帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの枕草子〔二百三十六〕雲は

2011-11-24 05:22:28 | 古典

  



                      帯とけの枕草子〔二百三十六〕雲は



 言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」のみ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。

 

 清少納言枕草子〔二百三十六〕雲は

 
 文の清げな姿

雲は、白い。紫、黒いのも趣がある。風吹くときの雨雲。明けてゆくときの黒い雲がしだいに消えて、白くなってゆくのも、とっても風情がある。朝に去る色だったかな、詩文にも作られてある。

月のとっても明るい面に薄い雲、しんみりとする風情である。


 原文

雲は、しろき、むらさき、くろきもおかし。風ふくおりのあま雲。あけはなるゝほどの、くろき雲のやうやうきえて、しろうなりゆくもいとおかし。朝にさるいろとかや、ふみにもつくりたなる。月のいとあかきおもてにうすきくも、あはれなり。


 心におかしきところ

心の雲は、白々しい、上品に澄んでいる、つよいのも趣がある。

心に風が吹く折りの、あまの心雲。明けて離れるときの、つよい心雲がしだいに消えて白々しくなり逝くのも、とっても趣がある。朝に去る色情とか、詩にも作られてある。

 月人壮士のたいそう元気な顔に、わが為に・薄くなった心雲、しみじみと愛しい。



 言の戯れと言の心

  「雲…煩わしくも心にわき立つもの…情欲、色情など」「白…ことの果て…色の果て」「雨…あめ…あま…女」「あけ…明け…果て」「黒…強い色」「朝にさるいろ…雲が朝に去る景色…色情が朝に去る白々しき気色」「ふみにもつくりたる…詩にも作られてある…白氏文集に去る色(情)の詩がある」「月…壮士」「あか…元気色」「あはれ…感動する…すばらしい…いたわしい…いとしい」。


 
 「朝に去る色」の詩を聞きましょう。
  白氏文集 巻第十二、感傷四 「花非花」

花非花霧非霧 夜半来天明去 来如春夢幾多時 去似朝雲無覓処

(花であって、花ではない、霧であって、霧でもない。夜半に来て、そらが明ければ去る。来るのは春の夢のよう、どれほどの時か・ほんの一時。去るのは朝の心雲に似て、求めても其処に無し・何処にも)。


 「朝に去る色」とは、「心に雲のようにわき立って来ては去る色情」でしょう。

 男の言葉も、女の言葉も「聞き耳異なるもの」と第〔三〕章に記してあるのは、漢字の言葉、ひらがなの言葉共に、聞く耳によって意味が異なるほど多様な意味を、それぞれ孕んでいるということ。


 伝授 清原のおうな

 聞書 かき人知らず (2015・10月、改定しました)

 
原文は、岩波書店 新 日本古典文学大系 枕草子による。


帯とけの枕草子〔二百三十五〕星は

2011-11-23 00:12:13 | 古典

  



                帯とけの枕草子〔二百三十五〕星は



 言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」のみ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。

 

 清少納言枕草子〔二百三十五〕星は

 
 文の清げな姿

星は、昴星。牽牛星。金星。彗星、少しおもしろい、尾さえなかったら、まして。


 原文

星は、すばる。ひこぼし。ゆふづゝ。よばひほし、すこしおかし、おだになからましかば、まいて。


 心におかしきところ

ほしは、六連欲し。おとこほし。夕にくるほし。夜這いほしは、ちよっとおもしろい、後に尾引かなければ、まして。


 言の戯れと言の心

「星…ほし…おし…男子…おとこ…欲し」「ほ…穂…秀…抜きん出たもの…お」「すばる…六連星…六つ連ねるほし」「ひこぼし…彦星…牽牛星…男ほし」「ゆふづつ…夕星…金星…夕筒…夕おとこ」「筒…おとこ」「よばひほし…彗星…呼ばひ星…夜這い星…夜這いおとこ」「お…尾…後に引くもの…あとくされ」。



 万葉集の「天」を詠んだ歌を聞きましょう。柿本人麻呂の歌集出とあるので人麻呂の歌と思っていい。清げな天の景色に、どのような「心におかしきところ」が込められてあるのか。

万葉集 巻第七雑歌 巻頭の一首

 天の海に雲の波立ち月の船 星の林にこぎ隠る見ゆ

字義通りに読めば、影絵のような夜空の景色が見える。それがこの歌の「清げな姿」。

(……吾女の海に、心の雲の波が立ち、つき人の夫ね、欲しの激しさに、こぎ隠る見ゆ)。


 「天…あま…あめ…女」「海…をうなばら…あまのはら…女」「雲…心に煩わしくも湧き立つもの…情欲など…ひろくは煩悩」「月…月人壮士」「船…夫根…おとこ」「星…ほし…欲し…女の情欲…おとこの情欲」「林…早し…激しい…強い」「こぐ…漕ぐ…おし進む…こく…体外に放つ」「隠る…なくなる…逝く」「見…覯…媾」。



 今では、清げな景色しか見えなくなった。紀貫之が「柿本人麻呂なむ、歌のひじりなりける」とまで讃えた人の歌。それに相応しい「心におかしきところ」がある。


 伝授 清原のおうな

 聞書 かき人知らず (2015・10月、改定しました)

 
原文は、岩波書店 新 日本古典文学大系 枕草子による。


帯とけの枕草子〔二百三十四〕月は

2011-11-22 00:24:23 | 古典

  



                    帯とけの枕草子〔二百三十四〕月は


 
 言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」のみ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。

 

 清少納言枕草子〔二百三十四〕月は


 文の清げな姿

 月は、明方、東の山際に細く出ているとき、しみじみとした風情がある。


 原文
 
月は、あり明のひんがしの山ぎはに、ほそくていづるほど、いとあはれなり


 心におかしきところ
 
月人壮士は、明け方まで在るのが、嬪がしのや間際に、細くなって出ているほと、とってもあわれである。


 言の戯れと言の心

「月…ささらえをとこ万葉集の伝える月の別名)…月人壮士・月よみをとこ万葉集の歌語…男…おとこ…突き…尽き」「ひんがし…東…嬪が肢…女」「山…山ば…や間…屋間…おんな」「ほそくて…細くなって…欠けて…尽き人おとこが衰えて」「ほど…程…時ころ…ほと…お門…おとことおんな」「あはれ…しみしみとした情趣がある…いとしい…哀れである…ご立派である」。



 万葉集の月の歌を「言の心」を心得て聞きましょう。

 巻第十 寄月

 君に恋ひしなえうらぶれ吾が居れば 秋風吹きて月かたぶきぬ

 (君に恋い、心も萎れ、わびしくてやるせないわたしが居ると、秋風吹いて月傾いた……君に乞い、萎れ落ちぶれ、わたしが折るので、君が心に厭き風吹いて、ささらえをとこかたむいた)。


 「恋…乞い」「秋…飽き…厭き」「風…心に吹く風」「月…ささらえをとこ…いいおとこ」「かたぶく…傾く…西に沈む…衰えさせる…片吹く」。


 秋の夜の月かも君は雲隠り しましく見ねばここだ恋しき

 (秋の夜の月なのかしら君は、雲に隠れ、しばらく見ないと、どれほど恋しいことか……飽きの夜の尽きかしら、君は心雲隠れて、しばらく見ないので、どれほど乞いしいことか)。


 「雲…心に煩わしくもわきたつもの…情欲など…ひろくは煩悩」「見…覯…媾…まぐあい」「ば…すると…ので」「ここだ…幾許…幾らばかりか…程度の甚だしさを表わす…幾多」。

 
 古来、歌には、人が心に思う生々しいことが、物に包んで清げに表わされてある。枕草子の文もまた同じ。


 伝授 清原のおうな

 聞書 かき人知らず (2015・10月、改定しました)

 
原文は、岩波書店 新 日本古典文学大系 枕草子による。


帯とけの枕草子〔二百三十三〕日は入日

2011-11-21 00:07:35 | 古典

  



                      帯とけの枕草子〔二百三十三〕日は入日



 言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」のみ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。

 

 清少納言枕草子〔二百三十三〕日は入日


 文の清げな姿

日は入日、入り果てた山の端に、光がなお留まって赤く見えるとき、薄く黄ばんでいる雲が細くたなびき広がっている、しみじみとした風情である。


 原文 

日は入日、いりはてぬる山のはに、ひかり猶とまりて、あかうみゆるに、うすきばみたる雲の、たなびきわたりたる、いとあはれなり。


 心におかしきところ

緋(燃える赤色)は消え方、暮れ果ててしまった山ばの端に、照り輝き(光)、汝お、留まって、元気色に(赤う)見えるとき、ややお疲れ色(薄黄ばみ)の心雲が、細くたなびきひろがっている、とってもあわれである。


 言の戯れと言の心

 「日…緋(燃えるような赤色)…火…情熱の炎」「入る…日が落ちる…火が消える…気が滅入る」「山…山ば」「光…威光…男の魅力…光源氏の光るはこれか…照り輝き」「猶…尚…直…汝お…君がおとこ」「赤…元気色」「黄…疲労色」「雲…空の雲…心の雲…煩わしいほどの心のもやもや…情欲など…広くは煩悩」。



 あわれと言える景色(気色)を詠んだ歌は色々ある。秋の夕暮れ(飽きの果て)の歌を一首聞きましょう。

古今和歌集 巻第四、秋歌上 よみ人しらず

 ひぐらしのなく山ざとのゆふぐれは 風よりほかにとふ人もなし

 (ひぐらしの鳴く山里の夕暮れは、風より他に訪う人もいない……日暮らしの泣く、山ばのふもとの女の果ては、飽き風よりほかに、門よぎる人もなし)。


  「ひぐらし…蝉の名…日暮らし…一日中」「なく…鳴く…泣く」「ゆふぐれ…夕暮れ…日の果て…ものの果て」「山さと…山里…山ばのふもと…山ばの女」「さと…里…女…さ門」「風…心に吹く風…あき風」「とふ…訪う…と経…門経る…門を通り過ぎる」「と…門…女」「人も…男も…おとこも」。


 伝授 清原のおうな

 聞書 かき人知らず (2015・10月、改定しました)


 原文は、岩波書店 新 日本古典文学大系 枕草子による。


帯とけの枕草子〔二百三十二〕ふるものは

2011-11-19 00:09:30 | 古典

  


                     帯とけの枕草子〔二百三十二〕ふるものは


 言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」のみ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。

 
 清少納言枕草子〔二百三十二〕ふるものは

 文の清げな姿
 降るものは、雪、あられ。みぞれは嫌だけれど、白い雪混じりに降っている、風情がある。
 雪は桧皮葺、とっても愛でたい。すこし消えかかっているくらいのも。それに、そう多くは降らないのが、瓦目毎に入って、黒う丸く見えている雪、とってもおかしい。時雨、霰は、板屋。霜も板屋、庭。

 原文
 ふるものは、雪、あられ、みぞれはにくけれど、しろきゆきまじりてふる、おかし。ゆきは、ひはだぶき、いとめでたし。すこしきえがたになりたるほど。また、いとおほうもふらぬが、かはらのめごとにいりて、くろうまろに見えたる、いとおかし。時雨、あられは、いたや、霜もいたや、には。

 心におかしきところ
 ふるものは、逝き。荒られ見逸れは嫌だけれど、白いゆき交じりて経る、すばらしい。
 
白ゆきは皮肌吹き、とっても愛でたい。少し衰えかかっているほと、また、たいそう多くは振らないが、かの腹のめごとに入って、強そうな麻呂に見えている、とってもいい。その時のお雨、荒られは、激しや、士も痛やには・あらずや。


 言の戯れと言の心
  「ふる…降る…古る…経る…振る」「雪…白…おとこ白ゆき…おとこの情念…逝き」「時雨…しぐれ…その時のおとこ雨」「あられ…霰…荒られ」「みぞれ…見逸れ…まぐ合いはずれ」「ひはたぶき…桧皮葺…皮肌吹き」「ほど…程度…ほと…陰」「かはら…瓦…彼腹…かの腹」「め…目…女」「くろう…黒く…強そう」「黒…強い色」「いたやには…板屋、庭…痛やには…痛くはありませんか」「いた…板…甚…甚だしい…激しい…痛」「や…感嘆または疑問の意を表わす」「し…子…士…おとこ」「には…庭…ものごとが行われるところ…では」。


 これは、おとなの女の読物。
 古来、雪の歌は多いけれど、藤原公任撰『和漢朗詠集』巻上の「雪」の歌を一首聞きましょう。きっと優れた歌でしょう。
 みやこにはめづらしとみるはつゆきを よしののやまにふりやしぬらむ
 (都では珍しいと見る初雪よ、吉野の山に降っただろうか……宮こでは、愛ずらしと見る、はつゆきよ、好し野の山ばに降らし死ぬのだろうか)。

  「みやこ…都…京…宮こ…山ばの絶頂」「みる…見る…思う…まぐあう」「はつゆき…初雪…発ゆき」「ゆき…おとこ白ゆき…おとこの情念…おとこの魂」「を…感嘆、詠嘆の意を表す」「よしの…吉野…好しの…良しの…適当である」「野…絶頂では無いところ」「やま…山…山ば」「ふり…降り…振り…経り」「しぬ…為した…死ぬ…逝く」「や…疑問の意を表わす」。


 これは、おとなの男の歌。深き心、清げな姿、心におかしきところは、おとこのさがを知る、おとなの男ならわかる。
 公任は「優れた歌の定義」を述べた最初の人。「およそ歌は、心深く、姿清げに、心におかしきところあるを、優れたりといふべし(新撰髄脳)」。これには「歌の様」即ち歌の表現様式も教示されてある。


 伝授 清原のおうな

 聞書 かき人知らず (2015・10月、改定しました)

 
原文は、岩波書店 新 日本古典文学大系 枕草子による。