帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの枕草子〔二百十三〕五月の菖蒲の

2011-10-28 00:03:58 | 古典

   

 

 

                      帯とけの枕草子〔二百十三〕五月の菖蒲の


 言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」のみ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。



 清少納言枕草子〔二百十三〕五月のさうぶの

 
 文の清げな姿

 五月の菖蒲(五日に軒や柱などにつけたあやめ草)が、秋冬過ぎるまであるのが、たいそう白み枯れてみすぼらしいのを、ひき折り開いたところ、その折りの香が残って包まれてある、とっても趣がある。


 原文

五月のさうぶの、秋冬すぐるまであるが、いみじうしらみかれてあやしきを、ひきおりあけたるに、そのおりのかのゝこりてかゝへたる、いみじうおかし


 心におかしきところ

さつきの壮夫が、飽きふゆ過ぎるまであるが、たいそう白み涸れて並々ではないおを、ひき折り果てたところ、その折の色香が残っていて、抱えている、とってもおかしい。

 言の戯れと言の心

 「五月のさうぶ…端午の節句の菖蒲…さつきの壮夫」「さ…接頭語」「月…つき…突き…尽き…壮士…壮子」「さうふ…菖蒲…壮夫…血気体力盛んな壮年の男」「秋…飽き」「冬…心寒い…心冷え…終」「あけたる…開いた…明けた…ことがおわった」「そのおりのか…五月五日の香…さ突きの折りのおとこの色香」「おり…をり…時…折り…逝」「かゝへたる…抱えている…香りが包まれてある」「おかし…をかし…風情がある…賞賛に値する…すばらしい…おとこだことよ」「お…を…おとこ」「かし…強調する意を表わす」。



 「菖蒲…壮夫…あやめ草…綺麗な妻」などという言の戯れは、用いられ方から、それと知るほかない。

あやめ草(菖蒲)を詠んだ歌を聞きましょう。

藤原公任撰「和漢朗詠集」端午、大中臣能宣

きのふまでよそに思ひしあやめ草  けふわがやどのつまとみるかな

(昨日までよそ事に思っていたあやめ草、今日、葺いて・我が宿の軒のつまと見ることよ……昨日までよそよそしく思っていた綺麗な女、京、我がやどの妻と共に、見ることよ)。


 「あやめ草…家の軒に葺かれた菖蒲…五月五日に飾る邪気除け…綾め…美女」「けふ…今日…端午の節句…京…山ばの頂上…絶頂」「やど…宿…や門…女」「つま…家の軒ば…つれあい…妻」「と…と思って…と一緒に」「見…覯…媾…まぐあい」。


 伝授 清原のおうな

 聞書 かき人知らず (2015・9月、改定しました)


 原文は、岩波書店 新 日本古典文学大系 枕草子による。