幼い頃に絵本や児童書でザシキワラシの話を読んだ憶えがある。部屋の中で手を繋いで遊んでいるといつの間にか子どもの数が一人増えていたり、大きな家に一人ぼっちで留守番していると誰もいないはずの部屋から箒の音が聞こえてくる・・・それらの寸話はあの頃の日常の背景に直に結び付いていたものだから、子ども心になんとなくザシキワラシはきっといて、いつか自分の前にも姿を現すかもしれないという興味と怖さのない混じった . . . 本文を読む
もしも私たちが今自分の居る場所とは違った時代や遠い風土に思いを馳せるならば、そこで精神の感覚野に捉えられる世界は、ほんの数度のずれかそれとも全く別の方角かの違いはあるにせよ、そこは私たちの持っている常識や一般観念がそのままでは通用しない、異次元性を有していることを頭の隅に留めておかなくてはならない。昔私がそのさわりに触れたのは海外での生活体験だったし、その概念をより強固ならしめたのは歴史時間の中 . . . 本文を読む
ふとしたきっかけで「山人考」という書き物があることを知った。柳田國男による日本の先住民族についての論考なそうだ。ちょうど私は「鬼」をテーマにした本を読み終えたばかりで、自分の中でそもそもの根源の時代、「鬼=人」ではなかったろうか、山を拠点として生きた人々。また鬼は原初魔物というよりも、かえって今に言う神に近いものではなかったろうかなどと徒然に考えていたところだったので、無性にその本が読みたくなっ . . . 本文を読む
どうしてまた断食なんかするのですか?・・・こう訊かれることがままある。
私も断食するなんてことを殊更自分から言いふらしたりはしないのだが、それでも場合によってはどうしてもそのことを明かさなければならないような時があったりする。例えばたまさか断食中に果物や饅頭などのおいしそうな物を頂いたり勧められたりした時などがそうだ。そんな時は頂いた厚意にお応えする形で、あらぬ言い訳などする代わりにはっきりと . . . 本文を読む
1929年に実用化されたPCB(ポリ塩化ビフェニール)は、2個のベンゼン環から構成される分子(ビフェニール)と塩素とを結合させることによって生じる、209種類の化合物の総称である。1881年ドイツの科学者によって初めて合成された。化学的に極めて安定した構造を持ちかつ不可燃。高温にも低温にも強く、絶縁性で電気を通さない。また金属を腐食せず、水に溶けにくく油によく溶けるという性質を持つ。因みに当時の検 . . . 本文を読む
炭焼かまどのはす向かいに
秋の暮れから佇むアブラナ、ポツリと一株。
木枯らし抜ける枯れ野にささやかな青葉をつけて
今年の冬はあったかいからなあと、僕はそこを通るたびに思ってた。
秋深まって霜が突き刺さる白い朝
見ればそれはきりんのように達者なトウを立てて
木漏れ日のように暖かくて控え目な花を咲かせた。
やがて粉雪が舞い土凍り、幾度も幾度も木枯らし鳴いて
地面に伏せた葉はもうぺったりと凍りつき、きり . . . 本文を読む
大腸洗浄というものがあるらしい。
聞いて名のとおり大腸内に溜まっている便(特に宿便)を洗い出すもので、それ専用の洗浄装置を備えた病院もあり、疾病の治療を目的としたものでない限り医療行為とは看做されないので対象が健常者であれば特に制約もなく、来院した人に対して即実施してくれるそうだ。効用としては便秘の解消はもちろんのこと、生態機能の活性化、生活習慣病の予防、ダイエット、にきび・シミ・肌荒れなどお肌の . . . 本文を読む
昔から子どもに関心があったものだから、図書館やスーパーや、地域の行事などに行ったりすると自然とそこにいる子どもたちに目を留める。もっともそのような場所に顔を出す子らはいわゆる「健康児」が多いわけなのだが、しかしよく観察するとどうも少し、いや、そんなことないかな、でもなんとなく様子が・・・と思ってしまうことが度々ある。
落ち着きがない子、むやみに走り回る子、親らしき人の袖を引っ張り際限なく駄々をこね . . . 本文を読む
200年前、新大陸にヨーロッパからたくさんの移民が渡った時に、バッファローはおおよそ6000万頭いたと推定されていた。「茶色の大地が動いている」という形容が言葉の表現の枠を超えてそれをもの語る。見晴るかす草原を疾駆するバッファローの大群は、想像するだに壮大で躍動的であり、大地に漲る圧倒的な生命力を感じさせただろう。そこに住むアメリカ・インディアンたちはバッファローを主食とし、その群れとともに移動し . . . 本文を読む
各地域の神話や伝説には、しばしば人間が動物や鳥、木や花、更には石などといった自然界の存在たちと会話する様子が描かれている。今まで何気なく読み流していたこれらのことにも、もしかしたら大切な何かが含まれてるのかもしれない。
動物たちは、よく観察しているといろいろと不思議なことを見せてくれる。キツネなどは同類が一度かかった罠には決してかからない。キジもすぐ見つかりやすそうな場所に巣を作っているのだが、 . . . 本文を読む
自分自身長い間漠として実体がわからなかったものに、「精神」というものがある。「心」も「体」もそこそこわかる(ような気がする)し、魂というのもなんとなくイメージしやすい。(因みに私のイメージする魂とは、エネルギーのことだ。)でも精神というとそれは何なのだろう。心や魂とはどう違うのか。この言葉もえてして広義・誤義で使われる傾向が大きい気がする。確かにそれだけわかりにくいものには違いない。もちろんここで . . . 本文を読む
音が視覚化するということはある。
昨日壁のペンキ塗りをしていたら、後ろから鶏の鳴き声とともに矢のようなものが突き刺さってきた。大気が波状に歪んで空間を無数の光線が一瞬の間、水平に降り注いだ。驚いて私は振り向き、「どうした!」と口走り50m離れた鶏小舎の方を見た。てっきり鶏になにかとんでもないことが起こったと思ったのだ。
しかし鶏小舎にはなにも起きてなかった。しばらくしてもう一度鶏が鳴いた。声から . . . 本文を読む
言葉も音楽も頭に浮かばない、透き通る意識でいるときに、脳内をチラチラと断片的な映像が踊るように消えては現れたりして、目の前にあるものにいつもとは違った何かを感じることがある。
無心というのだろうか。でもしかし私たちはなかなか本当の無心にはなれない。日常の中で積み重ねてきた言葉や知識、観念や思い込みが心のスクリーンに溢れかえっていて、とてもそれどころではないのである。でもそれら有象無象が何かの拍子に . . . 本文を読む
膝から力が抜けた。がっくりと私は床に手をついた。
断食中のとある夜明け前。外は漆黒の闇に包まれて薪のはぜる音だけが部屋に響いていた。
誰しも自分が億万長者だったらどうしようか、などと考えることもあるだろう。小さかった頃を思い出してみるといい。秘密基地や未来図の中に、その時々に読んだマンガやテレビなどの影響を受けながらも理想の自分や将来の暮らしの姿を何枚も何枚も、飽きもせずに描いたものだ。その中に . . . 本文を読む
「んなこと、誰でもやってるよ。テレビでいつもやってるだろう。頭いい人ほど、悪いことするんだよ」
この夏、わがでは初めて公共事業を請け負った。集落を横切る県道の草刈作業。今まで土建業者に委ねていたものを、意欲ある住民団体に試行的に任せてみるとして今年度から始まった委託事業だ。背景には県の深刻な財政事情があるから、積算単価はもちろん大幅にカットされて、業者に卸す7掛けの予算で請け負うならとの条件が . . . 本文を読む