アグリコ日記

岩手の山里で自給自足的な暮らしをしています。

風雲!山ノ神 最終回

2005-01-24 11:57:32 | マルちゃん
薙刀の切っ先が大きく弧を描いて一閃、二閃。

ジッちゃん!バッちゃん!・・・

マルは目を見開いて一瞬固くなった。
トラクターの座席はたちまちに覆い被さるネズロン兵によって黒山のごとく。
急ハンドル。横転するトラクター。激しく上がる雪煙。ネズロン兵たちが雪の上に投げ出される。フォークや鎌がマルの足元にまで散らばる。

と、トラクター後部に連結した作業機が動き出した。転倒した弾みでPTOのスイッチが入ったのだろうか。土壌改良剤である石灰を積み込んだブロードキャスターが音を立てて回り出す。
噴出口から白い粉が噴水のように空高くばら撒かれた。辺り一面煙幕のように真っ白。

(うっっ・・・!)

僅かな気配にマルが振り向くと、林の中に白粉にまみれた塊が蠢いていた。

! 見えた!

カメレオンジャーはマルのすぐ後ろの枝にぶら下がっていた。
横飛びしたマルは雪の上から素早く鉈を拾って白い影に投げつける。
カメレオンジャーはブロードキャスターからの石灰の噴霧をまともに浴びて、視界を失っているようだ。
カッ・・・!
鉈が腹に突き刺さる。
「グエェッ!!」
枝から落ちたカメレオンジャーは闇雲にマルに向けて尾のひと振りを浴びせかける。しかし既に視覚に捉えられた攻撃は、マルの鼻先を掠めて空振り。
飛び退きざまにフォークを掴む。
渾身の力を込めて、マルの鉄腕が唸る!

フォークは跳び退ったカメレオンジャーの顔面を深々と貫き、
背後の杉に突き刺さった。

(ゲッ!・・・・)

最期の叫びも発せぬまま、開いた口から大量の血が吐き出される。
石灰でまみれた体が見る見る緑色の血に染められて行く。

それが、カメレオンジャーの最期だった。


それを見届けたマルは、呆然と雪の上に膝をつく。
間一髪の闘いだった。もしあの時平蔵爺さんが来てくれなければ・・・
あ、そうだ! ジッちゃん、バッちゃんは!!・・・

横転したトラクターの前輪はまだ緩やかに回転を続けている。
あたり一面石灰で真っ白。出し抜けにその中から枯れ木のような腕が伸びて、何かをまさぐるような素振りをした。
「ば、ばんばぁ・・・無事かぁ・・・・」

ひと呼吸の後、その向こうでか細い声がそれに応えた。
「じっちゃぁん・・・・」





4. 山の神、星の神


「それで・・・」
チオリがりんごを剥きながら訊いた。
「カメレオンジャーの死体はどうしたの? 現場に残ってなかったわよねぇ・・・。」
ここは県立病院の一室。豪華な造りの個室にはこれまたゆったりとしたベッドが備えられている。それに横たわるのは猫家マル。オーブ・パープルこと猫野チオリは傍らの椅子に腰掛けて見舞いの果物籠を手元に引き寄せた。
「息を吹き返したネズロン兵たちが、逃げがけに爆破してったんだ。爆薬付きのクナイで粉々に・・・。
オラはそん時ぁもう動く気力が無くって・・・」
チオリは剥いたりんごを皿ごとベッドに坐ったマルの膝の上に置き、今度はメロンをふたつに切り始めた。
「ふうぅん・・・ネズロンも冷たいもんね。いくら死んだって自分の同胞の死体ををそう簡単に始末できるのかしら。・・・まあ、そう命令されてるんだろうけど。
あ、ところでね、聞いた?
虎ケン指令がお爺さんに新品のトラクターを買って上げるって話・・・」
「ううん、何も・・・」
「マッセイファーガソンって、もうとっくの昔にアメリカの農機会社に買収された会社でしょ? あのトラクター、もう修理不能なそうよ。
それで指令が、その代わりに最新式のIT制御トラクターを買って進呈すると申し出たそうよ。」
「へえぇ・・。そりゃあ、いいこった。」
「ところがね、平蔵さんはまかりならんと。あのトラクターはわしの家族も同じだから、今更手放すわけにはいかん。是が非でも直す。その気があるんなら修理代だけ出してくれんか、と言ったそうよ。
でも50年前のトラクターじゃねえ・・・部品はすべて特注になるし、結局新品を買うよりも高くつくんだって。・・・でも指令は引き受けたそうよ。」
「はっはっ・・・ジッちゃんもやるじゃんなあ。」
「それと今度の活躍に対してどうか報償を受け取って欲しいと金一封用意したそうなの。
ところがそれも断られて、孫を助けるのにお上にお礼されたんじゃあ辻褄が合わん。そんな金があるんなら、マルの婿でも募集して探して欲しいと逆に注文付けられたそうよ。」
「うひゃあぁ~~~っ!」

その時窓を通して階下から声が聞こえた。
「こりゃあ、このバンバぁ! トイレぐらい、ひとりで行かんかあ!
いつまでも看護婦さんを煩わせるんじゃねえ!」
この病室の2階下に平蔵と多絵夫婦が入っている大部屋がある。虎ケン指令は彼らのために二人部屋を用意したようだけれど、そんな贅沢に国の金を使うな、とか言ってこれもまた逆に怒られ、強引に大部屋に引っ越されたそうだ。


あの時、多絵婆さんは樹上から襲い掛かるネズロン兵の槍の切っ先をふたつ切り落とした。平蔵爺さんは大鎌で正面のネズロン兵の攻撃をかわし、結局お陰でふたりとも致命傷を負わずに済んだ。
単なる幸運か鬼の一念か、年寄りの「昔取った杵柄」も、なかなか馬鹿にできないものである。

しかし、とマルは大きくため息をついて窓を見やった。
(それにしても、今回の闘いはあまりに幸運が付き過ぎた・・・)
転倒したトラクターから石灰が撒かれたおかげで、自分は姿の見えないカメレオンジャーを倒すことができた。そしてジッちゃん、バッちゃんも、あのネズロンたちを相手に殺されずに帰って来れた。
これが幸運と言わずになんと言おう。まるで常日頃ジッちゃんの言っているとおり、山ノ神様に守られているみたいだ。
山に入れば人は山ノ神に守られる。
そして空にいれば、もしかしたら星の神様に・・・。
そうだな、いつも自分たちはいつも誰かに守られているんだな。マルは窓の外を見やりながら、つかの間そんな思いに耽っていた。


ふふっ・・・とチオリが笑う。
「でも、わかるな。
あんな爺さんたちの、孫なんでしょ? マルちゃんは。」

えっ?とチオリを見上げるマル。
その時病室のドアを開けて華やかな面々がドヤドヤ入って来た。
「マルぅ、どう、具合は?」
カオリを先頭に、ユウカ、ミキ、それに虎ケン指令。
「またあ、自分ひとりで闘っちゃって、ずるいわよ、マルちゃん!」
「指令はお怒りだかんね!」
「ホント。今度は私の分も残しておかなくっちゃ!」
「んだらばこん次は、カオリちゃんの分、残すことにすっぺ。」
「そうよ! でもよっぽどのイケメンでないと、許可しませんからね。」
「そんなネズロン、いるのか~~~!」
・・・・・

師走の雪降る窓に、輝く星々のような明るい笑い声が響き渡った。





(「風雲!山ノ神」 完)



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2 コメント

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ああ、いいなぁ。 (あん♪)
2005-01-26 19:43:01
agricoさんのオーブは、

戦闘シーンの緊迫感もいいけど、

やっぱ、大団円のところの人物描写が好きです。

マルちゃん、好き
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ありがとう。 (agrico)
2005-01-27 09:49:26
いつも応援してくれて感謝してます。

これが私の最期のオーブ作品になるけれど、自分なりによくここまで書いて来れたと思ってます。

今ほとんど一年ぶりにHPを更新してますが、マルちゃんの絵だけでもそちらに引っ越そうとしてますよ。

冬になったら・・・と思ってしたいことを貯めてたんですが、いざ冬になっても忙しくてなかなか思うとおりにできませんね。

私もそのうちあん♪さんのところのように視覚に訴えるサイトを作りたいと思ってます。

いい絵が描けたらまたお絵描きに行きますよ。
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