2011. 10/7 1008
四十九帖 【宿木(やどりぎ)の巻】 その(69)
薫は、たいそう風情のある老木にまつわっている蔦の葉の、まだ紅葉の残っているのを「せめてこれだけでも」と取らせて、中の君へのお土産らしく、お持ちになります。
薫の歌
「やどりきと思ひいでずば木のもとの旅寝もいかにさびしからまし」
――昔、宿ったことがあると思い出さないならば、この山荘もどんなに淋しいでしょう――
とひとり言のようにおっしゃるのを、弁の尼がお聞きになって、
弁の尼の歌
「荒れはつるくちの木ももとをやどりきと思ひおきけるほどの悲しさ」
――荒れ果てたこの住いを昔宿ったところとして、思っておられましたとは、亡き大君故かと、まことに悲しいことです――
この歌はたいそう古めかしい詠み方ではありますが、昔を忍ぶ深い趣きがあるのを、薫はせめてもの慰めにと思われるのでした。
さて、
「宮に紅葉奉れ給へれば、男宮おはしましけるほどなり」
――(京に戻られた薫が)中の君に、かの紅葉をお届になりますと、丁度、匂宮がおいでになるところでした――
「『南の宮より』とて、何心もなく持て参りたるを、女君、例のむつかしきこともこそ、と、苦しくおぼせど、取り隠さむやは」
――(女房が)「三條の宮(薫の邸・この二条院の南に当たるので)から」と言って、何気なく持って参りましたのを、中の君は、また薫から面倒なことでも言ってよこしたに違いないと、お困りになるものの、匂宮の目前では取り隠しようがあるでしょうか――
「宮、『をかしき蔦かな』と、ただならずのたまひて、召し寄せて見給ふ」
――匂宮が「見事な蔦だなあ」と、意味ありげにおっしゃって、召し寄せてご覧になります――
では10/9に。
四十九帖 【宿木(やどりぎ)の巻】 その(69)
薫は、たいそう風情のある老木にまつわっている蔦の葉の、まだ紅葉の残っているのを「せめてこれだけでも」と取らせて、中の君へのお土産らしく、お持ちになります。
薫の歌
「やどりきと思ひいでずば木のもとの旅寝もいかにさびしからまし」
――昔、宿ったことがあると思い出さないならば、この山荘もどんなに淋しいでしょう――
とひとり言のようにおっしゃるのを、弁の尼がお聞きになって、
弁の尼の歌
「荒れはつるくちの木ももとをやどりきと思ひおきけるほどの悲しさ」
――荒れ果てたこの住いを昔宿ったところとして、思っておられましたとは、亡き大君故かと、まことに悲しいことです――
この歌はたいそう古めかしい詠み方ではありますが、昔を忍ぶ深い趣きがあるのを、薫はせめてもの慰めにと思われるのでした。
さて、
「宮に紅葉奉れ給へれば、男宮おはしましけるほどなり」
――(京に戻られた薫が)中の君に、かの紅葉をお届になりますと、丁度、匂宮がおいでになるところでした――
「『南の宮より』とて、何心もなく持て参りたるを、女君、例のむつかしきこともこそ、と、苦しくおぼせど、取り隠さむやは」
――(女房が)「三條の宮(薫の邸・この二条院の南に当たるので)から」と言って、何気なく持って参りましたのを、中の君は、また薫から面倒なことでも言ってよこしたに違いないと、お困りになるものの、匂宮の目前では取り隠しようがあるでしょうか――
「宮、『をかしき蔦かな』と、ただならずのたまひて、召し寄せて見給ふ」
――匂宮が「見事な蔦だなあ」と、意味ありげにおっしゃって、召し寄せてご覧になります――
では10/9に。