永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(718)

2010年04月28日 | Weblog
2010.4/28  718回

四十四帖 【竹河(たけがわ)の巻】 その(5)

「正月の朔日ごろ、尚侍の御兄弟の大納言、「高砂」謡ひしよ、藤中納言、故大殿の太郎、真木柱のひとつ腹など参り給へり」
――正月の一日ごろに、玉鬘のご兄弟の大納言で、その昔、あの「高砂」をお謡いになった方(紅梅の巻の紅梅大納言・柏木の弟君)や、藤中納言、つまり亡くなられた髭黒大臣のご長男で、真木柱の姫君と同腹の方が、尚侍の御邸の許にお出でになりました――

「右の大臣も、御子ども六人ながら引き連れておはしたり。(……)世と共に、蔵人の君は、かしづかれたるさま異なれど、うちしめりて思ふことあり顔なり」
――右大臣(夕霧)も、ご子息たち六人を連れておいでになりました。(御子たちは皆ご容貌も優れ、年齢以上に官位も昇進なさっていて、何のご心配もなさそうにお見えになります)特に蔵人の少将は、大切にされておられるご様子ですのに、今日は塞ぎこんで、悩ましげなお顔でいらっしゃいます――

 夕霧は几帳越しに、玉鬘と当たり障りのないお話をなさっておりましたところ、玉鬘の方から、冷泉院から姫君を是非にとの御所望のありますことを、話し出され、

「はかばかしう、後見なき人のまじらひは、なかなか見苦しきをと、かたがた思ひ給へなむわづらふ」
――(大君の)ご入内には、夫も亡くなりまして、しっかりした後ろ楯が居りませんので、そのような人の宮仕えは、却って見苦しいものと、あれこれ思い煩っております――

夕霧は、

「内裏に仰せらるる事あるやうに承りしを、何方に思ほし定むべき事にか。院はげに、御位を去らせ給へるにこそ、盛り過ぎたる心地すれど、世に有難き御有様は、旧り難くのみおはしますめるを」
――今帝にもご入内の内意がおありと承っておりますが、お二方のうちのどちらへとお考えですか。冷泉院はなるほどご譲位なさったために、盛りを過ぎた感じがいたしますが、世に稀なご容貌は一向にお老けにならないご様子でございますが――

 私にも今の后、妃の中に立ち交じれるほどの娘がおりましたら、と残念でなりません、などと夕霧はおっしゃって、

「そもそも、女一の宮の女御はゆるし聞こえ給ふや。先々の人、さやうの憚りにより、とどこほる事も侍りかし」
――ただ、(冷泉院へのご入内は)女一の宮の御母でいらっしゃる弘徽殿女御が、そのご入内をご承知でございますか。前にもあの方へのご遠慮から、沙汰止みになったこともありましたよ――

◆女一の宮の御母でいらっしゃる弘徽殿女御=冷泉院と弘徽殿女御(故致仕大臣の姫君で柏木の妹君)の間の姫君で、女一の宮といいます。冷泉院の后である秋好中宮には、御子がいません。

ではまた。