帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの枕草子〔二百十八〕人の家につきづきしき物

2011-11-03 00:09:31 | 古典

  

                  帯とけの枕草子
〔二百十八〕
人の家につきづきしき物
 

 
言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで読んでいたのは枕草子の文の「清げな姿」のみ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。



 清少納言枕草子〔二百十八〕人のいへにつきづきしき物


 文の清げな姿
  人の家に相応しいもの、曲がり角のある廊下。円形の敷物。三尺の几帳。大きく見える童女。良い下仕え。侍の詰所。食器をのせる盆。足つきの台。中くらいの台。おはらき。衝立障子。かきいた。装飾よくした餌袋。唐傘。棚つきの厨子。提げ手つきの容器。注ぎ口のある酒の容器。


 原文
  人のいへにつきづきしき物、ひぢをりたるらう。わらうだ。三尺のき丁。おほきやかなるどう女。よきはしたもの。さぶらひのざうし。おしき。かけばん。ちうのばん。おはらき。ついたちそうじ。かきいた。さうぞくよくしたるゑ袋。からかさ。たなづし。ひさげ。てうし


 心におかしきところ

ひとの井へに尽き尽きしきもの、泥折りした労、笑うだ、三尺の気長、おおい気やかなとうめ、よき端下物、侍の壮士、おし器、欠け半、中途半端、――、つい絶ち早士、――、見かけは良い枝夫黒、空嵩、多無つ士、引き下げて憂し。


  言の戯れと言の心

「ひとのいへにつきづきしきもの…人の家に相応しいもの…女の井へに尽き尽きしき物…おとこ」「ひぢおり…肘折り…泥折り…どろ折れ…弱い」「ひぢ…肘…泥」「おり…折…逝」「らう…廊…労…功労…立派な働き…労をねぎらいたいが岩ならともかく泥折は笑うでしょう」「おほき…大き…多き…多情」「どう女…童女…とう女…とうめ…専女…老女」「ばん…盤…台…はん…半…もののなかば」「おはらき・かきいたは忘却」「ゑぶくろ…餌袋…絵夫黒…強そうなおとこ」「うし…憂し…いやだ」。


 女心の底には男どもへの憤懣の種がある。言の葉にして、見る物につけて言い出だした。和歌の方法と同じこの文は、女心を慰め男女の仲をも和らげるでしょう。

歌では、 このような女心を詠んだのは多い。一首聞きましょう。

古今和歌集 巻第十五恋歌五、巻末の一首、よみ人しらず
 ながれては妹背の山のなかに落つる 吉野の河のよしや世中

(時流れては、妹背の山の中に落ちる吉野の河のよう、良いのかしらこれで、世の中……流れては、女と男の山ばの中ほどに堕ちる、佳しののをみなが、好しやこれで、夜なかば)。


  「ながれては…時が流れて…ものごとが中止となって…身のなみだが流れて」「山…山ば」「よし…吉し…良し…好し」「野…山ばではない」「河…川…女」「の…比喩を表わす…主語を示す」「や…疑問…詰問」「世中…世の中…男女の仲…夜の中」。

 
 伝授 清原のおうな

 聞書 かき人知らず (2015・9月、改定しました)


 原文は、岩波書店 新 日本古典文学大系 枕草子による。