永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(652)

2010年02月17日 | Weblog
 2010.2/17   652回

三十九帖 【夕霧(ゆうぎり)の巻】 その(67)

 つづいて夕霧は、

「この大臣もはた、おとなおとなしうのどめたる所さすがになく、いとひききりに花やい給へる人々にて、めざまし、見じ、聞かじなど、ひがひがしき事どもし出で給うつべき」
――あの父大臣も、遠慮深く落ち着いたところのない方で、一徹で華やいでいる人がお揃いのご一家なので、ああ癪な、絶対合わぬ、何も聞かぬなどと、とんだ騒動が持ち上がるかも知れない――

 と驚かれて、急いで本宅の三條邸にお帰りになってみますと、

「君たちもかたへはとまり給へれば、姫君たち、さてはいと幼きとをぞ牽ておはしにける。見つけてよろこび睦つれ、あるは上を恋ひ奉りて、憂へ泣き給ふを、心苦しと思す」
――男君の内何人かは残っておられ、雲井の雁は姫君たちとごく幼いお子を連れて、ご実家に行かれたのでした。子供たちは夕霧を見つけて喜んで纏わりつき、ある子は、母の雲井の雁を慕って泣かれますのを、ああ可哀そうにとお思いになります――

 夕霧は何度も雲井の雁にお便りをなさって、迎えのお使いを上げたりなさいますが、お返事ひとつありません。

「かくかたくなしう軽々しの世やと、ものしう覚え給へど、大臣の見聞き給はむ所もあれば、暮らして自ら参り給へり。寝殿になむおはするとて、例の渡り給ふ方は、御達のみさぶらふ。若君たちぞ、乳母に添ひておはしける」
――(夕霧は)何と分からず屋で軽率な女かと癪にさわりますが、致仕大臣の手前もありますので、日暮を待ってご自分から参上しました。雲井の雁は女御のいらっしゃる寝殿の方においでになるということで、いつものお部屋には女房たちだけがおります。幼子には乳母が付き添っております――

 夕霧は雲井の雁に向かって、

「今更に若々しの御交じらひや。かかる人を、ここかしこに落しおき給ひて、など寝殿の御交じらひは」
――今になって娘のようなご態度ですね。こんな小さな子供たちを、あちこち放っておいて、今更寝殿へのご奉公とはあきれたものです――

ではまた