永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(657)

2010年02月22日 | Weblog
2010.2/22   657回

三十九帖 【夕霧(ゆうぎり)の巻】 その(72)

 雲井の雁の返歌は、

「人の世のうきをあはれと見しかども身にかへむとは思はざりしを」
――他人の夫婦仲の悪さをあわれと思ったことはありましたが、自分の身の上に置き換えては考えもしませんでした――

 これだけのお歌を、典侍は、これが北の方のお心のまま詠まれたものでしょうと、お気の毒に思うのでした。この藤典侍(とうないしのすけ)という人は、

「この昔御中絶えの程には、この内侍のみこそ、人知れぬものに思ひとめ給へりしか。ことあらためて後は、いとたまさかに、つれなくなりまさり給うつつ、さすがに君達はあまたになりにけり」
――昔、夕霧と雲井の雁の御仲が割かれていました頃は、夕霧はこの典侍だけを密かに愛人にしておられたのでした。その後夕霧が雲井の雁と正式に結婚なさって後は、訪れることも間遠くなるばかりでしたが、それでも子供は大勢いらっしゃる――

 北の方の雲井の雁腹の子供は、太郎君、三郎君、四郎君、六郎君、大君(おおいぎみ)、中の君、四の君、五の君の四男四女がいらっしゃいます。
 藤典侍腹には、三の君、六の君、次郎君、五郎君の二男二女と、全部で十二人のお子たちがおいでになりますが、出来のわるい子はなく、みなそれぞれに立派に成長なさっているのでした。

「典侍腹の君達しもなむ、容貌をかしう、心ばせかどありて、皆優れたりける。三の君、次郎君は、東の御殿にぞ、とりわきてかしづき奉り給ふ。院も見馴れ給うて、いとらうたくし給ふ」
――藤典侍から生まれた子供たちは一際顔かたちが良く、才気があって皆立派です。三の姫君と次郎君は、六条院の花散里の許で特に養育されておられます。源氏もこの二人をいつもご覧になって可愛がっていらっしゃる――

「この御仲らひのこと、言ひやる方なくとぞ」
――この夕霧と雲井の雁、落葉宮、藤典侍の関係はいったいどうなって行くのか、
何とも申し上げようもありません。

◆藤典侍(とうのないしのすけ)=源氏の従者である惟光の娘で、かつて五節の舞姫に選ばれたときから、夕霧が愛人とした。身分が低い(貴族ではない)ので、妻の一人とは言われぬ立場。夕霧が女の関係で真面目だと言われるのは、貴族の女たちと浮名を流さなかったというだけである。

三十九帖 【夕霧(ゆうぎり)の巻】終わり。

2日間お休みします。2/25から、ではまた。