帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの枕草子〔二百九〕賀茂へまいる道に、

2011-10-24 00:01:50 | 古典

  



                                  帯とけの枕草子〔二百九〕賀茂へまいる道に



 言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」のみ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。



 清少納言枕草子〔二百九〕賀茂へまいる道に

 
 賀茂へ参る道で、田植えるといって、女が、新しい、おしき(折敷…盆)のようなものを笠に着て、たいそう大勢立って歌を唄う、折れ伏すように、また、何事をするとも見えず後ずさりする、何なのでしょう。興味をもって見るときに、ほとゝぎすを、いとなめううたふ、きくにぞ心うき(ほととぎすを、ひどく無礼に唄う、聞くと不愉快なことよ)。

ほとゝぎす、をれ、かやつよ、をれ、なきてこそ、我はたうふれ

(ほととぎす、まぬけ、そこの奴よ、まぬけ、鳴いている、我は田植えている……ほと伽す、折れ逝く、そこのやつよ、折れ逝く、泣いてこそ、われは、多飢えている)。

と唄うのを聞くが、如何なる人か、「いたくなゝきそ(ひどく鳴かないでよ…)」とは言ったようだ。

 忠仲(宇津保物語に登場する人物)の、わらはおひ(童生い…おい立ち)を言い落とす人と、ほととぎす、うぐひすに劣るという人こそ、いとつらうにくけれ(我慢ならないほど気に入らないことよ)。


 言の戯れと言の心

 「ほととぎす…鳥の名…女…ほと伽す…郭公…且つ恋う…且つ乞う」「をれ…痴れ…まぬけ…折れ…折れ逝く」「田…女…多…多情」「うふ…植える…種うえつける…まぐあう…飢える…乞う」。



 このように言葉が戯れていると、田植え歌が「いとなめううたふ、にくきにぞ心うき(とっても無礼に唄う、聞き辛くて気分がわるい)」と思えるでしょう。

万葉集 巻八夏雑歌にある大伴坂上郎女の歌

かく公鳥いたくな鳴きそ独り居て いの寝らえぬに聞けば苦しも

(郭公鳥ひどく鳴かないで、独り居て、寝られないのに聞けば苦しいよ……ほと伽す、且つ恋う且つ乞うと・ひどく鳴かないでよ、独り居て眠れないのに、聞けば苦しいじゃないの)。


 伝授 清原のおうな

 聞書 かき人知らず (2015・9月、改定しました)


 原文は、岩波書店 新 日本古典文学大系 枕草子による。