永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(705)

2010年04月13日 | Weblog
2010.4/13  705回

四十二帖 【匂宮(にほふのみや)の巻】 その(10)

 冷泉院が薫にでさえ女一宮へのお近づきを配慮されておりますのは、薫自信にとりましても良い事と思っていらして、

「若し、心より外の心もつかば、われも人もいとあしかるべき事」
――万が一、思いがけず恋心でも芽生えたなら、自分も女一宮も面倒なことになってしまうだろう――

 と、御承知なさって、無理に近づこうとはされない。薫は生まれつき誰にでも好かれるお人柄で、ふと言葉をかけられただけの女たちでも、すぐに靡くほどですので、
一時的な愛人は多いものの、

「人の為に、ことごとしくなどはもてなさず、いとよくまぎらはし、そこはかとなく情けなからぬ程の、なかなか心やましきを、思ひ寄れる人は、いざなはれつつ、三条の宮に参り集まるはあまたあり」
――(しかし)その女の為に、特別なお計らいなどはせず、適当に程々にして、薄情とまでは思われないのが、女には却って気が揉めるようで、薫にあこがれている女はそれに引かれて、三條の邸にお仕えしようと集まって来る者たちが大勢います――

 女たちにとって、もはや自分に無関心な態度の薫を見ては、心苦しいに違いないのですが、それでも全く縁が切れてしまうよりは、ちょっとしたご縁を頼みとして留まっているのでした。

 薫は常々、

「宮のおはしまさむ世のかぎりは、朝夕に御目かれずご覧せられ、見奉らむをだに」
――母宮のご在世中は、朝夕お側を離れずに居る事を、せめてもの親孝行にしたい――

 とおっしゃっていますのを、夕霧もお聞きになっていて、

「あまたものし給ふ御むすめたちを、一人一人は、」
――(ご自分の姫君たちが)たくさん居るそのだれか一人を、この薫の妻にしたいものだ――

 と、お心の内では考えていらっしゃいますが、なかなか言葉にはお出しになれない。

ではまた。