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【明石】の巻 その(17)
御出立の朝、源氏は岡辺を夜深く出られて、心も、うわの空ながら、人目を忍んで文を交します。源氏の打ち萎れられたご様子を、深い事情を知らない人は、不思議に思うようです。
良清は、かの明石の御方に未練を残される源氏をねたましく眺めています。
入道は、いつの間にか、この日の為のお支度を立派に整えて、お供の人々にも旅の御装束を準備しておりました。都への土産もすべて立派なものを揃えております。
明石の御方からは、御狩衣に添えてのうたに、
「寄る浪にたちかさねたる旅ごろもしほどけしとや人のいとはむ」
――この浦でご用意しました旅のご装束ですから、涙に濡れていてお嫌いになるでしょうか――
源氏の返し
「かたみにぞ換ふべかりける逢ふ事の日数へだてむ中のころもを」
――形見として着替えるべきでした。再びお逢いするまでは日数のかかる形見ですから――と言って、早速贈られた御衣に着替えられて、今の御装束を明石の御方に遣わします。
入道は、思い出してくださる折りがありましたら、娘にお便りを…と半べそをかきながら言います。
その姿を若い人たちが見たらきっと笑い出してしまうでしょうよ。(作者のことば)
源氏も
「思ひ捨て難き筋もあめれば、今いと疾く見なほし給ひてむ。」
――忘れにくい事情(妊娠)もある様子ですから、そのうち私の本心を理解頂けるでしょう――と涙をぬぐわれるのでした。
入道は一層不覚の涙にくれ、立ち居さえおぼつかい有様です。
ではまた。
【明石】の巻 その(17)
御出立の朝、源氏は岡辺を夜深く出られて、心も、うわの空ながら、人目を忍んで文を交します。源氏の打ち萎れられたご様子を、深い事情を知らない人は、不思議に思うようです。
良清は、かの明石の御方に未練を残される源氏をねたましく眺めています。
入道は、いつの間にか、この日の為のお支度を立派に整えて、お供の人々にも旅の御装束を準備しておりました。都への土産もすべて立派なものを揃えております。
明石の御方からは、御狩衣に添えてのうたに、
「寄る浪にたちかさねたる旅ごろもしほどけしとや人のいとはむ」
――この浦でご用意しました旅のご装束ですから、涙に濡れていてお嫌いになるでしょうか――
源氏の返し
「かたみにぞ換ふべかりける逢ふ事の日数へだてむ中のころもを」
――形見として着替えるべきでした。再びお逢いするまでは日数のかかる形見ですから――と言って、早速贈られた御衣に着替えられて、今の御装束を明石の御方に遣わします。
入道は、思い出してくださる折りがありましたら、娘にお便りを…と半べそをかきながら言います。
その姿を若い人たちが見たらきっと笑い出してしまうでしょうよ。(作者のことば)
源氏も
「思ひ捨て難き筋もあめれば、今いと疾く見なほし給ひてむ。」
――忘れにくい事情(妊娠)もある様子ですから、そのうち私の本心を理解頂けるでしょう――と涙をぬぐわれるのでした。
入道は一層不覚の涙にくれ、立ち居さえおぼつかい有様です。
ではまた。