永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(914)

2011年03月23日 | Weblog
2011.3/23  914

四十六帖 【総角(あげまき)の巻】 その(91)

 この夜は、どんなお咎めを蒙ろうともかまわないおつもりで、匂宮はこの山荘にお泊まりになられました。

「『物越しならで』といたく詫び給へど」
――「物越しではなく親しく御対面を」と、しきりに訴えられますが――

 中の君は、
「『今少し物おぼゆる程にて侍らば』とのみきこえ給ひて、つれなきを」
――「もう少し人心地がつきましてから」とだけお答え申して、素っ気なく、うち解けるご様子がありませんのを――

 薫もあまりこじれてはと、ご心配になり、しかるべき侍女をお呼びになって、

「御ありさまに違ひて、心浅きやうなる御もてなしの、昔も今も心憂かりける、月頃の罪は、さも思ひきこえ給ひぬべき事なれど、憎からぬさまにこそ勘がへたてまつり給はめ。かやうなる事まだ見知らぬ御心にて、苦しうおぼすらむ」
――こちらの中の君のお気持を軽んじて、匂宮が情なくしてこられた昔も今も御不快なことを思えば、中の君のお考えもご尤もですが、あまり頑なにならぬよう叱って差し上げなさるくらいになさるように。世に有りがちな男の夜離れ(よがれ)など、まだご経験もない中の君の御身では、さぞお辛いでしょうが――

 と、こっそり侍女をとおしてお世話をやかれますので、それとなくお聞きになっていらっしゃる中の君は、この薫の思惑も恥ずかしく、いよいよ匂宮へのお返事をしかねていらっしゃいます。

 匂宮が、

「あさましう心憂くおはしけり。きこえしさまをも無下に忘れ給ひけること」
――何という情けないお心持ちのお方でしょう。いつぞやあれほどお約束したことを、すっかりお忘れになったのですか――

 とひどくお嘆きになって、そのままそこで日をお暮しになります。

◆かやうなる事=結婚後は男性が女性の家に通うが、男とは所詮好きなように振る舞うもの、訪れなくなる夜が続く。

では3/25に。