タゴールの書いた短編小説『カブリワラ』。私の大好きな作品。
それが映画化されているというのを最近知り、すぐにDVDを持っている方からお借りすることが出来た。なんという幸運。
コルカタに住むおしゃべりでおしゃまな女の子ミニ。カブールからお金を稼ぎに来たナッツ売り(カブリワラ)。
二人の友情がなんとも微笑ましい。
カブリワラが異郷で娘を思う悲しさと、ミニを見守る父親の優しさが重なって胸が締め付けられる。
なにしろ、ミニがかわいくて、読んだ人は誰も自分なりのミニを心に刻み込まずにはいられない。だから、それが映像になっていると思うと、楽しみではあるけれど、イメージと違っていたらどうしよう、とちょっとドキドキしてしまう。
映画からは、カブリワラの堂々とした姿や売り歩く時の声、ミニの家の騒々しい暮らしぶり-使用人に厳しいミニの母親、のらりくらりやり過ごす使用人―通りの様子など、当時のコルカタを知ることが出来る。当時も、そして今も、コルカタはカブリワラのように外から来る人たちを受け入れる都市としての面目を保っている。
インド映画らしくいくつかの歌が挿入される。タゴールソングではなく、オリジナルの曲らしい。情感にあふれて美しい。カブリワラたちが、故郷を歌い、愛の歌を歌う。
ある夕暮れ時、カブリワラは岸辺で老人が歌う歌に惹きつけられる。
“ガンガーよ。どこからきてどこへ行くのか…夜の闇と昼の輝き、見てごらん、夕暮れがその色の違いを消していく。闇と光が水に戯れる。もし、愛の目で見つめれば私たちはみな親しい者なのだ”
歌っているのは…タゴールに違いない。ガンガーに寄せて、孤独なカブリワラを慰めるかのように歌う。
その後、ミニの父親の助けを得て故郷へ帰ったカブリワラは幸せになっただろうか。それはわからない。
確かなのは、カブリワラもミニの父親も変わりなく、娘を思う時の父親の心には喜びと悲しみが交差しているということだ。
原作と同じ美しく哀しい余韻が残る映画だった。
監督はヘメン・グプタ。カブリワラを演じたのはバラジ・サーニ
ガンガーの歌を歌っているのはへマントクマール 作詞、グルザール