永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(1018)

2011年10月27日 | Weblog
2011. 10/27      1018

四十九帖 【宿木(やどりぎ)の巻】 その(79)

「されど、ありしながらのけしきに、先づ涙ぐみて、『心にもあらぬまじらひ、いとおもひのほかなるものにこそ、と、世を思ひ給へみだるることなむまさりにたる』と、あいだちなくぞ憂へ給ふ」
――ところが(薫は)昔ながらのご様子で、まず初めから涙ぐまれて、「この度は心に染まない婚儀が調いまして、何事も思うままになりませんことと、この世の中を思い乱れる心が、いよいよつのってまいりました」と、遠慮もなく愚痴をおっしゃいます――


「『いとあさましき御事かな。人もこそおのづからほのかにも漏り聞き侍れ』などはのたまへど、かばかりめでたげなる事どもにもなぐさまず、忘れ難く思ひ給ふらむ心深さよ、と、あはれに思ひきこえ給ふに、おろかにもあらず思ひ知られ給ふ」
――(中の君は)「まあ、何と言うことをおっしゃいます。もしや誰かが漏れ聞きでもしましたら、大変なことでしょうに」とおっしゃりながら、これほど結構そうなご縁組にさえも、お心が慰められず、自分たちの過ぎ去った日のことを忘れずにおいでになるとは、なんとお心の深いことであろうと、身に沁みて思い知らされるのでした――


「おはせましかば、と、くちをしく思ひ出できこえ給へど、それもわがありさまのやうにぞ、うらやみなく身をうらむべかりけるかし、何ごとも、数ならでは、世の人めかしき事もあるまじかりけり、と覚ゆるにぞ、いとどかの、うちとけはてでやみなむ、と思ひ給へりし御心おきては、なほいとおもおもしく思ひ出でられ給ふ」
――(それにしても)姉君が生きておられたならば、と残念にお思いになりますものの、その姉君にしても、薫に、今度のようなこの上ない御身分の北の方がお出来になったならば、つまりは自分のような境遇になられて、同じようにわが身の御不運をお嘆きになったことでしょう。何ごとも相当な家に生まれなくては、人並みに幸せな暮らしなど出来る筈もない、と思われますにつけ、あの姉君が薫を拒み通そうとなさったお心構えこそ、やはり思慮深いことだったと、いよいよ思い当たられるのでした――


「若君を切にゆかしがりきこえ給へば、はづかしけれど、何かはへだて顔にもあらむ、わりなきことひとつにつけて、うらみらるるよりはほかには、いかでこの人の御心に違はじ、と思へば、みづからはともかくもいらへ聞こえ給はで、乳母してさし出でさせ給へり」
――(薫が)若君を切に御覧になりたがっておいでになりますので、中の君は気が負けますものの、何もそれほど疎外する風にできましょうか、無理なお志だけはお聞き入れするわけにはいきませんが、その外のことは何とかして、この方のお心に背くまいとあれこれお考えになって、ご自分からは何もお返事なさらず、若君を乳母に抱かせて、御簾の外にお差し出しになります――

では10/29に。