造して、強化人間を作り出そうとする、というのはどうだろう。



新・本と映像の森 35(ラジオ1) NHKFM「きらクラ」

2017年03月25日 20時12分31秒 | 本と映像の森

 新・本と映像の森 35(ラジオ1) NHKFM「きらクラ」

 去年から毎週、聞いているクラシック番組。音楽好きのタレント・ふかわりょうさんとチェロ奏者・遠藤真理さんのかけあいトークが楽しい。
 
「ご自愛ください」が番組の流行語。

 毎週、日曜の午後2~4時。再放送は月曜、朝7時半から9時半。

 クラシックファンなら、おすすめです。それでは、みなさん、ご自愛ください。


新・本と映像の森 34(天文2) 村山定男『キャプテン・クックと南の星』河出書房新社、2003年

2017年03月25日 09時33分33秒 | 本と映像の森


新・本と映像の森 34(天文2) 村山定男『キャプテン・クックと南の星』河出書房新社、2003年

 A5版、172ページ、定価本体2000円。

 著者の「南天病」の産物。ほかに類書のない、すてかな本である。しかも写真・解説図はオールカラーという豪華版でこの値段。

 大きく、3つの部分に分かれていて、第1はユニークな南天星座の紹介。かじき座やあるご船座などすべて。

 主題ではないが、南天星座のなりたちが西欧の植民地形成と深くからまっているのが、よく分かる。

 テーマの第2は、キャプテン・クックの生涯と金星食の観測。テーマの第3は、ポリネシア人の大航海。

 ただし南十字星、アルファ・ベータケンタウリ、マゼラン雲、などは叙述していないのは、残念。


 雨宮日記 3月24日(金)晴れ 行ってらっしゃい

2017年03月24日 15時36分37秒 | 雨宮日誌
 雨宮日記 3月24日(金)晴れ 行ってらっしゃい

 亜9時から、ケアマネさんと月1回の短時間の懇談。車椅子と起立補助具の2つを借りるためにだけ、月1回こなければいけないので、ケアマネさんもたいへんだ。

 10時から平和新聞の配達の仕分け。3人でしているのを、ボクは見ていて、しゃべるだけ。

 午後は則子さんは、長女のところへ。行ってらっしゃい。

   ☆

 今日のおんがく 14 モーツアルト「「歌劇 魔笛 Die Zauberflote K626」序曲」
 
 名曲「魔笛(まてき)」序曲ですが、日本語的には「魔法の笛」序曲とでもいうべきものと思います。「魔笛」では、聞いたとき「悪魔の笛」と勘違いしかねない。

新・本と映像の森 33(推理5) 江戸川乱歩『孤島の鬼』角川ホラー文庫、2009年

2017年03月24日 07時52分58秒 | 本と映像の森


 新・本と映像の森 33(推理5) 江戸川乱歩『孤島の鬼』角川ホラー文庫、2009年

 角川書店、江戸川乱歩セレクション⑦、336ページ、定価本体667円。

 原書1929年~1930年。

 主人公・箕浦は東京・丸ノ内の貿易商社で働く25才のサラリーマン。職場に入ってきた木崎初代と恋におち、婚約を誓う。

 だが箕浦の、大学時代の先輩・諸戸道雄が、なぜか木崎初代に結婚を申し込んできたのだ。諸戸は、学生時代に箕浦に愛を告白したのではなかったか、それがなぜ‥‥。

 同じ頃、おかしな老人が、周囲に出没し、不安を口にする初代。

 そして大正14年6月25日、最初の惨劇がおきた。初代が深夜に殺害されたのである。それも密室の中である。

 さらに、事件を調べはじめた友人の深木山幸吉が、海水浴客で賑わう鎌倉の海岸で白昼殺される。

 こうして物語は始まる。

 もちろん、本筋の「孤島」と「鬼」へ行き着くのだが。

    ☆
 
 この小説には、乱歩特有のグロ表現と、戦前のため今日では差別表現が、あります。いやな片刃読まないほうが賢明です。

    ☆
 
 江戸川さんは1965年に亡くなったため、没後50年の2015年に著作権フリートなりました。

 現在、ネットで読める青空文庫で江戸川乱歩さんの39作品が公開されていますが、「孤島の鬼」など81作品が作業中です。


新・本と映像の森 32(哲学1) 井尻正二『銀の滴金の滴』築地書館、1981年

2017年03月23日 10時03分04秒 | 本と映像の森

 新・本と映像の森 32(哲学1) 井尻正二『銀の滴金の滴』築地書館、1981年

 213ページ、定価1200円

 とても面白いエッセイ集。

  < 目次 >

  Ⅰ 生活のあなかで、
  Ⅱ 教育の原野、
  Ⅲ 人の心、
  Ⅳ 科学者の世界、
  Ⅴ 哲学の泉、
  Ⅵ 青い鳥をもとめて

 著者111冊目の著書。ただし共著をふくむ

 たとえば、「理屈や法律は、他人が勝手につくったもので、自分が創造したものではない。したがって、それらに従う理屈は絶対にない、という理屈がなりたつ。」(Ⅰ、理屈)

 ゆえに、井尻さんの理屈に、ボクが「従う理屈は絶対にない、という理屈がなりたつ。」というわけである。



 いちばん紹介したいのは、フクロウとニワトリのはなしである。

 よくヘーゲルの言葉として「ミネルバのフクロウは、たそがれがやってくるとはじめてとびはじめて飛はじまる」(ヘーゲル『法の哲学』「序文」)

 それに対して、井尻さんは「われわれにとって必要な哲学は「天神様のニワトリは、暁とともに鳴きはじめる」たぐいのものでなくてはならない。」

 これは、まったくそのとおりである。



 著者は古生物学者で、戦後結成された「地団研(地学団体研究会)」の指導者です。というより、ボクにとっては岩波新書の『地球の歴史』『日本列島』『化石』の著者として、とてもなじみがある。

 その後、長いあいだ、地質学などを読んだことがなかったので、大陸移動説やプレート・テクトニクスの消長にも、うとかった。

 最近になって、その大陸移動説やプレート・テクトニクスに、地団研(地学団体研究会)が反対を続けたというのを知って、驚いた。

 この本の162ページを引用しよう。

 「大陸移動説は、アメリカ生れの海洋底拡大説と同盟をむすび、現在では「国定教科書」ー文部省検定済み教科書の古名ーなみの権威をもって学界に君臨している。」

 「しかし、大陸移動説も、海洋底拡大説も、まだ法則として確立した(確認した)ものでもなければ、ましてや科学的事実でもなく、まだ仮説の段階にある一学説だ、と私個人は考えている。」

 主要部分は、これで全部である。はたして、1981年という時点に、このような「仮説」認識が成り立つのだろうか。

 どうも、この部分は『科学論』の著者らしくない。

 反対なら反対で、書くものがかなりの率で本になる井尻さんなら、科学者らしく反論本を書けばいいのではないか。

 事実と資料に基づいて、150ページに著者が「科学はまず「事実」からはじまる」と書いているように。

 あるいは、地団研(地学団体研究会)が書いた反論があるのかも知れない。だれか、知ってる方があったら、教えてくください。

 なお井尻さんは、1999年に亡くなられました。