先月のこと、大阪地裁で画期的な判決が下されました。史上はじめて「プロ馬券師」が認められた。競馬の当たり外れは棚ボタで、長期にわたって継続して正確に当落を予想することはできないはずだ。宝くじと同じで、相場師などはあり得ない。という常識がくつがえった。裁判所は「競馬はコンピュータ予想で継続的に利益を出すことが可能である」という判断を下した。判決は実質無罪。
5月23日午前10時、大阪地裁で最も大きい201号法廷には判決を聞こうと競馬ファンら傍聴希望者が詰めかけた。ダークスーツ姿の被告男性は緊張した表情で入廷。西田真基裁判長に促されて、ゆっくりと証言台の前に立った。
裁判長が主文を言い渡す。
「被告人を懲役2月に処す。判決確定の日から2年間、刑の執行を猶予する」
有罪宣告。だが、その後に地裁が認定した所得額と税額が読み上げられると、法廷の空気がにわかに緊張を帯び始める。検察側が起訴した金額からいずれも大幅に減額されていたからだ。
男性は競馬で稼いだ所得など約14億6千万円を申告せず、2009年までの3年間で所得税計約5億7千万円の支払いを免れたとして、2011年2月に在宅起訴された。
ところが判決の認定所得額は約1億6千万円、所得税額は約5200万円。検察、国税側が事実上、「敗北」した瞬間だった。
男性にとっては、競馬に翻弄された日々だった。
彼はインターネットを利用しながら、過去10年間のデータを入れた独自の競馬予想ソフトを市販ソフトから改良した。2004年から100万円を元手に、JRAのネット購入システムIPATで勝負を開始した。もしもこの資金がなくなればあきらめる覚悟であったという。元手は翌年には数百万円の利益を上げることに成功した。その後も毎年増え続ける。……
公判を分けたのは、男性の馬券の購入方法だった。
検察側は、競馬の勝敗は偶然に左右されるもので、もうけは一時的に生じる所得である「一時所得」だと主張し、外れ馬券は経費と認められないと主張。一方、弁護側は、男性が長期間、継続的に大量の馬券を購入していることから、「一時所得には当たらず雑所得」と反論していた。
一時所得は給与所得や不動産所得などでなく、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外のもの。懸賞や福引の賞金、パチンコのもうけなどで、経費にできるのは「収入に直接要した金額」となっている。年90万円以上の一時所得は申告の義務がある。
一方、雑所得は税法上のいずれの分類にも当てはまらないもので、先物取引や外国為替証拠金(FX)取引によるもうけが該当する。控除できるのは、「所得を生むための費用」と比較的緩やかだ。
そして、大阪地裁判決。
西田裁判長は男性のケースについて、「一般とは異なり、長期にわたって網羅的に馬券を購入している」と指摘。「金額も多額で、娯楽の域にとどまらない利益を得るための資産運用の一種」として、一時所得に当たらないと判断した。この結果、男性の購入した外れ馬券も経費と認められ、支払うべき税額は約10分の1にまで大幅減額された。……
http://www.zakzak.co.jp/society/domestic/news/20130527/dms1305271531002-n1.htm
彼は確かに、起訴された3年間で30億円をこえる払い戻し金を得た。しかしはずれ馬券や当たり馬券の購入費用を差し引きすれば、実質利益は2億円に届かない。6億円近い税金など払えるわけがない。
競馬の収入は宝くじ同様に非課税にすべきだろう。JRAはこの問題について、改善の努力をこれまで一切していない。当事者責任を疑います。
彼は刑事被告人になると勤務していた会社からは退職勧告を受け失職。手持ちの資金は納税用にすべて預け預貯金も尽き果てた。「妻は毎日泣いている」とインタビューに答えていた。
国税当局はなぜはずれ馬券を経費として認めようとしなかったのか? その答えは競馬場に行けばわかる。あたり一面にはずれ馬券が山ほど捨ててある。経費に認めれば、ゴミが宝の山に変身してしまう。
気になるのが彼の構築したコンピュータソフト。まず過去10年間のデータを入力したのだが、元資料はJRA-VANやJRDB(電子競馬新聞)。データを独自に分析し、回収率に影響を与えるファクター、前走着順や血統、騎手、枠順、牡牝、負担重量など40項目以上を機械的に自動判断する材料にした。また回収率の高い馬をあぶり出す計算式を作成。
彼の作った独自ソフトの中身は裁判でも明らかにされていない。気になる点ですが、ひとつ分かっているのは「前回のレースで5~7着に入った馬は、好走する確率が高い割に人気になりにくく、高いリターンが期待できる」
馬券のオンライン発注も完全に機械任せのシステムを開発した。2週間以上もパソコンを放ったらかしにしていたこともあるが、その間にも資産はどんどん増えていった。中央競馬のピンハネは25%。ふつうに馬券を延々と買っておれば、払い戻し率の75%しか返ってこない。彼の成果は5年間で104.4%という驚異的な数字であった。ほぼ30%オーバーである。
1レース約百点、1日ほぼ千点、毎日千万円以上の馬券を購入し続けた。そして購入と当落の記録はすべてPCに残っている。はずれを経費と認められたのもこの証拠あればこそである。
さて馬券界のこの寵児は「マスター」と尊称され、競馬ファン垂涎の相場師であった。伝説のギャンブラーは「競馬はもうこりごり。卒業しました」。判決からまだ1ヶ月。近いうちに勝負師として、別の相場に再び登場してほしい。ちなみに彼は、2008年リーマンショックで七千万円も損をしたそうです。株式で雪辱戦をやりましょう。わたしは喜んで提灯持ちをつとめます。
<2013年6月22日>
5月23日午前10時、大阪地裁で最も大きい201号法廷には判決を聞こうと競馬ファンら傍聴希望者が詰めかけた。ダークスーツ姿の被告男性は緊張した表情で入廷。西田真基裁判長に促されて、ゆっくりと証言台の前に立った。
裁判長が主文を言い渡す。
「被告人を懲役2月に処す。判決確定の日から2年間、刑の執行を猶予する」
有罪宣告。だが、その後に地裁が認定した所得額と税額が読み上げられると、法廷の空気がにわかに緊張を帯び始める。検察側が起訴した金額からいずれも大幅に減額されていたからだ。
男性は競馬で稼いだ所得など約14億6千万円を申告せず、2009年までの3年間で所得税計約5億7千万円の支払いを免れたとして、2011年2月に在宅起訴された。
ところが判決の認定所得額は約1億6千万円、所得税額は約5200万円。検察、国税側が事実上、「敗北」した瞬間だった。
男性にとっては、競馬に翻弄された日々だった。
彼はインターネットを利用しながら、過去10年間のデータを入れた独自の競馬予想ソフトを市販ソフトから改良した。2004年から100万円を元手に、JRAのネット購入システムIPATで勝負を開始した。もしもこの資金がなくなればあきらめる覚悟であったという。元手は翌年には数百万円の利益を上げることに成功した。その後も毎年増え続ける。……
公判を分けたのは、男性の馬券の購入方法だった。
検察側は、競馬の勝敗は偶然に左右されるもので、もうけは一時的に生じる所得である「一時所得」だと主張し、外れ馬券は経費と認められないと主張。一方、弁護側は、男性が長期間、継続的に大量の馬券を購入していることから、「一時所得には当たらず雑所得」と反論していた。
一時所得は給与所得や不動産所得などでなく、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外のもの。懸賞や福引の賞金、パチンコのもうけなどで、経費にできるのは「収入に直接要した金額」となっている。年90万円以上の一時所得は申告の義務がある。
一方、雑所得は税法上のいずれの分類にも当てはまらないもので、先物取引や外国為替証拠金(FX)取引によるもうけが該当する。控除できるのは、「所得を生むための費用」と比較的緩やかだ。
そして、大阪地裁判決。
西田裁判長は男性のケースについて、「一般とは異なり、長期にわたって網羅的に馬券を購入している」と指摘。「金額も多額で、娯楽の域にとどまらない利益を得るための資産運用の一種」として、一時所得に当たらないと判断した。この結果、男性の購入した外れ馬券も経費と認められ、支払うべき税額は約10分の1にまで大幅減額された。……
http://www.zakzak.co.jp/society/domestic/news/20130527/dms1305271531002-n1.htm
彼は確かに、起訴された3年間で30億円をこえる払い戻し金を得た。しかしはずれ馬券や当たり馬券の購入費用を差し引きすれば、実質利益は2億円に届かない。6億円近い税金など払えるわけがない。
競馬の収入は宝くじ同様に非課税にすべきだろう。JRAはこの問題について、改善の努力をこれまで一切していない。当事者責任を疑います。
彼は刑事被告人になると勤務していた会社からは退職勧告を受け失職。手持ちの資金は納税用にすべて預け預貯金も尽き果てた。「妻は毎日泣いている」とインタビューに答えていた。
国税当局はなぜはずれ馬券を経費として認めようとしなかったのか? その答えは競馬場に行けばわかる。あたり一面にはずれ馬券が山ほど捨ててある。経費に認めれば、ゴミが宝の山に変身してしまう。
気になるのが彼の構築したコンピュータソフト。まず過去10年間のデータを入力したのだが、元資料はJRA-VANやJRDB(電子競馬新聞)。データを独自に分析し、回収率に影響を与えるファクター、前走着順や血統、騎手、枠順、牡牝、負担重量など40項目以上を機械的に自動判断する材料にした。また回収率の高い馬をあぶり出す計算式を作成。
彼の作った独自ソフトの中身は裁判でも明らかにされていない。気になる点ですが、ひとつ分かっているのは「前回のレースで5~7着に入った馬は、好走する確率が高い割に人気になりにくく、高いリターンが期待できる」
馬券のオンライン発注も完全に機械任せのシステムを開発した。2週間以上もパソコンを放ったらかしにしていたこともあるが、その間にも資産はどんどん増えていった。中央競馬のピンハネは25%。ふつうに馬券を延々と買っておれば、払い戻し率の75%しか返ってこない。彼の成果は5年間で104.4%という驚異的な数字であった。ほぼ30%オーバーである。
1レース約百点、1日ほぼ千点、毎日千万円以上の馬券を購入し続けた。そして購入と当落の記録はすべてPCに残っている。はずれを経費と認められたのもこの証拠あればこそである。
さて馬券界のこの寵児は「マスター」と尊称され、競馬ファン垂涎の相場師であった。伝説のギャンブラーは「競馬はもうこりごり。卒業しました」。判決からまだ1ヶ月。近いうちに勝負師として、別の相場に再び登場してほしい。ちなみに彼は、2008年リーマンショックで七千万円も損をしたそうです。株式で雪辱戦をやりましょう。わたしは喜んで提灯持ちをつとめます。
<2013年6月22日>
まあ、ネット上の出来事はこんなものでしょう。京都新聞の「現代のことば」も足掛け5年でおしまいのようです。その前に京都新聞の滋賀版に2年ほど連載を持っていましたので、都合7年近くの連載となるとネタも尽きようというものです。
浜矩子さんや千宗室さん、上野千鶴子さんたちも一斉に退場となりましたから、そろそろ引き時かもしれませんね。
高知県の津波、地方紙や居酒屋のことなどなど、あらためて思い出しております。
きっとまた近いうちに新規連載がはじまることでしょう。その時にはご案内ください。
ところで消えてしまった長文、気になります。