2011.3/31 918
四十六帖 【総角(あげまき)の巻】 その(95)
匂宮から中の君には、
「なほかう参り来ることもいと難きを、思ひわびて、近うわたいたてまつるべき事をなむ、たばかり出でたる」
――なかなかこちらからあなたのいらっしゃる宇治へ参上しますことも難しく、思案の末、
あなたをこちらに近い所にお移し申し上げたいと、準備いたしました――
と、お手紙がきました。
「后の宮きこしめしつけて、中納言もかくおろかならず思ひほれて居たなるは、げにおしなべて思ひがたうこそは、誰もおほさるらめ、と、心ぐるしがり給ひて、二条の院の西の対にわたい給うて、時々も通ひ給ふべく、しのびてきこえ給ひければ、女一の宮の御方に、ことよせておぼしなるにや、とおぼしながら、おぼつかなかるまじきはうれしくて、のたまふなりけり」
――明石中宮がこれらのことをお知りになって、薫中納言が並み一通りでなく夢中になっておられたとのこと、その御妹君であるならば、匂宮としても、そうなおざりなお扱いになるわけもいかないでしょう、と、お気の毒の思われて、二条の院の西の対にお迎えして、時々そっとお通いになさっては、と、そっと仰せられたのでした。匂宮としては、もしや、母君は女一の宮の女房としてお側にお仕えさせることを口実に、そのように思いつかれたのかとお思いになりながらも、あれこれ気を揉まずに中の君に逢えることがうれしくて、あのように宇治におっしゃられたのでした――
「さななり、と、中納言も聞き給ひて、三條の宮も作りはてて、渡いたてまつらむことを思ひしものを、かの御代はりになずらへても見るべかりけるを、など、引きかへし心ぼそし。宮のおぼし寄るめりし筋は、いと似げなき事に思ひ離れて、大方の御うしろみは、われならでまた誰かは、とおぼすとや」
――そのような運びになったということを薫もお聞きになって、自分こそ三條の宮を造営し終えて大君をお移し申そうと思っていたものを、亡くなられた後は、中の君を身代わりになぞらえてでも見る(結婚)べきであった、と、返らぬ昔のことをわびしく思い出されるのでした。匂宮が邪推なされたらしい筋(薫が中の君と親しくなるということ)については、薫はまったくとんでもない思いすごしとして、中の君のお輿入れになるお世話役は自分以外に誰があろうと、薫はしきりに気負っておられますとか――
◆写真:御簾に下げられた総角(あげまき)
■四十六帖 【総角(あげまき)の巻】 終わり。
では4/1に。