永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(709)

2010年04月19日 | Weblog
2010.4/19  709回

四十三帖 【紅梅(こうばい)の巻】 その(3)

 確かに内裏からも東宮からも御縁談の御内意がありますが、大納言のお心の内では、

「内裏には中宮おはします、いかばかりの人かは、かの御けはひに並び聞こえむ、さりとて思ひおとり、卑下せむもかひなかるべし、東宮には、右の大殿の女御、並ぶ人なげにて侍ひ給ふは、きしろひにくれど、然のみ言ひてやは、人にまさらむと思ふ女子を、宮仕えに思ひ絶えては、何の本意かはあらむ」
――今帝には明石中宮がいらっしゃって、いったいどれほどの人が中宮と寵を競えることだろう。といって、始めから及ばぬ事と諦め、卑下していても甲斐がなかろう。東宮にはまた、右大臣の御長女が、並ぶ者のない有様でお仕えになっていて、御寵愛は競いにくい程だ。だが、そんなことを言っていてもいられまい。親の目には人並み以上と思う娘を持ちながら、宮仕えの望みを捨てさっては、何の本意があろうか――

 という気になって、東宮に大君を差し上げられました。この方は十七、八歳くらいで、
美しく艶やかな御器量でいらっしゃいます。次の中の君も、上品で奥ゆかしく、清楚な美しさでは姉君にも勝るほどで、大納言としては、

「ただ人にてはあたらしく見ませ憂き御様を、兵部卿の宮の然も思したらば」
――ただ人(臣下)では惜しくて、縁付けるには厭なほど娘は美しいので、匂宮が所望してくだされば結構なのだが――

 と、思っていらっしゃる。

その匂宮は、内裏で若君(大納言と眞木柱の子・大夫の君)を呼び寄せては、

「せうとを見てのみはえやまじと、大納言に申せよ」
――あなたを弟と思って付き合っているだけではつまらない、と、お父上に申し上げよ。(暗に姉上にお逢いしたい)――

 と言われますので、そのことを大納言に申し上げますと、「これでこそ娘を持った甲斐があるというものだ」と微笑まれて、

「人におとらむ宮仕えよりは、この宮にこそは、よろしからむ女子は見せ奉らまほしけれ。心のゆくに任せて、かしづきて見奉らむに、命延びぬべき宮の御様なり」
――人に負けをとるような宮仕えよりも、この匂宮にこそ、相当な器量の女の子のわが娘を差し上げて、婿として思いのままにお世話申しあげたならば、こちらの寿命も延びるというものよ――

 と、大納言は、わが娘の、中の君を考えていらっしゃる。

◆きしろひにくれど=競(きし)ろいにくい。競争しにくい。 

◆あたらしく=惜(あたら)しがる=惜しい、残念だ。

◆見ませ憂き御様=縁付けるには勿体ない有様

◆大君(おおいぎみ・長女)、中の君(なかのきみ・次女)といって、順序で呼ぶ。

ではまた。