永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(1203)

2013年01月17日 | Weblog
2013. 1/17    1203

五十二帖 【蜻蛉(かげろう)の巻】 その43

「この院におはしますをば、内裏よりもひろくおもしろく住みよきものにして、常にしもさぶらはぬ人どもも、皆うちとけ住みつつ、はるばると多かる対ども、廊渡殿に満ちたり。右の大殿、昔のけはひにもおとらず、すべてかぎりもなく営み仕うまつり給ふ。いかめしうなりにたる御族なれば、なかなかいにしへよりも、今めかしきことはまさりてさへなむありける」
――(明石中宮が)宮中から六条の院へ退出していらっしゃいますと、御所よりも広く面白く、住み心地よく思われて、いつも詰め切りに伺候するのではない女房達でも、みな気軽に住んで、広々と幾棟もある対、廊、渡殿が、女房達でいっぱいです。左大臣は、六条院(源氏)の御在世中のご威勢に劣らず、明石中宮の御為に万事につけこの上もなくお世話申し上げられます。厳めしいまでに栄えていらっしゃる御一門ですので、却って昔よりも華やかさでは、優ってみえるほどです――

「この宮、例の御心ならば、月ごろの程に、いかなるすきごとどもをし出で給はまし、こよなくしづまり給ひて、人目にはすこし生ひ直り給ふかなど見ゆるを、こごろぞまた、宮の君に、本性あらはれてかかづらひありき給ひける」
――匂宮は、いつものご性分ならば、母宮が六条の院においでになる幾月かの間に、なにか浮気をお始めになるところですが、それがこの上もなく落ち着かれて、人目には少しは生まれ変られたのかと見えましたが、この頃になってまたご本性が現れて、何かと宮の君への懸想に熱中しておられます――

「涼しくなりぬとて、宮、内裏に参らせ給ひなむとすれば、『秋の盛り黄葉の頃などを見ざらむこそ』など、若き人々はくちをしがりて、皆参りつどひたる頃なり。水になれ月をめでて、御遊び絶えず、常よりも今めかしければ、この宮ぞ、かかる筋はいとこよなくもてはやし給ふ」
――もう涼しくもなりましたので、明石中宮が御所に参内なさろうとしますと、「秋の盛りの紅葉の頃を観ませんでは」などと、若い女房達が残念がって、皆そろってこちらに伺候しています。池水に馴れ親しみ、月の光を愛でて、絶えず管弦のお遊びをなさり、いつもより賑やかですので、匂宮はこの方面のことは大そうお好きでいらっしゃるので、この上なくうち興じていらっしゃる――

「朝夕に目なれても、なほ今見む初花のさまし給へるに、大将の君は、いとさしも入り立ちなどし給はぬ程にて、はづかしう心ゆるびなきものに皆思ひたり」
――匂宮の御様子は、朝に夕べに見馴れていましても、まるで今初めて見る初咲きの花のようでいらっしゃるのに対して、薫はそれほど六条院に入り浸られない時分ですので、女房達には少々気づまりな方だと思われています――

では1/19に。