ふろむ播州山麓

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物言う魚 第4回<古代インドの霊魚>

2014-12-20 | Weblog
ところで世界最古級と考えられる洪水の「霊魚」のことは、インド神話に記されている。魚の名はガーシャという。この神話の誕生は、一万年前に近い昔と考えられる。
 ある日の朝、人間の祖先であるマヌが水を使っていると、一匹の魚が彼の手の中に入った。その魚は、洪水(海進)が起こって生類を全滅させるであろうと予言し、その時にマヌを助けるから自分を飼ってくれと頼んだ。マヌは言われた通りにして魚を飼った。その魚は大きくなり、マヌはそれを海に放った。その際、魚は洪水が起こる年を告げ、その時には用意した船に乗って自分から離れずに来るようにと言い残した。
 果たせるかな、魚が予告した年に洪水が起こった。マヌが船に乗ると、大魚ガーシャが近づいて来た。マヌはガーシャの角(つの)にロープで船をつないだ。魚は北方の山、ヒマラヤでマヌを下ろした。マヌは魚に言われたように、水が引くに従って少しずつ下に降りた。その場所は「マヌの降りた所」と呼ばれている。洪水はすべての生類を滅ぼし、この地上にマヌだけが残った。しかしその後、ひとりの女性(マヌの娘)が現れ、ふたりは人類の子孫の祖となる。

 マヌの物語について、『インド神話』訳者の上村勝彦は「この洪水伝説は旧約聖書の箱舟を連想させる。それはまた、バビロニア、更にはシュメールの洪水伝説にさかのぼる。洪水伝説はギリシアや北アメリカ大陸にもあり、その他、チベットやネパールなど世界各地の神話に見出されている」
 旧約聖書の「ノアの方舟」は大洪水の神話として有名だが、ノアに海進である大水害のことを教えたのは、主ヤハヴェである。一神教では神の魚など登場しない。神は唯一、主のみである。
 しかしこの神話は古代メソポタミアの洪水伝説を祖型としている。旧約聖書が誕生する数千年前、シュメール時代にすでに同様の話が、粘土板に楔形文字で刻まれていた。
 約五千年前の『ギルガメシュ叙事詩』では、王ギルガメシュに「洪水に備えて箱船をつくれ」と教えたのは、多神教世界の神「エア」だった。エア、別名エンキはシュメール神話世界の神のひとりだが、上半身は人間、下半身は魚で魚の尾をもつ魚神である。この洪水神話の原型は、すでに六千年ほど前に記されている。
<2014年12月20日 南浦邦仁>
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