永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(650)

2010年02月15日 | Weblog
 2010.2/15   650回

三十九帖 【夕霧(ゆうぎり)の巻】 その(65)

「かうのみしれがましうて、出で入らむもあやしければ、今日はとまりて、心のどかにおはす。かくさへひたぶるなるを、あさましと宮は思いて、いよいよ疎き御気色のまさるを、をこがましき御こころかなと、かつはつらきもののあはれなり」
――(夕霧は)いつもこんな風に宮に振られた姿で出入りするのも見っともないので、今日はこのお屋敷に泊まられてのんびりなさいます。(落葉宮は)これほど強引な夕霧のお気持を困ったことだと思われて、一層冷淡になさるのを、(夕霧は)何と馬鹿馬鹿しいお振舞いをなさる方かと恨めしくお思いになる一方で、可哀そうにもなるのでした――

 塗籠には、そう物も多くなく、香の御唐櫃や御厨子などは片端に寄せてあり、間に合わせの御座所が設えてあります。中は暗いようでしたが、朝日が隙間から洩れてきましたので、夕霧は、

「うづもれたる御衣引き遣り、いとうたて乱れたる御髪、かき遣りなどして、ほの見奉り給ふ。いとあてに女しう、なまめいたるけはひし給へり」
――宮がひき被っていましたご衣裳を引き離し、ひどく乱れた髪をかき遣りなどして、そっと落葉宮をご覧になる。宮はたいそう女らしく上品で、優雅の様子をしておられました――

 落葉宮からご覧になる夕霧は、

「男の御さまは、うるはしだち給へる時よりも、うちとけてものし給ふは、限りもなう清げなり」
――夕霧のご様子は、きちんとしておられる時よりも、こう寛いでいらっしゃる方が、一層綺麗です――

 宮は、お心の内で、

「故君の異なる事なかりしだに、心の限り思ひあがり、御容貌まほにおはせずと、事の折に思へりし気色を思しいづれば、ましてかういみじうおとろへにたる有様を、しばしにても見忍びなむや」
――亡くなられた夫の柏木が、特別美男であったわけでもありませんでしたのに、自惚れて、私の器量が良くないといつかの折に思っていたらしいことを思い出して、まして今は、こうもやつれた自分を、夕霧が一時でも我慢して見てくださるだろうか――

 と、お思いになるものの、ひどく恥ずかしがっていらっしゃる。と、あれこれ思いを巡らして、

「わが御心をこしらへ給ふ」
――ご自分のお心を整えようとなさる――

ではまた。