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【書評 141-3】〆 パンツの面目 ふんどしの沽券(こけん)     米原 万理 著          ちくま文庫    2008年4月 刊

2021-09-17 10:57:07 | 書評
3.「乗馬が先か、パンツが先か」 
                                                            
・ このタイトルは本書の最終24章のタイトルである。言うまでもなく「パンツ(pants)」は、仏語・Pantalon からの連想でわかるとおリ、総称「ズボン類」の短いヴァージョンを指す。
  従い、正確には「乗馬が先か、ズボンが先か」だろう。が、書名との一貫性を保つため?米原氏は敢えて下着ではない総称「パンツ」をここでも用いた。


・ ユーラシア大陸のステップ(乾燥草原)地帯に遊牧騎馬民族が出現したのは紀元前20世紀頃とされる。最初の民族は「スキタイ」と呼ばれる一団で、西のヨーロッパや東の中国に進出し始めたのは
  紀元前10世紀頃から。それは、ギリシャのヘロドトスが『歴史・第4巻』で、司馬遷は『史記/匈奴列伝』で、機動力に勝る兵士たちが集団で襲撃してくる恐怖を描いてるという。
   <胸の開く上着にズボンをはき、腰にはベルトを締め、サンダルではなく靴を履いていた(末崎真澄編:図説/馬の博物誌)河出書房新社> ← これは現代の「背広」の祖型でもある。

・ 世界各地の遺跡にはスキタイに始まる騎馬民族<ヒッタイト・ペルシャ・サルマート・モンゴルなど>の進出拡大や戦闘場面を描く絵柄が多く残されているので、まるで乗馬の必要からズボンが
  発明された、かのような議論が絶えなかった。だが、第二次大戦後、各国の考古学者が遺跡発掘調査を進めた結果、人類が馬を家畜として飼育し始めた歴史は旧石器時代(紀元前約3万年)よりも
  前であることが判明。同時に発掘された其の当時の服装を比べると、服装は<上着とズボンの組み合わせ>ではなく<全身を獣皮で包む繋ぎ服>だった。つまり、人類の馬に乗る歴史の方が
  <乗馬に適した服>の出現より遥かに古かったことになる。

・ おりしも紀元前30世紀頃、地上は氷河期に入ったので人類は馬と共に洞窟で過ごし、寒い外へは毛皮で全身をくるむ服装しかなかった。やがて長い氷河期が去ると、前回の【書評 141-2】
  後半<★人類の衣服の発展史>で書いたように①紐衣型(Ligature)から順次、衣類は変遷した。そして、人類が家畜飼育だけなく、乗馬するようになる前の旧石器時代には⑥まで発達していた。
  ということは、騎馬民族のまとった上着+ズボン姿は馬に乗る前から着用され、乗馬に好適で便利だから使われ、騎馬民族の間では普及するようになった。  <先にパンツありき!>

 ・・2005年6月、この言葉で米原氏は頁を閉じた。 56歳で亡くなるのが翌2006年5月、本書はちょうど1年前の遺作となった。癌に見舞われず元気なら、もっと書きたい事は沢山あった人だ。 
  何度も言うが、惜しい人を失った。                                                          < 了 >
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