永子の窓

趣味の世界

枕草子を読んできて(106)

2019年02月02日 | 枕草子を読んできて
九三  なまめかしきもの  (106)2019.2.2

 なまめかしきもの ほそやかに清げなる君達の直衣姿。をかしげなる童女のうへの袴などわざとにはあらで、ほころびがちなる汗衫ばかり着て、薬玉など長くつけて、高欄のもとに、扇さし隠してゐたる。若き人のをかしげなる、夏の几帳の下打ちかけて、白き綾、二藍ひき重ねて、手習ひしたいる。薄様の草子、むら濃の糸してをかしくとぢたる。柳もえたるに、青き薄様に書きたる文つけたる。
◆◆優雅なもの ほっそりとしてきれいに見える貴公子の直衣姿。明るく可愛らしげな童女が、上の袴などをことさらにははかないで、縫い合わせの少ない汗衫(かざみ)くらいなのを着て、薬玉など組糸を長くして袖脇あたりにつけて、高欄のもとに、扇で顔を隠して座っているの。若い女房でうつくしげな人が、夏の几帳の帷子の裾を上に引っ掛けて、白い綾の単衣に、二藍の薄物の表衣を着重ねて、手習いしてるの。薄様の草子を、むら染の糸でおもしろく綴じてあるの。柳の萌え出ている枝に、青い薄様に書いてある手紙をつけてあるの。◆◆

■汗衫(かざみ)=衵(あこめ)の上に着る童女の服。


 髭籠のをかしう染めたる、五葉の枝につけたる。三重がさねの扇。五重はあまり厚くて、もとなどにくげなり。よくしたるひわり籠。白き組のほそき。あたらしくもなくて、いたく旧りてもなきひはだ屋に、菖蒲うるはしく葺きわたしたる。青やかなる御簾の下より、朽木形のあざやかに、紐いとつややかにてかかりたる。紐の吹きなびかされたるも、いとをかし
◆◆髭籠のおもしろく染めてあるのを、五葉の松の枝につけてあるの。三重かさねの扇。五重ねの扇はあまり厚くて、手元のところなどがにくらしい様子だ。上手にこしらえてある檜破籠(ひわりご)。白い組紐の細いの。新しくもなく、それほど古くもない檜皮葺きの屋根に、菖蒲をきれいに並べてあるの。青々としている新しい御簾の下から、几帳の帷子の朽木形の模様が鮮やかで、紐がとてもつややかに掛かっているの。帷子の紐が風に吹きなびかされているのも、とてもおもしろい。◆◆

■髭籠(ひげご)=竹を編み残して髭のように立てた籠。

■三重がさねの扇=檜扇の親骨になるところを檜の薄板三枚重ねて、その上を薄様で包んものと言うが確かではない。一説に、薄板八枚を一単位とし、三重とは二四枚をもちいたもの。

■ひわり籠(ひわりご)=檜の薄板で作り、中仕切りのある食物容器。



 夏の帽額のあざやかなる。簀子の高欄のわたりに、いとをかしげなる猫の、赤き首綱に白き札つきて、いかりの緒くひつきて、引きありくも、なまめいたる。五月の節のあやめの蔵人。菖蒲のかづら、赤紐のいろにはあらぬを、領巾、裙帯などして、薬玉を親王たち、上達部などの立ち並みたまへるに奉るも、いみじうなまめかし。取りて腰にひきつけて、舞踏、拝したまふも、いとをかし。火取りの童。小忌の君達もいとなまめかし。六位の青色の宿直姿。臨時の祭の舞人。五節の童なまめきたり。
◆◆夏の帽額(もこう)の鮮やかなの。簀子の高欄のあたりに、とてもかわいらしげな猫が赤い首綱に白い札がついて、重りの緒を、食いついて引っ張り回るのも優雅な感じだ。五月の節会のあやめの女蔵人。髪に菖蒲のかずらをつけ、赤い紐の派手ではないのをつけて、領巾、裙帯などをまとって、薬玉を親王たち、上達部などの、立ち並んでいらっしゃるのに差し上げるのも、たいそう優雅だ。薬玉を受け取って、腰に引きつけて、御礼の拝舞をなさるのも、たいへんおもしろい。五節の折の火取りを持つ童女。小忌の役の若君たちもとても優雅だ。六位の蔵人の青い色の宿直姿。臨時の祭の折の舞人。五節の姫につく童女も優雅な様子である。◆◆

■帽額(もこう)=簾の上辺に横につけた布。

■領巾(ひれ)、裙帯(くたい)=正装の時、肩に掛ける装飾の帯状の布。腰に結び垂れる紐。

■小忌(おみ)の君達=小忌衣(おみごろも=白布に山藍で模様を摺り出す)を着て新嘗祭や豊明節会の神事に奉仕する君達。



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