帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

「小倉百人一首」 (番外) 男の歌 平安時代の歌論と言語観で紐解く余情妖艶なる奥義

2016-02-07 19:10:47 | 古典

              


                       「小倉百人一首」余情妖艶なる奥義


 
ここまで、三十七人の歌を聞いた。うち女性は持統天皇と小町と伊勢の三人。男三十四人の歌の「心におかしきところ」には、男の心根や、おとこの性(さが)が顕れている。大げさに言えば、一千年以上前の男たちの本能の声、煩悩の表出、即ち菩提(悟りの境地)である。一挙に聞きましょう。

 藤原定家撰「小倉百人一首」
(番外) 男の歌


 
○ 飽き足りた田の民の、狩の・仮の、庵にて聞く、井おの、門間お、荒く激しいために、わが心と身の端は、つゆに濡れていたことよ。

○ あの山ばの我が妻の後ひきの、し垂れおのときのように、長ながしき夜を、いまごろ妻は・独りだろうかなあ、寝ているのだろう。

○ 多情の娘子のうらに、うち出でて見れば、白妙の不尽の高峯に・白絶えの二度とない高峰に、ゆきはふりつつ・逝きは経り筒。

○ 奥深き山ばに、もみ路、夫身分け、泣く肢下の、小枝利くときぞ、飽き満ち足りは愛しいことよ。

○ 七夕姫のわたらせた、身の・端におく、下の白きを見れば、合う・夜ぞ耽ったことよ。

○ 吾女の腹、ふり放ちて見れば、かすかである、三つ重なる山ばに出た、つき人をとこかもなあ。

○ 我が偉おは、見やこの立つ身、確とことは済むぞ、この我を・夜の中を、薄情なやまばと、女人は言うのである。

○ これか、これが、往き来するもの、時に・別れては、しるものも、しらぬも、合う山ばの門か。

○ 綿のような腹、多の肢間かけて扱ぎ出たぞと、妻には告げよ、吾間の吊りふ根。

○ あまつ風、乙女心に、煩悩の・雲の、通う路を吹き閉じよ、乙女の、清き姿・澄んだ心、あとしばし、留めておきたい。


 ○ 男と女の山ばより堕ちる見無の、川・かは、乞いぞ積りて、深いよどみとなり濡る。

○ わが衣の・みちのくの忍ぶ乱れ模様、誰のせいでしょうか、乱れ染めにしたのは我では無いのに・貴女ゆえ。

○ あなたのために、春の野に出でて、若菜摘む・貴女を娶る、我が心と身の端に、白ゆきは降ってしまった。

○ 絶ち別れ、因幡の・往なばの、山ばの峰に感極まる、松・待つ女、と聞けば、今に・井間に、引き返して来るだろうよ。

○ ち早ふる、紙よも効かず、たつた川・断ったかは、鮮やかな紅色に、をみな、くぐるとは。

○ 心澄み好き女の、みぎわに立ち寄る、我が汝身、寄り添うのさえ、夢のような通い路、ひとめ好いのだろうか。

○ やるせなくなってしまったから、井間は、やはりきっと同じか、何が成る・何が起ころうと、身を尽くし果てても、合おうとだ、我は・思う。

○ 井間、絶頂が・来そうなの、と言ったばかりに、長つきの、明け方の尽きを待ち、井間より・出てきたことがあったなあ。

○ 吹くとたちまち、飽き満ちた女と男が、しおれるので、なるほどそれで、山ばの心風を、荒らしと・激しいと、言うのだろう。

○ 月人おとこ・尽きてみれば、縮み縮むので、物こそものかなしいことよ、わが身一つだけの、飽き・厭き、ではないのに。


 ○ 
この度は、我が大・ぬさも、とり合えず・つり合わず、たむける山ばは、もみぢの・飽き色の、錦木、めかみのお気に召すままに。

○ 汝に感極まったので、合う坂の山ばの、さ寝且つらだと・さ根そのうえにだと、女に知られず、おわる・繰り返す、手立てがほしいなあ。

○ を暗の山ば、峰のあき色の端、心あるならば、今一度の・井間ひとたびの、見ゆき・身逝き、待って、散って・欲しい。

○ 身かの腹、湧きて流れる井津身かは、何時見たと言うのか・見てもいないのに、乞いし、どうして求めるのだろうか。

○ 山ばの、ふもとの・さ門は、飽き果てた後ぞ、さびしさ増さることよ、ひとめもくさむらも、離れて・枯れて、しまうと思えば。

○ 気遣う事無く、折りたいな折ろう、初しもの、贈り置きを惑わせる、色づいてなさそうな、乙女よ。

○ 朝方残るつき人おとこが、つれなく見えた・冷淡で無情に見ていた、朝の別れがあってより、あか・吾が、尽き程、ゆううつで嫌な物はない。

○ 浅ほらけ、のこりのつき人おとこが、まさかと思うまでに・まさかと見るまでに、好しのの、さ門に、降った白ゆきよ。

○ 山ばの女に、心風のかけた、肢絡みは、汝涸れきれない、飽きの色情だなあ。

○ 久堅の吾女の栄光、のどかな春情の火に、静心なく・我が心慌しくも、お花が散る、どうしてだろう。


 ○ 
垂れおかもなあ、誰を・汁ひとにしよう、高きこの山ば待つ女も、昔のように・武樫のように、共に成らないので。

○ あなたのことは、井さも、心も知らないけれど、古・振る、さ門は、おとこ花ぞ、昔の・武樫の、色香に匂ったなあ。

○ 撫でなつく夜は、まだ序の口のままで、明けてしまったなあ、心の雲のどこに、つき人おとこ、おさまっているのだろうか・尽き果てもできず。

○ おとこ白つゆのために、厭き風が心にしきりに吹く飽きのひら野は、貫きとめなかった、白玉ぞ・吾が魂よ、散り果てたなあ。