永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(1009)

2011年10月09日 | Weblog
2011. 10/9      1009

四十九帖 【宿木(やどりぎ)の巻】 その(70)

 薫からのお文には、

「日頃何事かおはしますらむ。山里にものし侍りて、いとど峰の朝霧にまどひ侍りつる、御物語もみづからなむ。かしこの寝殿、堂になすべきこと、阿闇梨に言ひつけ侍りにき。御ゆるし侍りてこそは、外に移すこともものし侍らめ。弁の尼に、さるべき仰せ言はつかはせ。などぞある」
――近頃はいかがでいらっしゃいますか。宇治に出かけまして、峰の朝霧にひとしお侘しい思いをいたしましたそのお話も、直接お目もじの上申し上げましょう。あちらの寝殿をお堂にするよう阿闇梨に言いつけて参りました。お許しをいただきました上で、外に移すこともいたしましょう。弁の尼にしかるべきお指図をお申しつけください、などとあります――

「『よくもつれなく書き給へる文かな。まろありとぞ聞きつらむ』とのたまふも、すこしは、げにさやありつらむ」
――匂宮が「よくもまあ、さりげない書きぶりをなさったものだ。わたしがこちらに居ると知ってのことだろう」とおっしゃいますが、なるほど、多少はそんな遠慮があったでしょう――

「女君は、事なきをうれしと思ひ給ふに、あながちにかくのたまふを、わりなしとおぼして、うちゑんじて居給へるさま、よろづの罪もゆるしつべくをかし」
――女君(中の君)は、特別の事も書いてないのを嬉しいとお思いになりますにつけ、匂宮がこんな風に無理に邪推なさるので、あんまりなとお思いになり、恨めしそうにしていらっしゃる。そのご様子は、どのような咎も許してしまえそうなほど、可憐な風情がおありになる――

「『かへりごと書き給へ。見じや』、とてほかざまにそむき給へり。あまえて書かざらむもあやしければ」
――(匂宮が)「お返事をお書きなさい。私は見ますまいよ」とおっしゃって、他の方を向いていらっしゃる。すねて書かないのも変なことなので――

「山里の御ありきのうらやましくも侍るかな。かしこはげに、さやにてこそよく、と思ひ給へしを、ことさらにまた巌の中もとめむは、荒らし果つまじく思ひ侍るを、いかにもさるべき様になさせ給はば、おろかならずなむ」
――山里へお出かけとのこと、お羨ましゅうございます。あの寝殿はそのようにするのが良いと、常々思っておりました。いつ出家するにしましても、わざわざ山深い巌の中の住処をさがしたりいたしますよりは、その時の用意に、あそこを荒れたままには置かないようにと思っておりましたので、いかにもそのようにして頂きましたら、有難く存じます――

 と、認め(したため)られました。

では10/11に。