永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(1202)

2013年01月15日 | Weblog
2013. 1/15    1202

五十二帖 【蜻蛉(かげろう)の巻】 その42

「この春亡せ給ひぬる式部卿の宮の御女を、継母の北の方ことにあひ思はで、兄の、右馬の頭にて人柄もことなることなき、心かけたるを、いとほしうなども思ひたらで、さるべきさまになむ契る、と聞し召すたよりありて、『いとほしう、父宮のいみじくかしづき給ひける女君を、いたづらなるやうにもてなさむこと』などのたまはせければ」
――この春お亡くなりになられた式部卿の宮(光源氏の弟)の姫君を、継母の北の方が格別嫌って、自分の兄で、右馬の頭(うまのかみ)で人品もそれほどではない男が懸想したのを、継母は可哀そうにとも思わずに縁づけようと取り計らったと、明石中宮がお聞きになる折がありまして、
「お可哀そうに。父宮が大切にお育てになった姫君を、そのように粗略にお扱いになるとは、まあ」などと仰っておりました――

「いと心細くのみ思ひ歎き給ふありさまにて、『なつかしう、かくたづねのたまはするを』など御兄の侍従も言ひて、このごろ迎へ取らせ給ひてけり。姫宮の御具にていとこよなからぬ御程の人なれば、やむごとなく心ことにてさぶらひ給ふ。かぎりあれば、宮の君などうち言ひて、裳ばかりひきかけ給ふぞ、いとあはれなりける」
――(当の姫君も)ただ心細いばかりで歎いていらっしゃった時ですので、「おやさしくも、こんなにお心にかけてお尋ねくださるとは」と、兄君の侍従なども言って、この頃こちらにお引き取らせになりました。女一の宮のお相手として、それほど不似合いではないご身分の人なので
ほかの女房とは違った尊いご身分の方として、特別の扱いでお仕えしていらっしゃいます。けれども女房という身分の限界がありますので、宮の君などと呼ばれて、裳だけは着けてお出でになりますのが、大そうお労しいのでした――

「兵部卿の宮、この君ばかりや、こひしき人に思ひよそへつべきさましたらむ、父親王は兄弟ぞかし、など、例の御心は、人を恋ひ給ふにつけても、人ゆかしき御癖止まで、いつしかと御心かけ給ひてけり」
――匂宮は、この宮の君だけは、恋しいあの浮舟になぞらえてもよいご容姿ではなかろうか、二人の父親王はご兄弟なのだから、などと、例の浮気なご性分では、亡き人を恋しくお思いになるにつけても、まだ見ぬ女に憧れる御癖が止まず、早く逢いたいものだと心掛けておいでになります――

「大将、もどかしきまでもあるわざかな、昨日今日といふばかり、東宮にやなど思し、われにもけしきばませ給ひきかし、かくはかなき世のおとろへを見るには、水の底に身を沈めても、もどかしからぬわざにこそ、など思ひつつ、人よりは心よせきこえ給へり」
――薫は、宮の君がたとえ中宮の御殿であるにせよ、宮仕えをするなどとは、非難したいくらいだ。つい作今まで東宮に女御して差し上げようかとなどと父宮がお思いになり、自分にも妻にしてはどうかとというような素振りをお見せになったその方を、(宮仕えなさるというような)そのような無情な世の移ろいを見るなら、いっそ川に飛び込んでも悪く言われずにすむことだ、などとお思いになって、薫は人一倍宮の君にご同情申されました――

◆裳ばかりひきかけ=一般の女房は裳と唐衣を着るが、宮の君は身分柄、裳だけを着けて宮仕えのしるしとしたのである。

では1/17に。