帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの枕草子〔二百三十四〕月は

2011-11-22 00:24:23 | 古典

  



                    帯とけの枕草子〔二百三十四〕月は


 
 言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」のみ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。

 

 清少納言枕草子〔二百三十四〕月は


 文の清げな姿

 月は、明方、東の山際に細く出ているとき、しみじみとした風情がある。


 原文
 
月は、あり明のひんがしの山ぎはに、ほそくていづるほど、いとあはれなり


 心におかしきところ
 
月人壮士は、明け方まで在るのが、嬪がしのや間際に、細くなって出ているほと、とってもあわれである。


 言の戯れと言の心

「月…ささらえをとこ万葉集の伝える月の別名)…月人壮士・月よみをとこ万葉集の歌語…男…おとこ…突き…尽き」「ひんがし…東…嬪が肢…女」「山…山ば…や間…屋間…おんな」「ほそくて…細くなって…欠けて…尽き人おとこが衰えて」「ほど…程…時ころ…ほと…お門…おとことおんな」「あはれ…しみしみとした情趣がある…いとしい…哀れである…ご立派である」。



 万葉集の月の歌を「言の心」を心得て聞きましょう。

 巻第十 寄月

 君に恋ひしなえうらぶれ吾が居れば 秋風吹きて月かたぶきぬ

 (君に恋い、心も萎れ、わびしくてやるせないわたしが居ると、秋風吹いて月傾いた……君に乞い、萎れ落ちぶれ、わたしが折るので、君が心に厭き風吹いて、ささらえをとこかたむいた)。


 「恋…乞い」「秋…飽き…厭き」「風…心に吹く風」「月…ささらえをとこ…いいおとこ」「かたぶく…傾く…西に沈む…衰えさせる…片吹く」。


 秋の夜の月かも君は雲隠り しましく見ねばここだ恋しき

 (秋の夜の月なのかしら君は、雲に隠れ、しばらく見ないと、どれほど恋しいことか……飽きの夜の尽きかしら、君は心雲隠れて、しばらく見ないので、どれほど乞いしいことか)。


 「雲…心に煩わしくもわきたつもの…情欲など…ひろくは煩悩」「見…覯…媾…まぐあい」「ば…すると…ので」「ここだ…幾許…幾らばかりか…程度の甚だしさを表わす…幾多」。

 
 古来、歌には、人が心に思う生々しいことが、物に包んで清げに表わされてある。枕草子の文もまた同じ。


 伝授 清原のおうな

 聞書 かき人知らず (2015・10月、改定しました)

 
原文は、岩波書店 新 日本古典文学大系 枕草子による。