帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの枕草子〔二百三十七〕さはがしき物

2011-11-25 00:02:01 | 古典

  



                      帯とけの枕草子〔二百三十七〕さはがしき物



 言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」のみ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。

 

 清少納言枕草子〔二百三十七〕さはがしき物

 
 文の清げな姿

 騒がしいもの、勢いのある火。板屋の上で烏が斎の施された散飯を食っている。十八日(縁日)に、清水寺に籠もっいて、出遭っている。暗くなって、まだ火も灯さないときに、他より人が来合わせている。まして遠い所の地方の国より、家の主人が上って来る、たいそう騒がしい。
 近所で、火が出て来たという、だけど燃え着かなかった。


 原文

さはがしき物、はしり火。いた屋の上にてからすのときのさばくふ。十八日に清水にこもりあひたる。くらうなりて、まだ火もともさぬほどに、ほかより人のきあひたる。まいて、とをき所の人の国などよりいへのあるじのゝぼりたる、いとさはがし。
  ちかきほどに、火いできぬといふ、されどもえはつかざりけり。


 心におかしきところ

 騒がしいもの、激しい思いの火、甚だしい女が上にて、女がいつもの、さ端喰らっている。

つき人おとこ満月過ぎた・十八日に、清き女に、籠り・こ盛り、合っている。

暗くなって、まだ思い火もともさぬときに、ほかより男が来あわせている。まして、遠い所の地方の国より、この・家の主人が上って来る、たいそう騒がしい。

 身・近きほとに、思い火でてきたという、だけど燃え尽きはしなかった。



 言の戯れと言の心

  「さはがし…騒然としている…忙しくとりこんでいる…胸が騒いでいる」「はしり…走り…急激な…勢いの強い」「火…思ひ火…情熱の炎」「いた…板…甚だ…ひどい」「屋…家…女」「上…女の敬称」「からす…烏…鳥…女」「とき…時…斎…定時の食事…その時」「さば…生飯…散飯…さ端…おとこ」「さ…接頭語…美称」「は…端…身の端…おとこ」「十八日…望月が欠け、はつか(微か)になる前」「水…女」「こもり…籠もり…子盛り」「こ…小…子…おとこ」「あひ…遭遇…合い…合体…和合」「ほど…程…ほと…陰」「もえはつかざり…燃え着かず…類焼せず…燃え尽きず・思い火残ったまま」。


 
常日頃の騒がしい情況を、幾つか描いてあると見えるのは、文の清げな姿。
 人の身と心の生々しくも騒がしい有り様を、幾つか清げに包んで表わしてある。


 伝授 清原のおうな

 聞書 かき人知らず (2015・10月、改定しました)

 
原文は、岩波書店 新 日本古典文学大系 枕草子による。