永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(699)

2010年04月07日 | Weblog
2010.4/7   699回

四十二帖 【匂宮(にほふのみや)の巻】 その(4)

 夕霧は、どの方々に対しても、源氏の御遺志どおり変えることなく、公平に親のようなおつもりでお世話申しておられます。それにつけても、と夕霧のお心の内は、

「対の上の、かやうにてとまり給へらましかば、いかばかり心をつくして、仕うまつり見え奉らまし、つひに、いささかも取りわきて、わが心よせと見知り給ふべき節もなくて、過ぎ給ひにしこと」
――紫の上が、このように永らえておられたならば、どれほどに真心をつくしてお仕え申し上げることだろう。とうとう何一つ自分がお慕いしている気持ちにお気づきいただく折もないまま逝去してしまわれたことよ――

 と、いつまでもそのこと一つが心残りで、悲しくてならないのでした。

 世間の人々は、今でも源氏をお慕い申さぬ者はなく、世の中がまったく火の消えたようで、何事も栄えないのを歎かぬ時とてありません。源氏のお亡くなりになったこの上ない歎きはもとより、あの紫の上のご生前の面影を、六条院の女君たち、女房、御孫の宮たちは何かにつけて懐かしく思い出されるのでした。

「二品の宮の若君は、院の聞こえつけ給へりしままに、冷泉院の帝、とり分きておぼしかしづき、后の宮も、皇子方などおはせず、心細うおぼさるるままに、うれしき御後見に、まめやかに頼みきこえ給へり。御元服なども、院にてせさせ給ふ」
――二品の宮(女三宮)の若君の薫は、源氏が御後見をお頼みなされたとおり、冷泉院が特別お世話をされ、后の宮(秋好中宮)も御子がなくて心細いままに、やがてはこの若君をご自身のお世話役にと嬉しく思われて、心から力にしておられます。元服の式も冷泉院の御所でおさせになりました――

「十四にて、二月に侍従になり給ふ。秋、右近の中将になりて、御賜りの加階などをさへ、いづこの心もとなきにか、いそぎ加えておとなびさせ給ふ」
――十四歳で二月には侍従に任官され、秋には右近の中将に、またさらに冷泉院の思し召しで四位に叙せられますなど、一体何がお心がかりなのでしょうか、大急ぎで加階をおさせになり、薫を一人前にしておやりになります――

◆侍従(じじゅう)=中務(なかつかさ)省に属し、帝の近くにいて補佐、あるいは雑事に当たった。

◆右近の中将(うこんのちゅうじょう)=右近衛府の次官。従四位下相当。

◆冷泉院には一人の皇子もおられないので、ご自分の行く末を頼みとするためにも、薫に賭ける希望が大きい。ご自分の事情もある。

ではまた。