帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの拾遺抄 巻第五 賀 (百六十四)(百六十五)

2015-04-23 00:07:06 | 古典

          


 

                         帯とけの拾遺抄


 

藤原公任『新撰髄脳』の優れた歌の定義「心深く、姿清よげに、心におかしきところあるを、優れたりといふべし」に従って『拾遺抄』の歌を紐解いている。

もとより和歌は秘事となるような裏の意味を孕んでいた。鎌倉時代に歌の家に埋も木となって戦国時代を経て秘伝となり江戸時代には朽ち果てていたのだろう。歌言葉の戯れの中に顕れる「心におかしきところ」が蘇えれば、秘事伝授などに関わりなく、和歌の真髄に触れることができる。


 

拾遺抄 巻第五 賀 五十一首

 

天暦御時斎宮のくだりけるに長奉送使にて送りつけ侍りてかへり侍らんと

するほどに女房などさかづきさしてわかれをしみ侍りけるに

 中納言藤原朝忠

百六十四 よろづよのはじめとけふをいのりをきて今ゆくすゑは神ぞしるらん

天暦(村上天皇)の御時、斎宮が伊勢にくだった時に、長奉送使として、送り着けて帰るときに女房達が、酒杯さして別れを惜しんだので、 (中納言藤原朝忠・三条右大臣定方の子・歌人としても一流の人)

(万代の初めと、今日を祈っておいて、今、貴女方の・行く末は神のみぞ、知るだろう……万夜の初めと、山頂の・京を、祈っておいて・井のり降ろして、さて今、絶頂の・京の、ゆく末は、かみぞしるでしょう)

 

言の心と言の戯れ

「よろづよ…万代…天皇の御代…万夜…これからの貴女方の清き夜」「けふ…今日…京…山ばの頂上…絶頂…感の極み」「いのり…祈り…神にお祈りをして…井のり…井ほり…まぐあい」「をきて…置いて…送り置いて…つゆを贈り置いて」「ゆくすゑ…行く末…貴女方の行く末、何時まで斎宮に居るかなどということ…内親王から卜定で選ばれたという斎宮とその女房達の汚れなき暮らしは、今上天皇の続く限り続く、母や父に御不幸が無い限り続く…ゆく巣え…ゆくおんなとおとこ」「神…かみ…言の心は女…なぜかと訊ねられたら困る。この国の天照らす大御神は女神である。それに、おかみも、かみさんも女だろうが、としか言いようがない」「ぞ…強く指示する」「しる…知る…(神だけが)御承知…汁…濡れる」「らん…推量の意を表す」

 

歌の清げな姿は、よろず世の清き第一歩を祝した。

心におかしきところは、、今いのりをいたから、貴女方のゆく末は、かみの身ぞ汁というところ。

 

複雑微妙な心境にある内親王とその女房達を和ませることができるのは、朝忠の心遣いのゆきとどいた、このような歌しかない。普通の言葉で祝辞など述べることはできない。

 

 

はじめて平野祭のをとこづかひたてし時うたふべき歌とてよませたりし

大中臣能宣

百六十五 ちはやぶるひらのの松のえだしげみ 千よもやちよも色はかはらじ

初めて平野祭の男の勅使を遣わされた時、謡うべき歌を詠めと言うことで、詠ませられた、 大中臣能宣

(ちはやぶる平野の神の松の枝、繁っていて、千代も八千代も色は変わらないのであろう……血はやぶる山ばでないところの、女のえだ繁るために、千夜も八千夜も色情は変わらないのでしょう)


 言の心と言の戯れ

「まつり…祭…荒ぶる神の霊を鎮めるために人が行うこと…供物、幣、舞、歌等の奉納」「男の使い…勅使…平野の神は四柱とも女神らしい、神鎮めの勅使」。

「ちはやぶる…枕詞(かみ・うじ・ひとにかかる)…千はやぶる…威力の強い…勢力盛んな…血はやぶる…血気盛んな」「ひらの…平野神社…山ばでは無いところ」「松…言の心は女…待つ…常緑で色は変わらない…長寿…常磐」「えだ…枝…肢…脚の辺りのもの…江・田・多と聞いて女」「しげみ…繁げっているため…盛んなので」「み…内容を表す…原因理由を表す」「千よもやちよも…千代も八千代も…千世も八千世も…千夜も八千夜も」「色…色彩…色情」「じ…打消しの推量の意を表す…ないだろう」

 

歌の清げな姿は、荒ぶる神を鎮める奉納歌

心におかしきところは、。女の色情の長寿を祝賀する歌。


 

『拾遺抄』の原文は、新編国歌大観(底本は宮内庁書陵部本)によった。歌番もそのまま附した。群書類従に別系統の底本の原文がある、参考とした。