永子の窓

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枕草子を読んできて(107)その1

2019年02月05日 | 枕草子を読んできて
九四  宮の五節出ださせたまふに(107) その1 2019.2.5

 宮の五節出でさせたまふに、かしづき十二人、こと所には、御息所の人出だすをば、わろき事にぞすると聞くに、いかにおぼすにか、宮の女房を十人出ださせたまふ。今二人は、女院、淑景舎の人、やがてはらからなり。
◆◆中宮様がその御もとから五節の舞姫をお出しあそばされるのに、介添えの女房十二人について、よそでは、御息所にお仕えする女房を出すのをば、よくないことにしていると聞くのに、どうおぼしめすのであろうか、中宮方の女房を十人お出しあそばされる。あとのもう二人は、女院と、淑景舎との女房で、その二人はそのまま姉妹の間柄であったのだった。◆◆

■宮の五節=正暦四年(993)十一月のことか。

■かしづき十二人=八人が通例。

■女院=皇太后藤原詮子。東三条院。一条帝母。兼家の二女。

■淑景舎(しげいさ)の人=中宮の同母妹の原子。道綱(兼家と蜻蛉日記の作者との間の息子)の二女。


 辰の日の青摺の唐衣、汗衫を着せさせたまはへり。女房にだにかねてさしも知らせず、殿上人にはましていみじう隠して、みな装束したちて、暗うなりたるほど持て来て着す。赤紐いみじう結び下げて、いみじく瑩じたる白き布に、かた木のかたは絵にかきたり。織物の唐衣の上に着たるは、まことにめづらしき中に、童はいますこしなまめきたり。下仕へまでつづきだちてゐたる、上達部、殿上人おどろき興じて、小忌の女房とつけたり。小忌の君達は、外にゐて物言ひなどす。
◆◆中宮様は五節の辰の日に舞姫が着る青摺りの唐衣や、汗衫をこれらの女房や童女にお着せあそばしていらっしゃる。この計画は他の女房にさえ知らせず、殿上人ににはまして極秘にして、他の人がすっかり装束をつけて、暗くなったころに持って来て着させる。赤紐をとてもきれいに結んで下げて、たいへんよく磨き上げてある白い衣、それに型木で摺るのが通例の模様は、肉筆で描いてある。織物の唐衣の上にこれを着ているのは、ほんとうに珍しく、その中でも童女は他の人よりひときわ優雅にみえる。下仕えの女までが女房や童女の続きのようにそこに座っているのを、上達部、殿上人がびっくりしておもしろがって、小忌の女房とあだ名をつけている。小忌の若者たちは、外に座って中の女房と話をしたりなどする。◆◆

■辰の日の青摺の唐衣=丑寅卯辰と四日間にわたる五節の最終日。青摺は山藍の摺り染め。

■かた木のかた=普通は版木で摺る模様は。


 「五節の局をみなこぼちすかして、いとあやしくてあらする、いとことやうなり。その夜までは、なほうるはしくてこそあらめ」とのたまはせて、さもまどはさず、几帳どものほころび結ひつつ、こぼれ出でたり。小弁といふが、赤紐の解けたるを、「これ結ばばや」と言へば、実方の中将寄りてつくろふに、ただならず。
 あしひきの山井の水はこほれるをいかなる紐の解くるなるらむ
と言ひかく。
◆◆中宮様が「五節の控室をみな取り壊して見透かされるようにして、変な様子にして置かせるのはおかしい。その辰の日の夜までには、やはりきちんと決まり通りにしておくがよい」と仰せあそばして、皆が困らないように、外から覗かれないよう几帳などもほころびている所は縫い合わせて、袖口は局の外にこぼれ出ている。小弁という介添えの女房が、赤紐が解けているのを、そばの女房に、「これを結びたいわ」と言うと、外にいた実方の中将が御簾のきわに近寄って結びなおすにつけて、何か意味ありげだ。
(中将の歌)私に対してあなたは、うち解けないのに、紐(下紐の意)が解けたというのはどういう紐か。――「山井」(山の湧水)に小忌衣の「山藍→やまゐ」をかけ「紐」の「ひ」に「氷」をかける。――
と言い掛ける。◆◆

■五節の局=五節の舞姫の控室。五節所。

■実方の中将=実方の親は勅撰集に六十余首入っている。

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