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【特別企画】『ダリル・ホール & ジョン・オーツ』解散への寄稿 (第1回)スターマン★アルチ編

2024-06-16 10:41:30 | 『スターマン★アルチ 』Presents『The Word ~ROCKの言霊~』

あれは4月の半ばだった。電話で編集長『Mash』氏との編集会議にて今後の記事をどうしようか・・・と打ち合わせをしている際、
「ホール&オーツ解散したな!」
と藪から棒に言われまして、その事を知らなかった僕からすれば、本来ならば『突然の衝撃的なニュース』のはず・・・。しかし僕はさほど驚かなかったのでした。
「ああ、やっぱりな」という何処か冷めた、それでいて切ない気持ちに包まれたのです。

というのも、昨年11月にダリル・ホールが来日公演を行った際、同じタイミングで「ジョン・オーツに対し、アメリカの裁判所から接近禁止命令を出した」と報じられたからでしょう。細かいコトはご両人でないと分かりませんが、二人の関係性は決して良くないということが明るみに出たわけです。

ホール&オーツ。今となっては、音楽の歴史の中で埋もれてしまった存在かもしれませんが、僕は本当に彼らの事が大好きです。彼らの解散が良い機会か分かりませんが、今回は彼らの事についてお話したいと思います。

まずはご両人をご紹介

『ダリル・ホール』1946年生まれの77歳
『ジョン・オーツ』1948年生まれの76歳

二人は1972年にレコードデビューして以来、数々のヒットを飛ばしており「ブルーアイドソウル」というジャンルにカテゴライズされています。コレって「白人版ソウル・ミュージック」のことなのですが、彼らの代表曲、例えば「Private eyes」「Kiss on my list」を聴けばお分かりのように「これがソウル?」と思うほど、非常にシンプルで良質なポップミュージックなのです。
もちろん黒人音楽を愛して止まない二人なので、随所に黒人音楽へのリスペクトが感じられますが、あまりジャンルにこだわらず、シンプルに「良質な音楽」として聴いて頂きたいものです。

キーボード&ヴォーカルのダリル・ホールは、ホール&オーツのヒット曲のほとんどを歌っており、ライブでもミュージックビデオでも、明らかに彼だけが目立つような演出になっております。それは、彼らの意志とは関係ないのかもしれませんし、デビュー直後のアコースティックなソウルから、ダリル中心のキーボードミュージックに転向した事でヒットを生むようになったので彼が目立つのも当然のことなのかもしれませんが、もう一人のギター&ヴォーカルのジョン・オーツの影が明らかに薄い!初期のアルバムでこそ、ジョンのリードボーカルの曲が多かったものの、売り上げが上がるしたがって、徐々に減っていき、大ヒットした70年代後半からはアルバムに1,2曲ぐらいしかジョンが歌う曲がないという状況なのです。

しかし!本来の彼らの魅力は、ダリル・ホールとジョン・オーツの絶妙なバランスであり、キーが高くソウルフルでメロディックのダリルと、しゃがれ声で淡々と歌い上げるジョン(もちろんギターの腕も超一級です!)サム&デイヴさながらの対照的な二人だからこそ、これだけの成功を収めたのだと思います。僕は「ホール&オーツ」のコンサートも観に行けたし、彼ら二人それぞれのソロ・コンサートにも足を運びましたが、正直『ビルボード東京』で観たジョン・オーツのソロ・コンサートが圧倒的に良かった事実をココでお伝えしておきましょう!

肝心のデュオでのコンサートは2011年2月28日に『東京国際フォーラム』で観たわけですが、明らかに「お仕事モード」という感じで、当時のヒット曲を、そのままのアレンジで演奏する・・・なんとも予定調和で味気ないコンサートでした。そして、ジョン・オーツは「She's gone」と「Las Vegas Turnaround」のみしか歌っておらず、人によっては「彼もダリル・ホールのバックバンドの一人なのか?」と思われても仕方のないような扱いでした。

・・・・・ここで改めて思い出しましたが、そのコンサートを見に行ったのは「3・11東日本大震災」の一カ月ぐらい前。あの頃は、まさかあんな事が起きるなんて思いもしませんでしたし、あれから僕を含め多くの人の人生観が変わったことでしょう。3・11やコロナを経た今となっては、そのコンサートは本当に遠い昔話のように感じます。わたくしごとで恐縮ですが、あの時『一緒にコンサートを観た女の子』は元気でいるだろうか?僕自身その時のコンサートに対しては、さほど感動もなくほとんど印象にないのですが、その子が「Kiss on my list」が流れた瞬間に大喜びで立ち上がったことだけは覚えています。この広い世界のどこかで元気でいれば良いな~とあらためて思いますね(失礼!)

さて、話が少しずれましたが、ホール&オーツのコンサートは残念な印象で終わり、昨年観たトッド・ラングレンとダリル・ホールのジョイント・ライブも同様でした。やはり予定調和で、あまりに軽く歌っているので「ダリル調子悪いのかな?」と疑う程でしたし、MCも含め「これやっていればお前ら喜ぶんだろ?」というような傲慢な感じがありました。それを許容する「ヒット曲を聴ければ満足」とする様な客層にも問題はあると思いますが、その後ステージに立った「トッド・ラングレン師匠」が笑ってしまうほど全力投球でライブを行っていたので、随分とダリルが残念な感じとなってしまいました。もちろん、圧倒的に盛り上がっていたのはダリル・ホールの方でしたが・・・。

「一番良かった」と言えるのがジョン・オーツのソロコンサート!コレを観たのは、確かアルバム『1000 Miles of Life』が出た2008年だったと思います。『ビルボード東京』というキャパが300人ほどの狭い会場ということもあり、終始リラックスしたアットホームなコンサートでした。ジョン・オーツの歌声は本当に独特で、ハスキーな低い歌声から、絞り出すような高音まで、常に黒人音楽のフィーリングがあり、一度聴けばすぐに分かる歌声です。

今振り返ってみると、ダリル・ホールは常に、大ヒットを連発していた頃の「ホール&オーツ」を期待されており、当然会場も大きくなり、バンドの演奏もラウドになっていく。いくら本人がジョンのような「もっとルーツ寄りの音楽をしたい」と思っても、音楽ビジネスの流れに乗っている以上、それが出来ない状況なのです。昨年のコンサートでも「Private eyes」や「Dream time」などリハーサルかと思うぐらい軽く歌っており「ああ、この曲に愛着がないのかな~」と思っていたのですが、一方、グランドピアノだけで弾き語られた「Everytime you go away」は、「もう全部ピアノだけで演奏してほしい」と思うほど素晴らしかったものです。一つのバンドを牽引しないといけない立場の苦悩が垣間見れます。ソロアルバムでも『Dreamtime』では、あえて時代の音を取り入れたり『Soul alone』では、90年代R&Bのアレンジに寄せるあまり、ダリル・ホールの個性が失われています。そのソロアルバムも決して悪くはないですが「何処かダリル本来の魅力」が十分に発揮されていない印象なのです。

一方のジョン・オーツはライブでもアルバムでも「常に自然体」という感じで「自分の好きな音楽を好きなようにやる」という理想的なスタンスなのです。これは、ジョン・ボン・ジョヴィやミック・ジャガーにも言えることで、聴き直してみると、どこか「当時の音」が「古臭く」聞こえ、逆によりルーツ寄りだったリッチー・サンボラやキース・リチャーズのソロの方が、良く聴こえたりします。

色々と書きましたが、そもそも二人揃った「ホール&オーツ」の音楽は素晴らしく、1972年から2024年までの長い期間の中で、名曲が数多く生まれています。勿論長い年月です。大きく音楽性は移り変わっていますので「どこから聴けば良いか分からない!」という方のために、参考までに僕の好きなアルバムを、各年代ごとにご紹介致します。

まずは70年代!既に「ブルースやソウルが好きだ」という粋な方には、1973年の2作目『Abandoned Luncheonette』でしょう!何よりも素晴らしいのが、ダリルとジョンのリードボーカルが半々ぐらいの割合で、アコースティックギター主体の「いつまでも色あせない」音楽なのです。この時はまだ「ちゃんとデュオやってんな~」という感じです。ほどよく土の香りがし、ブルース、フォーク、ボサノヴァ、ソウルなどのエッセンスが絶妙に混ざりあったサウンドは、決して派手さは無く売れる音楽ではないかもしれませんが、非常に素晴らしい内容なのです。

1980年代は徐々にダリル・ホール主導のポップロック路線に移っていき、『H2O』『Big Bam Boom』などの全米で200万枚を越えるセールスを連発し連続シングル1位の記録も作ります。もちろんどれも良いのですが、個人的には1980年の「Voices」を推したい!後作に比べると、まだシンセの音が少なく、エレキギターのロックなフィーリングがありますし、ジョンオーツのリードボーカルで始まる一曲目「How Does It Feel to Be Back」では、みんな大好きビートリーなコーラスも聴けます!勿論ライチャス・ブラザーズのカバー「ふられた気持ち」や、後にポール・ヤングがカバーし大ヒットする「Everytime You Go Away」、代表曲「Kiss on my list」も収録されています。知られてないものの以外と名曲揃い!がこの『Voices』なのです。

1990年代に入ると、シンセ&打ち込み主体のポップ路線から原点回帰していきます。残念ながらそれと同時に売り上げが下がっていきますが、音楽的な素晴らしさで言えば1990年の『Change of Season』。コレは最高です。再びアコースティック主体のルーツ寄りのサウンドとなり、何よりもジョン・オーツのヴォーカルが増えました。聴き直してみると、やっぱりホール&オーツの良いアルバムって、二人のバランスが丁度良い具合なんですよね。

じゃあ2000年代はどうか?当時のファンも、ここまでは追いかけていないかもしれませんが、僕が敢えて推したいアルバムが、2003年の『Do It for Love』です。案の定、こちらもジョン・オーツのボーカルが多いです。このアルバム全体に流れる、どこか陰鬱とした雨の日のような雰囲気が本当に魅力的で、ヴォーカルにかなり気合が入っています。予想外にニューラディカルズのカバー「Someday We'll Know」にはトッド・ラングレンも参加し、三人で大熱唱する感動的な一曲です。そして、ラストを飾るジョン・オーツの「Love in a Dangerous Time」!一年前に発表されたソロアルバム『Phunk Shui』に収録されていた曲であり、「既に発表済みの自分のソロ曲」をあえて収録するほど、こだわった曲なのでしょう。「ホール&オーツ」の歌詞に注目する事はあまりないかもしれませんが、この曲に関しては歌詞も本当に素晴らしいので、最後にその一部を紹介し、今回の記事を終えたいと思います。

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【Love in a Dangerous Time】

(written by John Oates, Arthur Baker, Tommy Faragher) 

この国の中心に
銃を持っていない殺し屋が一人
みんな怖がって
安心して誰かを愛したり信じたりできない

だからこそ、僕は祈らずにはいられない
君のために

子ども達の心の中では真実はシンプルだ
自分の世界に閉じこもりそうになったら
目を開けば良い
暗闇と沈黙から逃れて
いったいどうやって生きていけばようのだろう?

愛に危機が迫っている
(Love in a Dangerous Time)

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これこそが、彼の人間性というか人生観を象徴するようなピースフルな曲で「あっ、この人、本当ピースフルで自然体な人なんだな」と思わせる一曲なのです。

さて、いかがでしたでしょうか?解散してしまったのは残念ですが「ホール&オーツ」という素晴らしい二人組の音楽を今こそ聴いて頂ければ嬉しい限りです。

長文のご愛読、誠にありがとうございました!

《スターマン★アルチ筆》

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