永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(1201)

2013年01月13日 | Weblog
2013. 1/13    1201

五十二帖 【蜻蛉(かげろう)の巻】 その41

「皆人どもは往き散りて、乳母とこの人二人なむ、とりわきて思したりしも忘れがたくて、侍従はよそ人なられど、なほ語らひて、あり経るに、世づかぬ川の音も、うれしき瀬もやある、と頼みし程こそなぐさめけれ、心憂くいみじくもの恐ろしくのみおぼえて、京になむ、あやしきところに、このごろ来て居たりける」
――宇治では浮舟の死後、侍女たちは暇を取って去っていき、乳母とこの侍従と右近だけが残っていました。侍従はあとからここに来た女房でしたが、やはり乳母たちと仲良く暮らしていましたが、聞きなれない川の音も、やがては嬉しき瀬になるかと望みを掛けていた間は、慰めになったものの、今ではもう恐ろしく思えて、この頃、京のむさくるしい所に移って来ていたのでした――

「たづね出で給ひて、『かくてさぶらへ』とのたまえど、御心はさるものにて、人々の言はむことも、さる筋のことまじりぬるあたりは、聞きにくきこともあらむ、と思へば、うけひききこえず、后の宮に参らむとなむおもむけたれば、『いとよかなり。さて人知れず思しつかはむ』とのたまはせけり」
――その侍従を匂宮は探し出されて、「こちらにお仕えするように」と仰せになりますが、そのご親切はそれとして、ほかの女房達は何と思うかしら、何分にも亡き姫君とこちらの御方とは入り組んで面倒なことが絡んでいる邸であってみれば、聞くに堪えぬこともあるだろう、そう思うとお受けしかねて、中宮の御所へ出仕いたしとうございます、と申し上げますと、「それはよいことだ。そうしたうえで私がそっと目を掛けて使うとしよう」とおっしゃられます――

「心細くよるべなきもなぐさむや、とて、知るたより求めて参りぬ。きたなげならでよろしき下なり、とゆるして、人もそしらず。大将殿も常に参り給ふを、見るたびごとに、もののみあはれなり」
――侍従は、心細く頼り所のない気持ちも紛れるであろうと思って、伝手を頼って明石中宮にご奉公にあがりました。見ぐるしくない、頃合いの下仕えの女房だと、誰にも悪く言われずお仕えしています。薫殿も始終お出でになりますので、拝見するたび悲しくなるのでした――

「いとやむごとなき、ものの姫君のみ、多く参りつどひたる宮、と人も言ふを、やうやう目とどめて見れど、なほ見奉りし人に似たるはなかりけり、と思ひありく」
――大そう身分の高い姫君と呼ばれる程の人ばかり大勢お仕えしている御殿と聞いてはいましたが、だんだん気をつけて見ても、お仕えしていたあの浮舟程美しい人は居なかった、と思いながら小まめに立ち働いています――

では1/15に。