永子の窓

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枕草子を読んできて(104)その3

2018年12月26日 | 枕草子を読んできて
九一  職の御曹司におはしますころ、西の廂に  (104)その3   2018.12.26

 その後、また尼なるかたゐの、いとあてやかなるが出で来たるを、また呼び出でて物など問ふに、これははづかしげに思ひてあはれなれば、衣一つ給はせたるを、伏し拝まむは、されどよし、さてうち泣きよろこびて出でぬるを、はやこの常陸の介、行きあひて見てけり。その後いと久しく見えねど、たれかは思ひ出でむ。
◆◆その後、また、尼の乞食で、とても品の良いのがでてきているのを、また呼び出して物などを尋ねると、この尼はきまり悪そうに思っているようで、しみじみ可哀そうなので、着物一つをお下げ渡しあそばしているのを、伏し拝むのは、それはそれでよいとして、そうして泣いて喜んで出て行ったのを、早くもこの常陸の介が、行き会って見てしまったのだ。それから後は、すねてしまってか、久しく見えないけれど、一体だれが思い出そうか。◆◆

■かたゐ=片居が言語。乞食。



 師走の十よ日のほどに、雪いと高う降りたるを、女房などして、物の蓋に入れつつ、いとおほく置くを、「同じくは、庭にまことの山を作らせはべらむ」とて、侍召して仰せ言にて言へば、あつまりて作るに、主殿寮の人にて、御きよめにまゐりたるなど、みな寄りて、いと高く作りなす。宮司などまゐりあつまりて、言加へ、ことに作れば、所衆三四人まゐりたる。主殿寮の人も、二十人ばかりになりにけり。里なる侍召しにつかはしなどする。「今日この山作る人には禄給はすべし。雪山にまゐらざらむ人には、同じ数にとどめよ」など言へば、聞きつけたるは、まどひまゐるもあり。里遠きはえ告げやらず。
◆◆師走の十日あたりに、雪が大層深く降り積もっていたのを、女房たちが何かの蓋に入れ入れして、あちらこちらにたくさん置くのを、女房たちは「同じ事なら、庭に本当の山を作らせましょう」といって、中宮様の思し召しということで、侍をお呼び寄せになって、中宮様からのご命令として言うので、主殿寮の人で、ご清掃に参上している者なども、皆一緒になって、たいへん高く作りあげる。中宮職の役人などが参上し集まって来て、助言をして、格別に作るので、蔵人所の衆が、三、四人参上している。主殿寮の人も二十人ほどになってしまったのだった。非番で自宅にいる侍をお呼び寄せになりに、使いをお遣わしになりなどする。その口上で「今日この山を作る人にはきっと禄をくださるだろう。雪山作りに参上しないような人には、禄を今までと同じ数にとめておけ」などと言うので、これを聞きつけた者は、うろたえ参上する者もいる。自宅が遠い者にはとても告げ知らせきれない。◆◆

■師走の十よ日=長徳四年(998)十二月十日に大雪とある。

■主殿寮(とのもりづかさ)=宮内省所属。宮中の掃除・乗り物・湯浴み・灯火・燃料などを司る。

■宮司(みやづかさ)=中宮職の役人。上位の者たちで、実際には作らず助言した。

■所衆(ところのしゅう)=蔵人所の衆。雑役をする。



 作り果てつれば、宮司召して、絹二ゆひ取らせて縁に投げ出づるを、一つづつ取りに寄りて、拝みつつ腰にさしてみなまかでぬ。うへの衣など着たるは、かたへ、さらでは、狩衣にてぞある。
◆◆すっかり作り終えたので、中宮職の役人をお呼び寄せになって、皆に褒美として絹を二くくり与えて縁に投げ出すのを、一つずつ取りに近寄って、一人ひとり身をかがめて礼をしては、腰にさしてみな退出してしまう。役人で袍など着ている人は一部分で、そうでない者は、狩衣姿でそこにいる。◆◆



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